第26話 女の子は大変
再会から二日後、俺はカエデの部屋に呼び出されて説教されていた。
俺は大人しく正座し、その言葉を受け入れる。
ちなみにサクヤとアルルは、カイトの部屋にいるのでいない。
「兄さん?」
「はい、すみません」
最年長が最年少に叱られ、兄としての威厳はまるでなし。
しかし、それも仕方のないこと。
「全く……初日は大して気にならなかったけど、まさか今日も《同じ服》を着てくるとは思わなかったわ」
「面目無い。一応、新品ではあるのだが」
「そういう問題じゃないと思うの。女の子なんだから、色々着たいに決まってるよ」
そう、俺が叱られているのはアルルの格好についてだ。
流石に洋服を買ってあるが、そのどれもが地味で似たような無地のだった。
そこを、カエデに突っ込まれてしまった。
「だが、俺は女の子の服などわからん。そもそも、あの秘境の里では皆がほぼ同じ格好だった」
「それはそうだけど……私も、こっちに来て苦労したし。ともかく、洋服を買いに行かないと」
「すまんが頼む」
「うん、任せて……兄さん、ありがとね」
「ん? なんの話だ?」
「私は一番下だったから妹が欲しかったんだ」
そう言い、頬をぽりぽりとかいた。
この子は姉や兄に可愛がられてきた。
だから、自分がして貰ったことをしてあげたいのかもしれない。
「礼を言うのは俺の方だ。アルルを妹と言ってくれて感謝する」
「そんなの当たり前じゃん。私達は血は繋がってなくても家族なんだから」
「ああ、そうだな」
「ほ、ほら! 早く行こ!」
照れ臭そうにしながら、部屋を出て行く。
俺は苦笑しつつも、後を追って部屋を出るのだった。
◇
……そして、今に至るわけだが。
女子の買い物は大変だと言うことを思い出した。
追放される前にユリア達に連れられた時も、こんな感じだった気がする。
「兄さん、これは?」
「いいんじゃないか」
「もう! そればっかり!」
「い、いや、そう言われてもだな……」
何を見せられても同じようにしか見えん。
何せ元々が美少女だから、可愛い系を着たらなんでも似合うし。
すると、アルルが服を握りしめて俯いてしまう。
「お、お父さん、わたしと買い物してもつまらない……?」
「……兄さん?」
その目は兄を見る目ではなく、クズを見る目だった。
まずい! 積み上げた兄の威厳が消える気がする!
「そ、そんなことはないぞ! どれも可愛くて同じに見えてしまうんだ!」
「……可愛い?」
「あ、ああ! 可愛いさ!」
「えへへ」
そう言い、花が咲いたように笑う。
ふと、カエデと目がいうと『やればできるじゃん』と言われた気がした。
どうやら、兄の威厳はギリギリで守られたようだ。
「よ、よーし! それじゃ、それらを買っていこうか!」
「兄さん、待って」
出て行こうとした俺の肩を、カエデが触れて引き止める。
振り返ると、何やらにっこりしていた。
「ん? どうした? 服はこれだけあれば足りるだろう?」
「ここに、可愛い妹がいるんだけどなー」
「……買わせて頂きます」
「えへへ、兄さんありがと!」
「へいへい、現金なこって」
やれやれ、兄の威厳を保つのも大変だ。
その後、アルルと一緒にカエデの服を選ぶ。
それが終わる頃には、夕方になっていた。
アルルはうとうとしていたので、俺がたつこしている。
それもあり、買った物は後日宿に送ってもらうことになっていた。
「うーん、買った買った」
「こ、こんなに買ってもらっていいのかな?」
「いいのいいの、兄さんには趣味とかないし。どうせ、鍛錬や料理が趣味とかいうんだから」
「いや、俺にだって趣味くらい……」
しまった、他に何も浮かばん。
ずっと鍛錬と子育てしかしてこなかった。
「ごめんごめん。兄さんは、私達のために自分の時間を割いてくれたんだよね。これから新しい趣味とか見つけたらいいんじゃないかな?」
「趣味か……なあ、いい歳したおっさんが夢見ても良いと思うか?」
「私は全然良いと思うけどなー。なになに、何かあるの?」
そう言えば、この子達には俺の過去を話していない。
上の子たちの中には、知っている者もいるが。
俺は詳細を省き、実は白銀級冒険者を目指していたことを伝える。
「へぇ、兄さんがね。私達、自分達のことばかりで兄さんのこと考えてなかった……反省しなきゃ」
「何を言ってる。辛いこともあったが、お前達の明るさに救われた。だから、後は元気に過ごしてくれれば良い」
「相変わらず人のことばっかりだよねー。それじゃ、私達と競争だね」
「……そうなるのか。よし、負けないように頑張るとしよう」
先に巣立った子達も冒険者としてやっている者もいるだろう。
兄として、彼等に負けるわけにはいかない。
そんなことを考えていると、カエデが何やらもじもじする。
「どうした?」
「い、いや、アルルちゃん良いなーって……私も、小さい頃は兄さんに抱っこしてもらったなって」
「なんだ、今だってできるぞ? それくらいは鍛えてるつもりだ」
「恥ずかしいから嫌だし」
「がーん……」
これが親離れというやつか。
いや、喜ぶべきなのだが。
「へこんじゃった……じゃあ、手だけ繋いでよ」
「おっ、もちろんさ」
そうして夕日の中を手を繋いで歩く。
それは、とても幸せな時間だなと思うのだった。
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