第10話 魔力なし
人は皆、魔力を持って生まれてくる。
そして魔法や身体強化を使い、人々は敵と戦ったり生活を豊かにしてきた。
それは当たり前のことで、誰でも生活魔法くらいは使うことができる。
火を出したり水を出したり、得手不得手はあってもそれくらいは誰でも出来る。
だが俺は生まれつき、その当たり前ができなかった。
生活魔法すら使えない欠陥品……それでも夢を諦めきれずに、剣の道を極めようとした。
だが、それも限界だったのだろう……だから役立たずと言われて追放された。
「そんな人間がいるのですか? いえ、失礼しました……」
「いえ、お気になさらずに。後になって知りましたが、かなり珍しいみたいです」
「それはそうでしょう、それは当たり前に持っている能力ですから。しかし、この場合はどうすれば……」
これをつけないと街を歩けないとなると、サクヤを野に放つことになる。
俺は野宿でもいいし、街に買い出しに出かける程度なら問題はない。
しかしアルルには辛いだろうし、サクヤにも人の生活に触れてほしい。
そんなことを考えていると、サクヤが俺の手から首輪を取って……アルルの元に持っていく。
「グルルー」
「ふぇ?」
「なるほど……そういうことか。アルル、君が代わりにやってくれるか?」
「わ、わたしが?」
「アォン」
アルルの疑問に、サクヤが頷く。
これはお互いの位置が分かるというので、アルルに何かあってもサクヤが気づくということだ。
どうやら、妹を守るという自覚が出てきたのかもしれない。
「い、いいのかな? お父さんの相棒さんなのに」
「俺は構わないよ。ただヨゼフ殿、何か問題はありますか?」
「いえいえ、特にありませんよ。サクヤさん自身が、アルルさんに求めているわけですから。実際に子守りのために、自分のテイムした魔獣をつけることもありますし」
「だそうだ、アルル。あとは、お前が決めればいい」
「わたしが決める……そんなこと言われたの初めて……サクヤちゃん、いいかな?」
「アォン!」
「お姉さんだから、わたしを守ってくれるの? えへへ、ありがと」
そしてアルルがベルトを腕に巻くと、その腕の太さに合わせて縮小した。
それをヨゼフ殿が預かり、何やらボタンを押す。
「はい、これで平気です。それを今度は、サクヤさんの腕に巻いてください」
「は、はい! サクヤちゃん、いいかな?」
「アォン」
確認をとり、サクヤの前足に巻くと……自然と縮小して腕輪となる。
「はい、これにて終了となります。一応、建前上はアルルさんがテイマーということになります」
「ありがとうございました。はい、それで問題ありません。サクヤ、アルルを守ってやるんだぞ?」
「アォン!」
「よ、よろしくですっ!」
よしよし、これでアルルに何かあってもサクヤが気づく。
俺とサクヤが一緒、アルルが一人になる状況が一番不味いからな。
サクヤにとっても、守る対象がいるというのは成長の糧になる。
「では、改めまして……テイマー協会へようこそ。一度登録されれば各支部に届くので、この都市以外でも活動しやすくなるでしょう」
「それは助かりますね。従魔は、国境などもですか?」
「ええ。ですが、そのためには本人が冒険者ギルドのランクが一定値に達しているか、誰かしらからの許可が必要となります」
「なるほど、ありがとうございます」
ふむふむ、国境を超える条件は変わっていないと。
サクヤ自身はこれで超えられるが、俺とアルルは別途必要性があるか。
といっても八歳のアルルの冒険者ランクを上げるのは不可能だ。
俺がランクを上げて、どうにかするしかないか。
「失礼ですが、ハルト殿は冒険者ギルドに登録は?」
「以前は持っていたのですが、多分登録が消えているでしょうね。確か、一年更新がないと剥奪だったはずなので」
「そうでしたか。では、初めからですかな?」
「ええ、そうしてみようと思います……ん?」
「スー……」
ふと横を見ると、アルルが俺に寄りかかって寝ていた。
俺としたことが配慮に欠けてしまったな。
奴隷として売られて、それから俺に拾われてから、この子はまともなところで休んでいない。
俺のことも警戒していただろうし、気が休まらなかったに違いない。
「おやおや、寝てしまいましたね」
「すみません……それでは、登録は明日にして宿を探しに行きます」
「それでしたら、私の方で手配いたしましょう。魔獣を泊められる場所も限られていますから」
「……あっ、何から何までありがとうございます。ちなみに、お金はそこそこありますので」
「いえいえ。でしたら、あそこにしますかね」
そうだ、失念していた。
こんな立派な魔獣を、一般の宿が泊めてくれるわけがない。
……いかんな、俺も大分世間からずれてる。
親になったし、しっかりしないと。
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