第9話 合格
会計を済ましたら、店を出て歩き出す。
流石に辺境で最大の都市だけあって、人や建物が多い。
昼時が終わったこともあり、どんどんと人が増えていく。
アルルは怖いのか、俺の服をぎゅっと掴む。
「ほら、手を繋ぐか?」
「手……う、うんっ」
その小さな手が、俺の手をぎゅっと握る。
サクヤがアルルに寄り添い、どうやら励ましている様子。
「さて、説明しますので移動しましょう」
「ええ、わかりました」
ひとまずヨゼフ殿に従いついていくと、そこは懐かしの冒険者ギルドだった。
ただ俺がいた頃と近い、建物が大きくなっていた。
おそらく、建て替えでもしたのだろう。
そのまま中に入ると、喧騒にまみれた光景が目に入る……と思いきや、中は意外と静かで綺麗だった。
「……うん?」
「お父さん、どうしたの?」
「い、いや、俺の知ってる冒険者ギルドと印象が違くてな」
俺の知ってる冒険者ギルドは、荒くれどもが騒いでいる喧騒にまみれた場所だった。
乱闘は日常茶飯事だったし、確か酒場などもあり、そこで呑んだくれてる奴とかもいた。
しかし今は喧騒も少ないし、酒場もないし落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「ハルトさんがいつからギルドに来ていないのかはわからないですが、ここ十年ほどでギルドも変わったのですよ。体制も整え死亡数なども減り、我々とも協力体制を取ったり」
「へぇ、そうなのですね。ところで、我々とは?」
「ほほっ、それが説明の答えになります。さあ、階段を上がっていきましょう」
そうして、ギルド入ってすぐの脇にある階段を上がっていく。
廊下を通っていくと、職員らしき人々がヨゼフ殿に頭を下げていく。
そのまま奥まで行き、会長室と札が掲げている部屋に到着する。
すると、門兵らしき人か敬礼をした。
「ヨゼフ様! お疲れ様です!」
「貴方も、いつもありがとうございます。この方々は私の客人ですのでご安心を」
「はっ、畏まりました。それでは、お客人もお入りください」
そうして、門番が扉を開けて中へと促される。
どうやら、かなりのお偉いさんらしい。
そのまま中に入り、入り口近くにあるソファーに座るように言われる。
俺とアルルは並んで座り、サクヤはそばに控え、対面にヨゼフ殿が座った。
「さて、改めて自己紹介をいたします。私はテイマー協会理事の一人である、ヨゼフ-サーランドと申します」
「……テイマー協会ですか? 申し訳ありません、田舎暮らしが長くて」
「いえいえ、無理もないかと。まだ発足して八年くらいしか経っていないので」
「そうなのですね。それなら、俺が知らないのは当然です」
俺は十五年前に秘境に行き、それから出たことがない。
巣立った子供達にも戻ってこないようにも言っておいたし、基本的に外界の情報は入ってこない。
俺が追放された後に出来た組織なのだろう。
「テイマーはご存知でしょうか?」
「はい、それは流石に。太古より存在していましたが、最近になって広まった職業かと」
テイマーとは一部の魔獣を使役し、狩りや魔物退治の相棒にする職業の人だ。
昔から一定数いることはわかっていたが、その数は少ないとか。
冒険者の中にもいて、本人の実力がなくても魔獣が強ければランクも高かったりする。
「それをまとめる組織ができたのです。当時は魔獣を都市に入れることに対して問題も多く、それでも有益な魔獣がいることはわかっていたので。最近ではガスを生み出すガスカンク、電気を生み出すデンギツネなどを家畜化に成功しております」
「確か、俺が辺境都市にいた時も一部でいましたね」
俺は知らないが昔は夜は暗く、外などを出歩ける状況ではなかったらしい。
火の灯しでは限界もあるし、火事の元にもなる。
そうした部分を、家畜化された魔獣が補ってきた。
「はい、仰る通りかと。それらが広まり、別の問題が起きました……奴隷狩りや密猟者などです」
「なるほど……利益が出ることがわかったので、それを売り買いする者が現れたと。それを世話するために人手がいるから奴隷狩りですか?」
「はい、危険な仕事でもありますから。死んでも良い相手を探しているのでしょう。なので協会を立ち上げ、それらをまとめることにしたのです。冒険者ギルドと連携を深めて、正式な組織にするために」
……この人に聞いてみるのが良いか。
テイマー協会理事さんが、知ってるかどうかが判断基準になるだろう。
あんまり大勢に聞いては、変に勘ぐられてしまう。
「そういうことですか。ところで、話は変わるのですが質問をしても?」
「ええ、構いませんよ」
「テイマーの方々の中には、魔獣の言葉を完全に理解している方はいるのでしょうか? 生まれつきそういう能力を持っているとか、後から身につけるとか」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。むしろ、貴方とサクヤさんの意思疎通に驚いているくらいです。そこまで出来る方は珍しいかと」
……打ち合わせをしておいて正解だったな。
この方を信用しないわけではないが、アルルのことはひとまず秘密にした方が良さそうだ。
うちの秘境に捨てられた子の中には、そういう特殊な能力持ちで捨てられた子もいたし。
「なるほど、そうなのですね。話を戻しますが、俺を連れてきたのはどうしてでしょう?」
「今は我々テイマー協会が、従魔制度を管理しているからです。街の中を連れて歩くには私の許可と、専用の装置が必要になります」
だからサクヤを連れても誰も咎めなかったし、門兵も通してくれたのか。
それとサクヤを観察するような視線は、このためだったのか。
「そういうことでしたか。それで、サクヤはどうですか?」
「文句なしに合格ですよ。飼い主との意思疎通、人との触れ合いや立ち振る舞い全てにおいて。これほど賢い魔獣を見るのは初めてくらいです」
「ありがとうございます。元々、賢い種族みたいなので」
「アォン!」
サクヤが『その通り!』みたいにドヤ顔をした
それはそれで何だか腹がたつので、尻尾を握る。
俺だって、きちんと育ててきたと思うんのだが?
「アォン!?」
「ちょっと生意気だったので」
「グルルー……!」
「はいはい、悪かったって」
俺の足に向かって、ポカポカと猫パンチをしてくる。
すると、ヨゼフ殿が苦笑した。
「ふふ、仲が良いですな。というわけなので、都市を連れて歩くには装置がいります」
「それはどのような仕組みですか?」
「飼い主の魔力を登録したベルトをつけてもらうことになります。そうすると、お互いの位置がわかるのです。それによって誘拐や、何か問題があった時に対処しやすくなりますから」
「魔力……わかりました、とりあえずお願いします」
「では、失礼いたしますよ」
そして、ヨゼフ殿が俺の腕に皮のベルトを巻きつけようとする。
「おや? おかしいですな……魔力があれば、これが自然と縮小して巻きつく仕組みなのですが」
やはり、そうなったか。
嫌な予感はしていた。
「すみません、ヨゼフ殿……俺には、魔力がないのです」
それこそが……おそらく、俺がパーティーから追放された一番の理由なのだろう。
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