第31話 お買い物

翌日、俺はサクヤとアルルを連れて街へと繰り出していた。


鉄級にも上がったので、今日は非番の日にしたところ……珍しく、アルルが自らお願いをしてきた。


お休みなら、お父さんとお出かけしたいと……くぅ! 泣ける!


「お、お父さん、平気? まだ眠かった?」


「い、いや、平気さ。歳をとると、涙腺が緩んでな」


「よくわかんないけど、無理はしないでね?」


「アルルは良い子だな!」


「わぁ!?」


あまりの健気さに、思わず抱きしめてしまう。

しかし、それも仕方のないこと。

うちの娘は可愛いのである。


「お、お父さん」


「おっと、すまんすまん」


すると、呆れた表情のサクヤと目が合う。

なるほど、そういうことか。


「……なんだ、お前もして欲しかったか!」


「ニャ!?」


「油断したな」


逃がさないように、サクヤをホールドする。

ふっ、俺に捕まるとはまだまだ甘いな。


「グルッ!」


「サクヤちゃん、恥ずかしいって……」


「グルルー」


「それと頭でも打ったかって……」


「……確かにおかしいな。すまん、少し舞い上がってたらしい」


弟子達との再会と成長、アルルとサクヤとの日々。

そして鉄級になったことで、気が高ぶっていたようだ。

そこに、アルルのお願いが追い打ちをかけたに違いない。


「でもお父さんが嬉しいとわたしも嬉しい……なんでだろ?」


「それは自分の大事な人が嬉しかったら嬉しい……俺もアルルが嬉しいと嬉しいしな」


「えへへ、そうなんだ……」


「というわけで、俺はアルルの喜ぶ顔が見たい。そうだ、あそこに行くか」


そして俺はアルルの手を引き、商店街にある本屋へと入る。

そこは辺境とはいえ一番栄えてる都市、それなりの広さと本が揃っていた。


「わぁ……本がいっぱい!」


「前に食べられる山菜とか見てたろ? 植物図鑑とか欲しいかと思って」


「……いいの?」


「ああ、安いもんさ。他にも欲しいものがあったら言いなさい」


「……お父さん! ありがとう!」


笑顔で頷き、自分の興味のありそうな本を見て回っていく。

サクヤが俺の方を見て、こっちは任せろと言ってきた。

なので俺は俺で、自分の目的の本を探すことに。


「最近の世界情勢はどうなってる?」


俺がいた頃はまだ、他国と戦争なども起きていた。

しかし、今のところそんな話は聞かない。


「おっ、あったあった……ふむ」


詳しい内容は書いてないが、どうやら大規模な戦争は十年ほど起こっていないらしい。

概ね、他国に移動することに問題はなさそうだ。


「まあ、本当なら戦争などしてる場合ではないからな」


幸か不幸か、魔物の出現によって戦争は減ったとか。

人がいる、または死ぬところに魔物は現れる傾向が強い。

戦争して疲弊したところを、魔物に襲われでもしたらたまったものではないだろう。


「国家機密に値するから、流石に詳しい地図はないか」


それでも簡易的なものはあったので、今後の為にそれを手に取る。

後はアルル用と自分用にいくつか見繕い、それを持ってアルルの所に行く。

アルルを見つけたが、俺に気づくことなく夢中で本を読んでいた。


「アルル?」


「あっ、お父さん……!?」


俺に気づくと、さっと本を後ろに隠した。


「何を見てたんだ?」


「う、ううん! 何でもなくて……」


「アォン」


「サクヤちゃん? ……ちゃんと言わないとだめ?」


どうやら、サクヤが説得をしているようだ。

俺は邪魔をしないように、おとなしく待つ。

すると、アルルがおずおずと本を差し出す。

それは、基本的な魔法が書かれていた書物だった。


「おっ、魔法を使いたいのか?」


「う、うん……でも、少し値段が高いの」


「なんだ、そんなことは気にしないでいい」


「あ、あと、お父さん魔法使えないって言ってたから……わたしが使えたら役に立てるかなって」


「ぐはっ!?」


その言葉を聞いた瞬間、俺は膝から崩れ落ちる。

それはどんな攻撃よりも、俺にダメージを与えた。


「お、お父さん!?」


「アォン……」


「頭がおかしいだけだから平気……どういうこと?」


「おいサクヤ、誰の頭がおかしいって……ふぅ、すまん」


どうにかダメージから抜け出し、改めてアルルと向き合う。

まさか、そんなことを考えているとは。


「ど、どうかな? わたし、魔法を覚えたい……!」


「もちろんいいに決まってる。よし、それを買って行こう」


「わぁーい! ありがと!」


「なに、礼を言うのはこちらだ」


俺を気遣ってくれることもそうだが、一番嬉しいのは自主性が出てきた所だ。


今はまだ俺に対してたが、今後は自分自身がしたいことを考えてくれれば良い。



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