第43話 決意

夜明け頃、俺は宿の部屋のベランダに出る。


そこからは朝日が昇って見え、身体は朝の冷たい空気を感じる。


昨夜は久々に仙気も使わず、ただひたすらに酒に溺れた。


この二日酔いの頭痛が、昨日の出来事の証だと思うから。


「……そうか、俺は役立たずではなかったのだな」


もちろん、薄々は気づいていた……いや、そう思うことで自分を守っていた。

もし本当に役立たずだと捨てられたら、その痛みに耐えられないと思ったから。


「しかし、そうではなかった。それところが、俺が弱いばかりに皆を悲しませてしまった」


俺が秘境から出れないとはいえ、無事を知らせる方法はいくらでもあった。

それこそ、出て行った弟子達に手紙だけでも渡せば良い。

それをしなかったのは、俺の弱さ故だ。


「……今からでも間に合うだろうか?」


出来るなら、他の仲間達にも会いたい。

謝罪をして、許されるならドランのように酒を交わしたい。

それが無理でも、どんな罵声でも浴びせていいから一目見て話がしたい。

そしてまた、友として友誼を結びたい。


「そのためには、色々とやらねばならないことが多い」


まずは銅級冒険者に上がり、国境を越えられるようにならねばならない。

無限ではないので、路銭の確保なども必要か。

カエデとカイル、ドランにも話を通さなくてはいかん。

そんなことを考えていると、寝ぼけたアルルがやってくる。


「お父さん……ベランダに出てどうしたの?」


「いや、少し涼んでいただけさ。すまんな、起こしてしまったか?」


「ううん、目が開いたらお父さんいなかったから……」


「そうか、そいつはすまなかったな」


彼らを探すとなると危険が多い。

ギルマスが情報を持ってないということは、何処か僻地にいるかもしれない。

下手すると大陸から出ていたり、ここから遠くにいるかもしれない。

そんなところに、アルルやサクヤを連れて行く……カエデとカイルに、二人を預けるべきだろうか?


「お父さん……」


「ん?」


アルルが、俺の服の端を掴んで不安そうに見上げてくる。


「ど、どっかいっちゃ……やだよぉ」


「すまん、不安にさせてしまったか。そうだな……少し遠くに行く必要があるかもしれない。アルルは、ついていきたいか?」


「わたし、ついていきたい!」


「ここなら安全だし、カエデやカイトもいるが……前も言ったが、もうここには戻ってこないかもしれない」


「お父さんと一緒! カエデお姉ちゃんやカイトお兄ちゃんもいるけど……お父さんと一緒がいい!」


そう言い、ぎゅっとしがみついてくる。

この子を拾った時とは状況が違う。

自我が芽生えて色々な知り合いが増えても尚、俺についていきたいというなら止めるのはダメだろう。


「わかった、なら一緒に行こう。アルルがいてくれると、俺も嬉しいしな」


「ほんと!? ……わたし、邪魔じゃない?」


「ああ、今のはアルルの意思を確かめただけさ」


すると、俺の尻が何かで叩かれる。

振り返ると、サクヤがムスッとした表情で座っていた。


「おいおい、何をむすっとしてる?」


「グルルー」


「サクヤちゃんが、自分を勝手に置いて行くなって……お父さんについて行くって」


「そうか、お前もついてきたいのか……仕方ないなぁ」


やれやれ、まだまだ親離れはできないらしい。

俺がわざとらしくニヤニヤすると、サクヤが歯をむき出した。


「アォン!」


「甘いな!」


「グルッ!?」


飛びかかってきたサクヤを部屋の中に放り投げる。

そのままベッドに行き、取っ組み合いを始めた。


「ハハッ! これではまだ独り立ちはさせられないか!」


「グルルッ……!」


「えへへ、サクヤちゃん嬉しそう」


そして一頻り遊ぶと、サクヤが俺の背中に寄りかかる。

そして、尻尾を俺の太ももにペチペチしてきた。


「ハフハフ……グルルッ」


「はいはい、悪かったよ。お前もついてくてくれたら嬉しいさ」


「アォン」


「えへへ……サクヤちゃん、それでいいって」


「では、予定通り三人で行くとするか」


最初はただ師匠の遺言通りに旅をし、サクヤを育てるつもりだった。


だが、 今は違う。


アルルを責任持って育て、仲間達に会うためにも冒険者ランクを上げていく。


そして、失った夢を叶えよう——白銀級冒険者になるという夢を。


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魔力なしの冒険者、十五年の時を経て最強になる~娘と相棒と旅をして、弟子達と昔の仲間に会いにいく~ おとら @MINOKUN

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