第14話 報告

ゴブリンとはいえ、立派になったなぁ。


最初の頃は、俺の後ろで震えていた子なのに。


「お父さん、サクヤちゃんすごいね!」


「アォン!」


「ああ、そうだな……ん?」


その時、何やら気配を感じる。

どうやらサクヤも気づいたらしく、警戒の声を発する。


「グルルッ……!」


「サ、サクヤちゃん?」


「アルル、動くなよ。サクヤ、アルルの側から離れるな」


すると、森の方から何かが飛び出してきた。

人のような身体に、豚の顔と毛皮が付いている。

身長170センチに体重80キロを誇る、魔物の一種であるオークだ。

大食漢であることも含めて、こちらも討伐推奨がされている。

食料である魔獣や作物などを食べてしまうからだ。


「ブヒッ!」


「ひぃ!?」


「誰であろうと見境なしか。サクヤ、アルルから離れるなよ?」


「アォン」


俺はサクヤにその場を任せ、オークへと近づく。

相手も俺を敵とみなしたのか、真っ直ぐと向かってくる。

そして、その勢いのままに槍を突いてきた。


「ブヒッ!」


「止まって見えるぞ」


俺は余裕を持って、それを躱していく。

そういえば、最初の頃はこいつに苦戦したっけ。

そして、俺が森で倒れる原因を作ったのも……こいつの上位種だった。


「お、お父さん! 大丈夫!?」


「ああ! 問題ない!」


いかんいかん、つい感傷に浸ってしまった。

娘に心配をかけている場合ではない。

……どうせなら、アルルにも力を見せておくか。

俺は体内にあるを練り、それを右腕に集める。


「ブヒッ!」


「どれ、試すとしよう」


俺は突いてくる槍に向かってをぶつける。

すると……槍の方が粉々に砕けた。


「……ブヒィィ!?」


「こんなものか……シッ!」


「ガ………」


隙を見せたオークを、抜刀により仕留めた。

その後、討伐部位である耳を集めて二人の元に戻る。


「ほら、大丈夫だったろ?」


「お、お父さん! おてては!? 痛くないの!?」


「ああ、この通り問題ない」


俺は手をひらひらさせ、無傷をアピールする。

実際に、俺の手は傷一つ付いていない。

これが仙気を使った、俺の肉体強化術だ。

魔力がない俺は、これ以上強くなるのが難しかった。

それを変えたのが、師匠から教わった気というものだった

これは体内にある魔力ではなく、外からの気を自分の体内に取り込む技だ。


「す、すごい! お父さんもサクヤちゃんも!」


「ふふふ、そうだろ」


「アォン!」


「でも、なんで傷がないのかなぁ?」


「その説明は難しいな。俺自身も、まだ修行中の身だし。まあ、機会があったら教えるとしよう」


師匠は五年で死んでしまったし、免許皆伝はもらってない。

その後は、自己流で研鑽を積んだが……あの時の師匠を超えられた気はしない。

大事な人を守るためにも、まだまだ鍛錬を重ねていかねばなるまい。




予想外の出来事はあったが、すぐに都市へと帰還する。


そして冒険者ギルドに入ると、何やらまだ視線を感じた。


「お、おい、さっきの奴……」


「あ、ああ、あれだろ? あの暴れん坊のバルザークを一発でのしたって」


「あんな細身の、どこにそんな力があるんだ?」


「このギルド内では、魔力は使えないはずだしな」


……なんだ? 今度は無視できないくらいの視線だ。

もしや、あの冒険者は有名だったのか?

そんなことを考えていると、同じ受付の女性に声をかけられた。


「あっ、こっちでお願いします!」


「わかりました」


「あ、あの、朝のアレはなんですか!?」


「も、問題でしたか? ある程度は平気だと言っていたので……」


なるほど、少しやり過ぎたか。

しかし、あんなに吹っ飛ぶとはこちらも思ってなかったんだよなぁ。

仙気も使ってない、ただのパンチだったし。


「い、いえ、あれはあちらが悪いので問題はありません。ただ、彼はあれでも鋼級冒険者の一人です。この辺境においては上から数えた方が早い実力者なんですよ?」


「……本当ですか?」


「本当です」


その顔は嘘を言っている感じはしない。

あれで鋼級冒険者? ……当時の俺よりもランクが上じゃないか。

つまり、少なくとも俺は当時より強くなっているということか。


「ちょっと、何を笑っているのですか?」


「笑ってましたか? いえ、すみません。ところで、それでは何が問題でしょう?」


「問題というか、驚いただけです。あと、あの人は悪い人ではないのですが問題行動が多かったので助かりました」


「そうでしたか。いえいえ、若いうちは仕方ないかと」


前も思ったが、あれくらいなら可愛いものである。

まだ二十代前半くらいだろうし、鋼級というなら有望株だな。


「そう言ってくれるとこちらも助かります」


「あの、それよりこちらを……ゴブリンの耳と、ついでにオークも倒したので」


「オ、オークをですか? いえ、バルザークさんに勝てるなら問題ないですか。それより、そんな奥に入ったと?」


「いえ、森の手前で両方を倒しましたね」


すると、彼女の表情が曇る。


「森の手前ですか……」


「何か問題が?」


「オークは少なくとも森の中にいるのが普通です……これは、マスターに報告をした方が良いですね……貴重な情報をありがとうございます」


「そうなのですね。いえいえ、何もなければいいのですが」


「はい、それが一番です。ひとまず、確かに討伐証拠であるゴブリンの耳ですね。では、こちらが正式な冒険者カードになります。改めまして、石級冒険者おめでとうございます」


「ありがとうございます」


それを受け取り、何やら感慨にふける。

最初に受け取った時、これが夢への第一歩だと思ったんだ。

……もう一度、夢を見ても良いだろうか。


「ご説明はいりますか?」


「いえ、特に変わってなければ大丈夫です。自分と同じランクの依頼、又は一つ上のランクを受けることができる。依頼ごとにポイントがあり、それが規定数たまると試験が受けられる……で合ってますか?」


「はい、大体同じですね。付け加えるなら、パーティーを組む場合は二ランク以上離れていると組めません。前からもあったのですが、それの規制が厳しくなった感じですね」


「なるほど……ありがとうございます」


それは、俺にとっては耳の痛い話だった。

おそらく、あのままパーティーを組んでいたら……実力の足りない俺はどっちしろ、彼らとは仲間でいられなかっただろう。

それこそ腰巾着のように思われたに違いない。


「他に何か質問はございますか?」


「あぁー……いえ、大丈夫です」


弟子達のことを聞こうと思ったが、そんな空気ではなさそうだ。

何か問題があったら大変だしな。

俺は話を切り上げ、アルルとサクヤと依頼表を見ることにした。


「お父さん、何を受けるの?」


「この石級って書いてあるやつだな」


「いしきゅう……前にあるのが石で、後ろにあるのが級?」


「おっ、そうだぞ。読めてすごいな」


「えへへ、褒められちゃった」


頭を撫でると嬉しそうに笑う。


そうだった、字も教えないと。


他の人に邪魔にならないように、俺はささっと依頼表をいくつか見繕う。


それを持って受付に行き、ひとまずギルドを出て行くのだった。

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