第19話 昔の夢

急に呼び出してどうしたんだろ?


 ある日俺は、パーティーを組んでいる仲間達に大事な話があると手紙で呼び出された。


 普段はそんなことないので、戸惑いながら指定された部屋に入ると……そこには神妙な表情を浮かべた仲間達がいた。


「……みんな揃ってどうしたんだ?」


 サラサラの金髪と端正な顔立ちとは裏腹に、鎧を纏い槍と盾を巧みに操るゼノス。

 身長は小さいが逞しい肉体を誇る、大きい斧と土魔法を得意とするドワーフ族のドラン。

 この世のものとは思えない整った容姿をした、弓と風を自在に操るエルフ族のリーナ。

燃えるような赤髪に身長もでかくガタイのいい、徒手空拳を得意とする獣人族のレオン。

 優しい顔立ちと瑠璃色に輝く長い髪が美しい、水魔法使いにして貴重な癒し手のユリア。

 唯一魔法も使えず、黒髪で地味な剣士の俺を含めて、この六人でパーティーを組んでいた。


「あ、あのね、ハルト……」


「待て、俺が言おう」


 ユリアの言葉を遮り、リーダーでもあるゼノスが手を挙げた。

 ユリアが何か言いたげに口を閉じ、他の三人は黙って静観していた。


「……だから、どうしたんだ?」


「単刀直入に言う——お前にはパーティーから抜けてもらう」


「……へぁ?」


 我ながら、何とも情けない声が出た。

 だが、それくらい衝撃的なことだった。

 俺は頭を振り、すぐに問いただすことにする。


「ど、どうしてだ? 俺が何かしたか?」


「……お前が役立たずだからだ」


 俺はこのパーティーにおいて遊撃の役目を担っていた。

 ゼノスやドランがタンクを務める中、レオンと共に敵を減らす役目だ。

 そこを魔法使いの二人が、大技を使ってとどめを刺す。

 確かに魔力がなく身体強化や魔法も使えないが、決して役立たずではなかったはず。


「そんなことはないはず!」


「もう分かっているのだろう? それとも、気づかないふりか?」


「一体何のこと……」


「いや、気づかないとしたら尚更のことだ。俺達はこれより王都に行き、白銀級冒険者を目指す。その足を引っ張るお前には用はない。だから、お前とはこれ以上パーティーは組めない。荷物をまとめて、ここから出て行け」


 他の四人に視線を向けるが、皆が冷たい目で俺を見てくる。

 お堅いレオンやドランはともかく、陽気なリーナや優しいユリアまでも。

 どうやら、俺がいない所で何もかもが決まっていたらしい。

 ……こうなると、もうどうにもならないか。


「……わかった、すぐに出て行く」


「……あぁ、そうしてくれると助かる」


「今まで世話になった」


 そうして振り返りもせず部屋を出て、俺は自分の部屋に戻り急いで荷物をまとめた。


 そして失意の中、拠点であった宿を出て行くのだった。



目を覚ました俺は一足先に歯ブラシをする。


その間にも、夢のことを思い出す。


「……久々に昔の夢を見たな」


追放された直後によく見て、師匠に拾われてから頻度は減った。

それ以来は見てなかった気がする。


「多分、早く忘れたかったんだろう……今にして思えば、ゼノスらしくなかったな」


ゼノスは仲間思いで、仲間に危険が迫ると身を呈して守るような奴だった。

そして、俺の親友でもあった男だった。

その男が、俺を役立たずという理由で追放するか……否だ。


「……あの時の俺は、そんなことを考える余裕もなかった」


ただ悔しくて、頭の中は『どうして!?』で埋め尽くされた。

そして結果として無茶をし、森で魔物達に負けることに。

そうして、師匠に拾われた。


「それと同時に、その記憶を無理矢理に封印したんだ。そしたら、自然と思い出さなくなった」


あの時、ゼノスは俺にわかっていないのかと聞いた。

あの言葉の意味、今なら何となくわかる。


「要は、俺が力不足だったということだよな。確かに仲間達の才能は凄く、魔力がない俺ではついていけなくなるのは目に見えていた。おそらく、何処かでミスをして仲間を危険に晒したかもしれない……当時は気づかなかったが」


もしかしたら、単純に愛想をつかされただけかもしれない。

ただそう思うと、少し気分が晴れる気がした。

すると、俺の膝で寝ているアルルが身動ぎをした。


「ん……ふぇ?」


「おはよう、アルル」


「お、おはよう、お父さん……」


アルルは恥ずかしいのか、布団に潜り込んでしまう。


「別に昨日だって一緒に寝てたろ?」


「だ、だって、昨日からお父さんだもん……」


あぁー、そういうことか。

今までは仮のお父さんで、昨日からは正式なお父さんになった。

正式に手続きを済ませ、アルルは俺の義娘となったのだ。


「ああ、そうだな。ほら、顔を洗って歯ブラしなさい」


「うんっ!」


アルルが洗面所に行った後、座布団で寝ていたサクヤが欠伸をする。

そして大きく伸びをし、寝ぼけた目で俺のところにやってきた。


「ゴロゴロ……」


「ほら、お前はお姉さんだろ? しっかりしなさい」


「アォン……!」


寝ぼけながらも、よろよろと洗面所に向かう。

すると、アルルがサクヤの分の歯ブラシを持ってくる。


「はい、サクヤちゃん!」


「ククーン……」


「あ、あれ? ダメだったかな?」


「アォン……」


サクヤが少し落ち込んだ様子で、歯ブラシを受けとる。


どうやら、まだまだお姉さんになるのは遠そうだ。

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