第13話 サクヤとゴブリン退治

……追っては来ないか。


あの感じでは後腐れはないと思うが、一応顔は覚えておくか。


まあ、あの程度なら可愛いものだ。


「お、お父さん、平気?」


「ああ、あれくらいなら問題ない。サクヤも、よく我慢したな?」


「アォン!」


空いてる手でサクヤの頭を撫でる。

こうしたことも、この子にとってはいい経験になるだろう。

秘境の里では、絡まれることなどなかったし。


「ふぇ〜……あんなに怖そうな人なのに、お父さんふっ飛ばしちゃった」


「ふふふ、お父さんの方が強いからな」


「えへへ、お父さん強い!」


「そうだぞー」


「だぞー」


そう言い、俺の真似をしてにぱっと笑う。

可愛いな……いかんな、まだ独身だというのに父性が止まらん。

しかし、大分肩の力が取れてきて良い傾向だ。


「さて、このまま依頼に行ってもいいか?」


「うん!」


「アォン!」


「決まりだな。朝飯も食ってるし、このまま行くとしよう」


俺は門番に仮のギルドカードを見せ、きた時とは反対の門の外へと出る。

これで戻るときに、料金を取られることはない。


「お父さん、これからなにをするの?」


「ここの街道は、最終的には王都へと続く道だ。俺達が通ってきた田舎側の道とは違い、常に商人や人々が通る。なので、それだけ魔物も寄ってくるんだ」


「ふんふん……その魔物を倒すの?」


「そういうことだ。ちなみに名無しの試験は、ゴブリンを倒すこと。あいつらはすぐに増えるので、常に数を間引きしないといけない。ゴブリンとはいえ、一般人からしたら恐ろしい魔物だからな」


アルルには言わないが、ゴブリンを倒す理由はもう一つある。

というより、魔物と魔獣が区別され、魔物は必ず殺さなくてはいけない本当の理由。

それは魔物と言われるモノが、人類の女性を孕ませて繁殖する生き物だからだ。

理由はわからないが、言い伝えでは世界を滅ぼそうとした邪神の使いだと言われている。


「そ、そうなんだ……」


「怖いよなぁ……アルルを都市においてきても良かったんだが」


「う、ううん! お父さんといる!」


「そうか。お父さんとサクヤが守るから安心しなさい」


「うん!」


本当なら都市の中にいた方が安心かもしれないが、一人にするのは可哀想だ。

出来れば、知り合いを見つけられるといいのだが……あの二人はまだいるのやら。

その後、アルルを抱っこして初心者の森と言われる場所にやってきた。

ここは都市からも近いので定期的に冒険者達がやってきて、魔物や魔獣を狩っている。

故に多くの人の手が入り、通り道などもあり魔物や魔獣の数も少ない。

まさしく初心者にとっては、有難い場所だろう。


「俺も当時、ここにきたんだよな」


「そうなの?」


「ああ、もう十五年も前だが……おっと、早速お出ましだ」


森の中から、街道に向けて三匹ほどのゴブリンが姿を見せる。

こういうのを都市や街道にこさせないようにするのも、冒険者の役目だ。


「お、お父さん……」


「大丈夫だ、ゴブリン如きは敵ではない」


「グルルー」


すると、サクヤが俺の足を軽く叩いてきた。

視線をか下げると、そこにはやる気に満ちた表情を浮かべていた。


「ほう? 自分がやると?」


「アォン」


「なるほど、妹にいいところを見せたいと。わかった、では一体だけは俺が倒す。厳密にいえば、俺の従魔ではないからな。ただし、後のは任せよう」


「アオーン!」


よしよし、やはり良い傾向だ。


お姉さんも強いってことを見せたいのだなと思う。


俺は先に一歩踏み出し、手前にいたゴブリンを一刀のもとに斬り捨てる。


そしてアルルの側に戻り、サクヤと選手交代するのだった。



ふふん……ゴブリン如き、アタシの敵じゃないわ。


ただ、どんな相手だろうと油断はしない。


それが産んでくれたママ、そして育てのパパであるハルトの教えだから。


何より、初めてできた妹の前で恥はかけないもん。


アルルに、お姉ちゃんは頼りになるってところを見せなきゃ。


アタシが、出て行った姉さんや兄さんに思っていたように。


「ギキー!」


「ギャギャ!」


相手は二匹、一匹がパパにやられたことで動揺してるみたいね。

たったら——先手必勝!

腰を低くした状態から走り出し、一気に加速する。


「ギー!?」


「グルァ!(くらいなさい!)」


加速した勢いのまま、腕を振りかざし……相手の胴体を切りつける。

そのまま通り過ぎ振り返ると、血まみれになった一体が地に伏せた。


「ギャギャ!」


「グルルー!(甘いわ!)」


隙をつこうとしたのか、もう一体のゴブリンが棍棒で殴りかかってきた。

ワタシは右にステップして躱し、逆に相手の隙をついて首元に噛み付く!


「ギャギャー!?」


「ガウッ(不味いわね)」


ペッと吐き出し、相手の息が止まるのを待つ。

そして、すぐに生き絶えた。

倒し終えても油断しないこと、これもママとパパに教わったことだ。


「アォン(アタシも、ママやパパみたいに強くなりたいもん)」


だから無理を言って、パパについてきたんだし。

……別に置いていかれるのが寂しかったわけじゃないもん。

アタシは余裕を持って、パパとアルルの元に戻る。


「アォン!(ふふんっ!)」


「わ、わぁ〜!?」


「アォン?(おかしいわね?)」


『カッコいい』とか『すごい』とか想像してたのに、アルルはパパの後ろに隠れてしまった。

すると、パパがため息をつく。


「おいおい、自分の口元を見てみろって。ほれっ、鏡」


パパが不思議な袋から鏡を取り出し、アタシに見せてくる。

そこには顔中血まみれのアタシがいた。

うん、我ながら怖いわね。


「アォン!?(あれれ!?)」


「ったく、少しは考えて戦えって。ヨルさんが返り血を浴びたり、口が血まみれなことがあったか?」


「グルル……(なかったです。ママはいつも綺麗でスマートだったの)」


「だろ? まあ、いいところを見せたいと張り切ったんだろうが……とりあえず、良く出来ました」


そう言い、大きな手でアタシの頭を撫でる。

アタシは、これが一番好き。

ママは舐めてはくれたけど、撫でてはくれなかったし。


「ゴロゴロ……(うにゃーん)」


「ったく、現金な奴。ほら、拭くから動くなよ?」


「アォン(いいわ)」


アタシが顎をあげると、パパが布巾と水の魔石を使って洗ってくれる。

構ってもらえるから、これも悪くないわ。


「なんで偉そうなんだよ……ほら、拭けたぞ。アルル、これでいいか?」


「う、うん。ごめんなさい、怖がって」


「アォン(こちらこそ悪かったわね)」


「あ、あの、サクヤちゃんすごいね!」


「グルルッ!(でしょ!)」


すると、再びパパがため息をつく。


はっ、しまった……ママならここで『当然よ』って感じだった。


……まだまだ、ママみたいな立派なレディーにはなれないみたい。





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