第27話 弟子の成長

 翌日の朝、朝ご飯を食べ終わり、俺は三階の広場にてサクヤとアルルと遊んでいた。


 この宿には従魔用スペースがあるとは聞いていたが、中々にいい場所だ。


 三階が一つの部屋となり、広い空間で遊ぶことができる。


「アルル、ボールを投げてごらん」


「うん! サクヤちゃん、いくよー!」


「アォン!」


 アルルが投げたボールにサクヤが飛びつく。

 追いかける用のボールだが、その身体能力によりサクヤはキャッチしてしまう。


「いや、多分……それは追いかけて取ってくるやつだろ」


「グルッ?」


「ふぇ?」


 二人が不思議そうに、俺に視線を向ける。

 どうやら、特に気にしてないらしい。


「いや、お前達が楽しいならいいんだ」


「アォン!」


「もう一回? うん! わかった!」


 俺はそれを眺めつつ、優雅にコーヒーを飲む。

 すると、階段を誰かが物凄い勢いで上がってくる。


「にいちゃん!」


「どうした? こんな朝っぱらから」


「オレと戦ってくれ!」


 俺が返事をしようとすると、後ろからカエデがやってきて……カイトの頭を叩く。


「朝からうるさいのよ」


「いてぇよ!?」


「まずは主語を言いなさいよ。兄さん、昨日の夜に買い物をしたことを話したの。そしたら、すぐに宿に行こうとしたから朝まで待ちなさいって」


 ……それは英断だったな。

 夜に来られたらアルルを起こしてしまう。

 カエデは相変わらずしっかり者のようだ。


「ふむふむ。それで、カイトはどうした?」


「カエデばっかりずるいぜ! というわけで、オレにも稽古をつけてくれ!」


「いや、昨日は買い物をしたのだが」


 すると。カエデがため息をつく。


「はぁ……こいつ、兄さんに構って欲しいのよ」


「なっ!? ち、違うし!」


「違うのか?」


 理解したので、俺も少し楽しくなってきた。

 なるほど、大きくなったが可愛いところがあるな。


「にいちゃん……笑いを堪えてるのバレてるからな?」


「おっと、しまった。悪かった、お詫びに稽古はつけてやるから」


「ほんとか!? やったぜ! 先に冒険者ギルドの鍛錬場に行ってる!」


 そう言い、嬉しそうに階段を下りて行った。


「兄さん、アルル、サクヤ、騒がしくてごめんね」


「いや、いいさ」


「わたしは楽しいよ!」


「アォン!」


「ふふ、ありがと。それじゃ、あいつが不貞腐れる前に行こ」


 その後、四人でカイトが待つ冒険者ギルドに向かう。

 中に入ると、カエデに視線が集まった。


「お、おい、カエデだぜ。そろそろ、銅級に上がるって話だ」

「さっきはカイトもいたな。何やら、息を巻いていたけど」

「というか、あのおっさんは誰だ?」

「珍しい魔獣を連れてやがる」


 ……ほう、二人は既に名のある冒険者のようだ。

 それに、ランクアップも近いとみなされるほどの。


「カエデ、有名人だな」


「や、やめてよ、兄さん。それに、有名なのは……」


「兄貴! こっちこっち!」


 ギルドの右端にある扉の前にカイトがいて、手招きをしていた。


「も、もう、目立ってちゃって」


「迷惑にならないように、さっさと行こうか」


 そして中に入ると、そこは広い空間になっていた。

 あちこちで鍛錬をしている者達が目に入る。

 カイルが場所を取っていたようなので、そちらに向かう。

 カエデにアルルとサクヤを任せ、俺はカイトと対峙する。


「へへっ、一年ぶりかな」


「ああ、そうだな。どれだけ成長したのか、見せてもらおう」


「この日のために頑張ってきたんだ!」


 そう言い、構えを取った。

 その立ち姿だけで、成長したのかわかる。

 以前よりは隙がなくなっていた。


「いつでもいいぞ」


「それじゃ——いくぜ!」


 獣人特有の身体能力でもって、一気に間合いを詰めてくる。

 右の拳が繰り出されるのを、右手でいなすように弾く。


「うおっ!?」


「甘い、まだ腰に力が入ってない。腕ではなく、体全体を使って拳を繰り出せ」


「お、おすっ!」


 再び拳が繰り出され、先程より威力が上がる。

 だが、まだまだ鍛錬が必要だろう。


「どうした? 俺の防御を崩してみろ」


「ウ、ウォォォォ!」


 連続して拳が繰り出されるが、その全てを片手でいなしていく。

 そして空いてる手の方で、隙だらけの腹に拳に叩き込んだ。


「ゴフッ!?」


「防御も甘い」


「く、くそっ……全然当たらねえ!」


 カイトは犬獣人で、はっきり言えば獣人族の中では弱いと言われる部類だ。

 獅子族のような力もないし、狼族のような俊敏さもない。

 犬族は獣人界では迫害の対象で、カイトもそうだったらしい。


「……もう終わりか?」


「ま、まだまだァァァァ!」


「その意気だ」


 再び、連続攻撃を繰り出す。

 同じように、片手でいなしていく。


「もっと早く!」


「くぅぅ……!」


「お前の武器は速さだ! 力が足りないなら手数で補え! 攻撃する隙がないほどに!」


「ア……ァァァァ!」


 徐々に速さが増していき、片手でいなすのが難しくなってくる。

 そして……その拳が、俺の顔を掠めた。


「やっ」


「気を抜くな」


「ゴハッ!?」


 腹に一撃を入れると、カイトが地面を転がっていく。

 さて、以前ならこれで起き上がれなかったが。

 すると、カイトがふらふらしながらも立ち上がる。


「ま、まだまだ……」


「いや、よく立ち上がった。そして、よくぞ当てた……カイト、強くなったな」


「に、にいちゃん……へへっ、当たり前だろ」


 弟子の成長というのは嬉しいものだ。


 俺も負けてはいられないな。



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