第32話 魔法適性

……参ったな。


獣人であるカエデやカイトは、魔力は合っても魔法を使えない。


その代わりに、生まれついての丈夫な身体と魔力を使った身体能力、そして特殊な能力を持つ。


つまり、今ここにいる俺を含めて魔法を教えられる者がいない。


「お父さん?」


「ん? あ、ああ、すまんすまん」


おっと、いかんいかん。

宿に戻ってきて、買ってきた本について説明をしているんだった。

俺自身も辺境から出たことないし、十五年も秘境にいたから確認せねば。


「えっと、この辺境はアグレス王国の最西端に位置するナバール領です。北には帝国があって、そこは高い雪山に囲まれています。なので帝国に行くには王都を経由して、遠回りをしなくては行けません」


「北のほうは、アルルや俺が住んでいた場所だな」


「ふんふん……これに書いてある地図だと、国境までしかないよ?」


「そりゃ、仕方ないさ。地図とは貴重なものだ。とりあえず、国境までの地図があれば十分だ。ほら、他の説明を読んでごらん」


「えっと、この大陸には五つの種族と五つの大国があります。北を支配するロスガイア帝国、中央を治めるアグレス王国、南西に位置する亜人国家ユグドラ、南東に位置する魔法国家レイバース、最南端に位置するマリアン協会……いっぱいあって覚えらんないよぉ〜」


「今は名前だけでいいさ。俺だって詳しいことはわからない。それより、種族の方が大事だから覚えておくといい」


「うんと人族、獣人族、妖精族、鉄鉱族、竜人族の五種類があるって」


正確には、またいくつかの種族がある。

だが、大まかな種族はこの五つになっていた。

理由の一つとして、彼らは王を持っているからだ。

獣人族、妖精族、鉄鉱族、竜人族にはそれぞれ王というものが存在する。


「ああ、ひとまずはそれだけ覚えてればいい」


「わたし達は人族だよね? カイトお兄ちゃんやカエデお姉ちゃんは獣人族で良い?」


「ああ、合っている。その二つ種族は数も多く、今後もよく目にするだろう」


「妖精族さんと鉄鉱族さんと竜人族さんは、どんな姿をしているのかなぁ?」


その無自覚な言葉が、俺の心を刺す。

前二つの種族は、よく知っているから。

……馬鹿野郎、いつまでもうじうじしてんじゃねえ。


「妖精族は別名エルフとも言われ、整った容姿と輝く金髪と尖った耳が特徴的な種族だ。鉄鉱族は別名ドワーフとも言われ、背丈が低くずんぐりむっくりした体が特徴的な種族だよ。竜人族は、俺もあったことないからわからないな」


「ふんふん……この都市にもいるの?」


「どうだろうな? エルフは滅多に国から出てこない珍しい種族だ。ドワーフは数は少ないが、それなりにはいるだろう」


「へぇ〜、会ってみたいです!」


「そうだな、そのうち会えるさ」


あいつらが、早々にくたばるとは思えない。

きっと、何処かで生きているはず。

王都に行けば、何かわかるだろうか。


「楽しみです! えっと、次は魔法……体内にある魔力を感じ取ることから始めましょう」


「それは結構難しくてな、割と感覚を掴むまで大変——はっ?」


「ひゃぁ!?」


その瞬間、俺の目の前で信じられないことが起きた。

なんと、アルルの掌から炎が出た。

それも、生活魔法などではない。

火柱が50センチくらい上がっている。


「……って、ぼけっとしてる場合か! アルル! 魔力を抑えろ!」


「わ、わかんないよぉ!」


「くっ……ええい!」


仙気で手を覆い、上から炎を押さえつける!

そのまま手の中で圧縮し、炎を消滅させた。


「熱っ……」


「あ、あ、あ……お父さんの手が!? ごめ——っ!?」


俺は痛みを我慢し、アルルを強く抱きしめる。

こんなの、なんて事はないと伝わるように。


「アルル、謝らなくていい」


「で、でも、わたしのせいで……わたし、役に立ちたかっただけなのに」


「ああ、わかっているさ。大丈夫、魔法使いならよくある事だ」


正直に言えば、いきなりここまで使えるのは見たことがない。

だが、ここで使うことに恐怖を感じてしまったらだめだ。

何より、俺などのせいで責任を感じて欲しくない。


「そ、そうなの?」


「ああ、だから大丈夫だ。サクヤも、平気だから」


昼寝していたところを飛び起きたサクヤが座布団の上に戻る。

本当なら、サクヤに氷を出してもらい冷やして貰うのがベストだ。

しかしアルルが気にしてしまうので、こっそり仙気を高めて自己治癒力で治していく。


「……魔法、できちゃった」


「ああ、そうだな。少しびっくりしたが、今のは凄いぞ。アルルは、魔法の才能があるかもしれないな」


「ほんと? お父さんの役に立てる?」


「もちろんさ。戦えなくても、火をつけたり松明にしたり。特に俺は料理をするから、外で火が使えると助かる」


正直言って火石や魔石があるから、火をつける事は難しくない。

だが、ここは敢えて役にたつと言っておこう。

この子は自尊心が低いので、そこを直さなくては。


「やったぁ! それじゃ、他のもやってみる!」


「よーし、後始末はお父さんに任せろ」


「アォン!」


今度はサクヤも加わり、魔法の基礎である光、闇、地、水、火、風の六大魔法を唱えた。

火柱が起こるような事はなく、それぞれ俺の知る通常通りの現象が起こる。

ただし闇だけはかなり暗くなったので、こちらも適正ありだ。

つまり、アルルは火属性と闇属性に適性があるという事だ。


「火と闇だけ違ったよ?」


「アルルは火属性と闇属性が得意という事だな。大体、皆は一属性に特化している。アルルは二個もあるので、これはダブルといって凄い事だぞ?」


「わぁーい! これでお父さんの役に立てるね!」


無邪気に喜ぶアルルの頭を優しく撫でる。


しかし珍しい闇属性に、ダブルの才能か。


この子には魔獣の言葉を理解する力もある……何か騒動に巻き込まれないといいが。


いや、何か起ころうが関係ない。


この子は、俺が守ってみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る