第20話 女々しい気持ち

朝食を済ませたら、冒険者ギルドに向かう。


まずはランク上げのために、依頼表を眺める。


一つ上のランクにはポイントが高いものもあるが、俺は一からやり直すと決めていた。


なので石級の依頼のみを受けて、鉄級に上がるつもりだ。


「さて、どれを受けるか。アルルもいるし、別行動になるようなものは避けたいな」


「お父さん、ごめんなさい……」


「なに、気にしなくていい。俺が勝手にそうしたいってだけの話だ」


「えへへ……お父さん、依頼によってポイントが違うの?」


頭を撫でられて喜んでるアルルが、不意にそんな質問をしてきた。

数字や文字を覚えてきたので、気になったようだ。


「ああ、そうだ。難易度がそれぞれ違うからな。ゴブリンなどの弱い魔物や、簡単な採取などはポイントが低い。その代わり遠くに行く依頼や、強い魔物などはポイントが高くなる」


「強いのは何となくわかるけど、どうして遠くに行くとポイントが高いの?」


「いいところに気がついたな。それは遠くに行く分時間がかかるからだ。そのためには、色々と用意しないといけない」


「あっ、そういうことなんだ。その分の時間があれば、他の依頼受けられちゃうもんね」


「おっ、賢いな〜」


「えへへ、褒められちゃた」


色々なことに疑問を持つこと、それはとても良いことだ。

学ぶということは、先のことを考えているということ。

それはつまり、未来を見ているということだからだ。


「さてさて、どれを受けるか……結局、前回は森に入らず仕舞いだったな」


「アォン」


「ああ、そうだな。それじゃ、森に入る依頼にするか」


俺は適当な依頼を見繕い、受付に持っていく。

受理されたら、準備を済ませて門を出る。


「さて、アルル」


「なぁに、お父さん?」


「できれば昼前に依頼をあらかた完了させたい。なので、急いで行く。かなりの速さになるが、いいだろうか?」


「うん、平気!」


「よし、わかった。それじゃ、いくとしよう。サクヤ、遅れるなよ?」


「アォン!」


アルルを抱っこして、街道を走り抜ける。

走る馬車や人を追い越し、景色が移りゆく。


「わぁ……! 速い速い!」


「大丈夫か?」


「楽しいです!」


「そうか、そいつは良かった」


アルルが楽しそうに笑うので、俺の走りにも気合が入る。

そして、三十分程度で森へと到着した。


「すごい! もう着いた!」


「ははっ、少し本気を出せばこんなものさ」


「ハフハフ……グルッ!」


「あいたっ!? なにすんだよ?」


息を切らしたサクヤが、尻尾で俺の尻を叩いたようだ。

睨み付けると、不満そうに見上げてきた。


「え、えっと、調子に乗って走りすぎだって……アタシ、疲れたんだけどって」


「あぁー……すまん、悪かった」


「わ、わたしもごめんなさい」


「アォン」


「あはは……わかればいいって」


「それはそれで偉そうで腹が……何でもない」


また尻尾が飛んできそうなので、黙ることにするのだった。

少し休憩をしたら、森へと入っていく。


「アォン」


「サクヤちゃんが、今回は森の外で襲われなかったって」


「どうやら、いつも以上に間引きをしたらしい。俺の報告の他にも、似たようなことを言っていた冒険者達がいたみたいでな」


アルルがいるおかげで、サクヤの言っていることが正確にわかるのは助かる。

今までは、何となくでしか理解してなかった。

どうやら、俺の事を好きみたいだしな……本人は認めないが。


「そ、そうなんだ……」


「大丈夫だ、お父さんがついてる」


「アォン!」


「お父さん、サクヤちゃん……うん!」


その後、特に問題なく森を探索する。

そして、お目当ての薬草を発見した。


「おっ、あったあった」


「お父さん、これはなぁに?」


「これはヨモギの葉という。傷薬や食材にもなったり、お茶なんかにも使える便利な草だよ」


「へぇ〜! お父さん、物知りさん!」


「ふふ、そうだろー」


田舎のガキだった俺に、これを教えてくれたのはユリアだった。

回復魔法とて万能ではないから、傷薬を作れるようにって。

師匠に拾われる直前も、傷薬を作って塗っていた。

あれがなければ、保たなかったかもしれない。


「お父さん? 大丈夫?」


「あ、ああ、すまん」


しまった、つい考え事を。

……あんな夢を見たからだ。


「お父さん、わたしの世話ばっかで疲れてるよね……」


「いや、そういうわけ」


「わたしも手伝う! お父さん、見てて!」


「お、おい!」


「アォン!」


駆け出すアルルを、サクヤが追いかける。

一瞬だけ俺の方を見て、任せろと言っていた。


「……まあ、この辺りにサクヤを倒せる生き物はいないから平気か」


それにしても、気を使われてしまった。


「……未練だな」


あのまま、仲間達と一緒だったら。

あの時に、今の力があれば。

だが、この力は追放されたから身についた力。


「何より、サクヤやアルル。それに師匠や弟子達にも会えてない」


……人生とは、ままならないものだな。


俺は一つ深呼吸をしてから、二人の後を追いかけるのだった。



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