第12話 絡まれる

……久々にゆっくり寝たな。


すっきりと目覚め、俺は目を開けた。


そして、周りを見て……固まる。


「しかし……重たいし動けん」


「ゴロゴロ……フニャー」


「むにゃむにゃ……すー」


アルルは腕に抱きつき、サクヤはなんでか知らないが腹の上にいるし。

その光景は癒されるが、このままでは朝食に遅れてしまう。


「ほら、アルルにサクヤ、起きなさい」


「グルル……?」


「ふぇ? ……わわっ、ごめんなさい!」


「だから謝らなくていいさ。ほら、洗面所で顔を洗うぞ」


「アォン」


「う、うんっ!」


三人で洗面所に向かい、顔を洗う。

そしたら歯ブラシを持って、椅子に座って磨く。


「サクヤちゃん、上手!」


「グルッ!」


「確かに器用になったよなぁ」


サクヤは尻尾を使って器用に歯を磨いている。

これはヨルさんがやっていたことで、自分も同じようにしたいと思ったのだろう。

歯ブラシを終えたら、朝ごはんを食べに食堂に向かう。

メニューは決まっていて、スープとパン、ウインナーやサラダなどだ。


「えへへっ、朝からご飯があるんだ」


「大丈夫だ、これからは毎朝ある」


「す、すごい……いいのかな?」


「それくらい当たり前のことだから気にしないでいい。ほら、こいつを見てみろ。この、遠慮のない姿を」


俺の視線の先には、一心不乱に肉を食らうサクヤの姿が。

視線に気づき、サクヤが顔を上げる。


「グルッ?」


「後で口を拭こうな」


「グルル」


「あはは……わ、わたしも食べる!」


「それでいい」


子供が遠慮する世界など糞食らえだ。


おっと、口が悪かったか。


だが、弟子達にもそうだったが元気に過ごしてくれたらいい。





食事を終えたら、早速冒険者ギルドに向かう。


中へと入ると、子連れと雪豹が珍しいのか視線を向けられた。


それを敢えて無視して、空いている受付の方に話しかける。


「すみません、冒険者登録をしたいのですが……」


「はい、承ります。こちらにお名前と年齢、できれば住んでた村、それと得意なことや苦手なことを記入してください」


「わかりました」


村は出身地で、得意なことは刀と書く。

苦手は、当然魔法を使うことだ。

嘘は書きたくないので、正直に魔法は使えないと書く。


「ハルトさんですか……魔法が使えないのですね」


「やはり、魔法を使えないのは珍しいですか?」


「い、いえ、失礼致しました。それもありますが、最強の冒険者と言われる方とお名前が一緒だったもので……」


「……最強の冒険者ですか?」


俺とて白銀級冒険者を目指していた身、それ近い冒険者達の名前は知っている。

しかし、この名前には聞き覚えがない。

おそらく、俺がいない間に駆け上がっていった有望株なのだろう。


「はい、と言っても噂だけなんですけどね。何でも凄腕の冒険者達が、その人こそが自分達の師匠で最強の冒険者だとか」


「へぇ、凄い人がいるものですね」


「はい、最近急上昇中のあの二人も……あっ、話が脱線してすみません。では、規約の確認ですね」


「はい、お願いします」


気にはなったが、 後ろに人が並んでいるので、 話を切り上げた。

一度経験があるので特に問題はないが、変わっているとあれなので確認をしておく。


「では説明していきますね。上から白銀級、黄金級、銀級、鋼級、銅級、鉄級、石級、名無しとなります。名無しから始まり、ランクにあった依頼をこなしていき実績を積む。そしてギルドが決めた規定値まで達すると、ランクアップ試験を受けることができます」


「ふむふむ、そこは変わりないと。何か、十年以上前と変わったことはあるかな?」


「そうですね……昇格する際の審査が厳しくなりました。実力もそうですが、人柄なども考慮されるように」


「なるほど……そういうことでしたか。いえ、以前来たギルドとは雰囲気が違ったもので」


当時はよく、変な輩とかに絡まれたりしたな。

若いということもあったし、名前が知られてきた時だった。

まさか、おっさんになっても絡まれるとは思わなかったが。

そう、さっきから……嫌な視線を感じる。


「ふふ、それなら私達も頑張った甲斐があります。では、こちらが仮のギルドカードになります。まずは、名無しなので……説明はいりませんね」


「ええ、一度やっているので。ところで、どうしたらいいですかね?」


「えっ? そ、そうですね……基本的に正当防衛が成り立ちます。なので、先に問題を起こした方が悪いかと。あとは自己責任と、生死が関わるようならギルドが介入します」


「なるほど。では、多少は平気と……ありがとうございました」


受付の方に挨拶をし、出口へと向かう。

前は暴れん坊が沢山いて、ギルド内でも喧嘩はしょっちゅうあった。

中も綺麗になってるし、冒険者達自体も変わっていってるってことか。


「まあ、それでも……何処にでも変わらない奴もいるか」


「お、お父さん……」


「グルルッ……!」


「大丈夫だ、気づいてる」


ニヤニヤした顔で、厳つい大男が近づいてくる。

俺より頭一つ分大きく、ガタイもかなり良い。

ただ、その男は酒の匂いがしていた。


「おい、おっさん、聞いてたぜ。その歳で新人冒険者なんだってな? しかも、魔法が使えないとか」


「いや、元冒険者さ。それで、何の用かな?」


「へっ、どっちしろ一度逃げた奴じゃねえか。なに、簡単なことさ……その従魔を俺によこしな。魔法も使えないおっさんには勿体ないからな」


「なんだ、そんなことか——断る」


話にならないのでアルルの手を引いて、男の横を通り過ぎる。


「あ、あぁ? ……待ちやがれ!」


男が俺の肩を掴んでくる。

体格差的には、あちらに分があるが……。


「お、お父さん……」


「大丈夫さ。さあ、行こうか」


「ま、待てって、こっちを……動かねえ!」


男が俺を力ずくで引っ張って振り向かせようするが、俺が動くことはない。

これしきの力では、体幹を鍛えたのでどうということはない。

それこそ、を使うまでもない。

俺はアルルをサクヤに任せ、男と正面から向き合う。


「……これ以上邪魔するならこっちにも考えがあるが?」


「っ……! ざ、ざけんじゃねえ!」


相手が手を離し、拳を振りかぶって殴りかかってきた。

俺は避けることもせずに、その拳を腹に受ける。


「へっ、避けもしねえ……なんだ? 硬い?」


「これで正当防衛は成立だな——はっ!」


「ごはっ!?」


俺の拳により、男が吹き飛んで壁に激突する。

手加減はしたので、見た目ほどダメージはないはず。

……はずなのだが、ピクリとも動かない。

しまった、見た目と違って弱い冒険者だったか?


「す、すまない、平気か?」


「け、喧嘩を売った俺を心配してやがるのか? へ、変なやつだぜ……」


「いや、思ったより吹っ飛んだんでな」


「くそっ、全然強いじゃねえか……さっさと行きやがれ」


「ああ、そうさせてもらおう」


確かに悪目立ちしてしまったので、急いで冒険者ギルドを出て行くのだった。

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