第25話 食事会
そして夕方頃になり、メインの肉が完成した。
仕上げに湯煎したかぼちゃと玉ねぎをミキサー機に入れ、そこに牛乳を入れて混ぜる。
これでかぼちゃスープの完成だ。
後は皆がサラダを盛り付けてる間に、俺は肉を薄切りにしていく。
すると、アルルが興味深そうに覗き込んできた。
「わぁ……! 赤くて綺麗!」
「だろ?」
「でも、これって生じゃないの?」
「ふふふ、これは生だけど生じゃないんだよ。低温調理と言って、余熱によって中にまで火が通るんだぞ」
これも師匠が教えてくれた調理法だ。
こうすれば肉が柔らかくなるし、余熱で時間をかけたので肉汁も漏れない。
「うーん……よくわかんない」
「ははっ、そうだよな。大丈夫、お父さんも原理を理解してるわけじゃないから。さて、カエデと一緒に切った肉をご飯の上に盛り付けてくれるか? その間に、ささっとソースを作るから」
「うんっ!」
そちらは二人に任せ、肉を焼いていたフライパンにバターを入れる。
火にかけたら摩り下ろした玉ねぎとにんにく、醤油、酒、砂糖を入れて混ぜていく。
これを一煮立ちさせたら、ソースの完成だ。
それを、盛り付けられた肉の上に乗せていく。
「これで完成だ。ローストビーフの玉ねぎ仕立てソースってところか」
「美味しそう!」
「ふふふ、これは美味いぞ〜。よし、全部出来たしテーブルに運ぼうか」
全員分が揃ったので、皆で協力してテーブルに皿を持っていく。
四人テーブル席の中、俺の隣にアルル、対面にカエデとカイルが座る。
サクヤだけには特大の肉盛りを用意し、床の上に置いた。
「にいちゃん、早く早く!」
「兄さん! お腹減った!」
「ククーン……!」
「わ、わたしも!」
その姿は懐かしき日々の光景を思い出す。
師匠とヨルさんを含めた家族十二人で、食卓を囲んでいた日々を。
残りの六人も、元気でやっているといいが。
「ではいただきます」
「「「いただきます!!!」」」
「アォン!」
俺の言葉を合図に、皆がローストビーフ丼をかきこむ。
本当ならサラダからと言いたいところだが、今日は無粋なことは言うまい。
そして、対面にいるカエデとカイトが目を見開く。
「うめぇ……! 甘めのタレと肉がご飯に合うぜ!」
「これよこれ! 口の中で溶けるような柔らかさ!」
「アオーン!」
どうやら、満足してもらったようだ。
ふと隣を見ると、アルルが固まっていた。
「………」
「どうした? 口に合わなかったか?」
「……おいしぃ……おいしいよぉ」
その目からは、ポロポロと涙が溢れていく。
「おっ、いや、泣かなくても……」
「うんうん、気持ちはわかるぜ」
「兄さんの料理を初めて食べた時も、私達泣いちゃったしね」
……そういや、そうだったな。
二人とも、泣きながら食ってたっけ。
「えぐっ、ごめんなさい……」
「謝ることはないさ。さあ、食べなさい」
「うん……んぐっ」
「大丈夫だ、誰も盗りはしない。ゆっくりでいいから」
背中を優しく摩ると、アルルがコクリと頷く。
見ていると食べ辛いと思うので、俺も食べることにする。
そして一口食べた瞬間……肉が口の中で無くなった。
「うむ、これは美味いな」
低温調理されたことで、肉にじっくりと火が通ったので硬くなってない。
玉ねぎの酵素もあり、蕩けるような口どけだ。
甘めのタレはご飯との相性も良く、いくらでも食べられそうだ。
「にいちゃん、お代わり!」
「私も!」
「おいおい、まだサラダもスープも飲んでないじゃないか。まずは、そっちを食べてからだ」
俺の言葉に、二人が気まずそうにサラダを食べ始める。
全く、こういうところはまだまだ子供だな。
その間にご飯と肉をよそって戻ると、アルルがこっちを向いて笑う。
「お父さん、このスープも甘くて美味しい!」
「アォン!」
「サクヤちゃんも気に入ったって!」
「おっ、そいつは良かった。かぼちゃは栄養価も高いし、しっかり飲んでおきなさい」
「はーい!」
この子は歳の割に細いし小さい。
骨を作る牛乳もそうだが、色々と栄養価の高い食事を与えねばな。
それに運動なんかもさせたほうがいいか。
「どれ、スープも飲んでみるか……美味い」
牛乳を少なめにしたので、どろっとした食感がいい。
玉ねぎの甘みとかぼちゃの甘みだけなので余分な甘さがないのも良い。
ローストビーフが素材の味を生かしているので、こちらも素材の味を出しておいた。
料理とはバランスと調和が大事だと、師匠も言っていたな。
「にいちゃん! サラダ食べたぜ!」
「お肉食べてもいい!?」
「はいはい、食べなさい」
「「わーい!!」」
そう言って喜んで食べる姿は、まるで小さな子供の様だ。
やれやれ、少しは大人になったと思ったが……まだまだ子供だな。
だがそんな姿を見て、逆に少し嬉しくなる自分がいたのだった。
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