第29話 最強の男?
それから五日が過ぎた。
約束通りカイトと稽古をしたり、カエデとの稽古したり。
アルルとサクヤと共に出かけ、買い物や依頼を受けたり。
そして、いよいよあの時が来た。
「はい、これにて……ハルトさんは鉄級冒険者となりました」
「ありがとうございます……!」
受付の方からギルドカードを受け取り、それを眺めると感慨にふけってしまう。
ようやく、ここまで戻ってきた。
追放から十五年、ここからが新たなスタートだ。
「とても堅実な仕事をされる方なので、評判も良いですよ。引き続き、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「お父さん! おめでとう!」
「アォン!」
「ああ、ありがとう」
そのまま、鉄級冒険者について簡単な説明を受ける。
これで新人以上一人前未満のランクとなるので、大事な時期になる。
ここで失敗したり、命を落としたりする冒険者が多いのだ。
なので一度経験をしたが、改めて忠告を聞くことにした。
「まずは行ける範囲が変わります。西口から出る先にある森に入ることができます。ただし、あそこには危険な魔物や魔獣もいるので無理はいけません」
「ええ、わかりました」
それは身を以て知っている。
俺は無理をして、あそこで死にそうになった。
「それと鉄級なので、国境付近までの村などにも行ける依頼があります。護衛依頼などもありますので、戦う以外のことにもお気をつけくださいね。村人との関係もそうですが、商人などに悪印象を抱かれないように」
「ええ、気をつけます。商人などは情報網がありますからね」
「はい、悪い噂などはすぐに広まってしまいます。冒険者ギルドとしても困りますし、冒険者自体の仕事にも関わりますから。ハルトさんは、そのままであれば問題ないかと」
「そう言って頂けると嬉しいですね。後は、何か気をつけることはありますか?」
すると、受付嬢の顔が曇る。
その様子から俺は辺りを見渡し、小声で話しかけることにした。
「何か問題が?」
「い、いえ……ですが、報告をくれた一人でもあるのでお知らせした方が良いかもしれないです。実は、やはり森で異変が起きているようなのです」
「異変ですか……ゴブリンやオーク、それにコボルトソルジャーのことですよね?」
「はい、そうです。ただ、まだ何も確証がないので……森に行く際にはお気をつけくださいとしか言えないのです」
「わかりました。引き続き、気をつけるとします」
そんな話をしていると、後ろから声が聞こえる。
それは二日前から、郊外に依頼に出ていたカイトとカエデだった。
「あっ! にいちゃん!」
「兄さん! ただいま!」
「ああ、お帰り。二人共、無事で何よりだ」
そこで二人が、俺の持っているカードに気づき……そのまま、抱きついてきた。
「兄さん、鉄級冒険者になったの!? おめでとう!」
「おぉー! めでてぇ!」
「お、おう……照れるな」
この歳になって、こうも祝われるのは恥ずかしいものがある。
だが、悪い気はしない。
すると、後ろの受付の方から声がかかる。
「あ、あのぅ……」
「あっ、騒がしくて申し訳ない。すぐに場所を変えますので……」
「い、いえ、そういうことではなくて……最強の冒険者ハルトさんですか?」
「……はい?」
誰だそれ?
そういえば、最初の頃にも聞かれたな。
確か、同じ名前の人がいるとか。
「カエデさんとカイトさんの師匠って方みたいですし。お二人は有名で、誰に教わった
と皆が聞いたのですよ。そしたら、最強の冒険者ハルトさんにと」
「そうっすよ! にいちゃんは最強っすよ!」
「私達が束になっても勝てないしね」
「……犯人はお前達か」
なるほど、噂の男は俺だったと。
……まだ鉄級冒険者なのだが?
「ですが、少し納得しました。それならば、牛鬼を倒せるわけですね。ただ、最強は少し言い過ぎかなと」
「ええ、その通りです。俺はまだまだ未熟者ですから」
「まあ、噂とは尾ひれがつくものですよ」
「全くです。二人には、俺から言っておきます」
そして何か言いたげな二人も連れて、ギルドを出て行く。
「さて、二人共……どういうことだ?」
「え、えっと……にいちゃん、怒ってる?」
「ダメだった……?」
「いや、怒ってもいないしダメなこともないが……とりあえず、俺の宿に行くとしよう」
そして宿に戻り三階に向かい、サクヤにアルルを任せる。
不安そうにしていたので、喧嘩とかじゃないと補足しておいた。
「それで、どうしてこうなった?」
「いやー、聞かられたからさ。俺の知る中で最強と言えば、にいちゃんだもん」
「そうね。兄さんより強い人、この辺境では見たことないし」
「いや、師匠がいるだろ?」
俺は間違っても最強などではない。
師匠には一度も勝ったことはないし、他にも強い者は沢山いる。
「だって、あんまり見たことないしさ。そもそも、師匠はオレ達を拾ってきてからすぐに死んじゃったから」
「私達の稽古をつけてくれたのは、いつも兄さんだったし。もちろん、強いっていうのはわかるけど」
「あぁー……それもそうか」
一番下のこの子達は、師匠のことをあまり覚えてないか。
それに師匠と俺が本気で稽古するとき、それは地形を変える。
なので里では本気ではなく、流す程度のことしかしてなかった。
師匠の本気を知っているのは、村長と俺くらいか。
「だから、オレ達の中ではにいちゃんが最強ってわけ」
「でも、兄さんは威張りたい人じゃないし……配慮に欠けていたわ、ごめんなさい」
「それはそうだよな……にいちゃん、ごめん。オレ達、にいちゃんを自慢したかったんだ」
……そんなこと言われたら何も言えんではないか。
それに確かに最強と言われる者には値しないが、この子達がそれで誇れるなら……これからなれば良いだけだ。
「……いや、いいさ。そう言ってくれるのは嬉しいよ」
「ほんと!? じゃあ、自慢していこうぜ!」
「そうね! どうせ、姉さんや兄貴が自慢して回ってるだろうし!」
「……待て待て、先に出て行った奴らも言っているのか?」
「うん、言ってると思うぜ」
「ええ、間違いないわ」
……どうやら、会う目的が増えたな。
巣立った子達に会って、しっかりと話をせねばなるまい。
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