第21話 人助け

二人の後を追っていくと、アルルが一生懸命に草を眺めていた。


隣にはサクヤが付き従い、時折アルルの手を軽く弾く。


「これはダメ?」


「グルルッ」


「毒なの!? あ、危ないね」


「グルルッ」


「こっちは安全で食べられるの? サクヤちゃん、すごい!」


「アォン!」


どうやら、食べられる山菜などを採っているらしい。

サクヤの鼻は特別製で、毒や食べられるものを感じることができる。

……しかし、ヨモギの葉はどこいった?


「アルル、サクヤ、ヨモギの葉は見つかったのか?」


「……ふぇ!? わ、忘れちゃった……」


「ククーン……」


「ん? どういうことだ?」


何やら落ち込んだ二人に話を聞くと……どうやら、探しているうちに違う草が気になったらしい。

そのまま、どれが食べられるとか考える方向に行ったとか。


「ご、ごめんなさい……」


「何も謝ることはないさ。アルルは、草とか好きなのか?」


「え、えっと……一人ぼっちだったから、やることがなくて……だから外に出て食べられる草とかを探してて」


それを聞いた瞬間、俺はアルルを強く抱きしめる。

そして、自分の愚かさを呪った。

この子は、それくらい過酷な環境にいたということだ。


「お、お父さん!?」


「アルル、謝るのは俺の方だ」


「へ、平気だよ? 今はお父さんとサクヤちゃんいるもん……それに、そういうのを好きなのは嘘じゃないから」


「そうか……」


よし、決めた。

この依頼が終わったら、アルルに本を買ってあげよう。

すると、人の叫び声が聞こえたような気がした。


「……サクヤ」


「アォン!」


どうやら、聞き間違いではないらしい。

そうなると、どうするが正解か。


「さて、どうする?」


 冒険者とは、基本的に自己責任だ。

 依頼を受けるのも自分だし、それで死ぬことになっても自分が悪い。

助けたことで依頼を邪魔する場合もある。


「だが……俺は知らんぷりをするような真似はしたくない。サクヤ、アルルを任せるぞ」


「アォン」


「お、お父さん!気をつけてね!」


俺は頷き、その声のする方へと駆け出していく。

木々をすり抜け森の中を疾走して、数分後に森を抜けた。

そこには、犬の化け物に襲われてる人を発見する。

あれはコボルトの上位種である、コボルトソルジャーか。


「ランド!」


「ガァァァ!」


 犬の顔に、二足歩行で全身が毛に覆われている。

その手には剣が握られ、二メートル近い大きさだ。

 メンバーは二人で、一人が怪我をしている。


「く、くそ! なんでこんなところにコボルトソルジャーが! 俺が引きつけるからラーラだけでも逃げろ!」


「い、いや!」


  俺はそのまま、少年を庇うようにコボルトの前に立つ。


「だ、誰だ!?」


「ただのおっさんだよ」


「ガァァァ!」


「邪魔だ、若い芽を摘むんじゃない——剛気刃!」


「グギャァァァ!?」


 仙気を纏った抜刀により、相手の身体に一直線の傷ができて地に伏せる。

怪我人がいるので、迅速に倒す必要があったが……さて。

俺は振り返り、彼らと向き合う。


「すまない、お節介だったか?」


「い、いえ! ありがとうございます!」


「本当にありがとうございます!」


 二人して、頭を下げてくる。

 どうやら、していいお節介だったらしい。

 感謝を求めたわけではないが、やはりこちらの方が気分はいい。


「それなら良かったよ」


「そ、それにしても、強いですね?」


「本当だよね! 鉄級のコボルトソルジャーを一撃で倒しちゃうなんて!」


 見たところ、10代後半くらいの男女の組み合わせのようだ。

 真面目そうな少年と、活発そうな少女である。

おそらく、新人の冒険者だろう。


「それで、何があったのかな?」


「それが、石級のゴブリン退治に来たんですけど……そしたら、鉄級であるコボルトソルジャーに出会ってしまいました」


「普段は、こんなところにいないんですよ! コボルトならまだしも、コボルトソルジャーなんて!」


 一部の魔物は進化するらしい。

 条件はわからないが、ソルジャーやジェネラル、キングといったように。

そして頭も良くなり、無闇に人前には現れない傾向を持つとか。


「なるほど……」


「どうしたんだろ?」


「うーん、困るよね。私達にとって、ここは安全な狩場というか…」


「なんか、少し様子が違う気がするよな」


 もしかして……森の外にゴブリンがいたことが関係している?

 オークも、森の外には出てこないって言ってたしな。

この件についても相談するか。

俺がひとまず戻ろうと言いかけた時、何かが聞こえる。


「二人とも、何かくる」


「えっ!?」


「こ、今度は何?」


 そして、茂みから何かが飛び出してくる!

全身を赤い皮膚に覆われ、体長一メートルくらいの大きさ。

 その二本の角は太く尖っており、人を貫くには十分だろう。


牛鬼ぎゅうき!? なんでこんな手前の森にいるんだよ!?」


「牛鬼……?」


俺がいない間に、こんな魔獣も出るようになったのか。

やれやれ、本当に取り残されてるな。


「気をつけてください! 強い魔獣です! そのツノを使った突進は、先程のコボルトソルジャーをも貫きます!」


「フルルッ!」


 どうやら、興奮している様子だ。

 背を向ければ、おそらく後ろから貫かれる。


「ところで、こいつは美味いのか?」


「えっ? は、はい、中々市場に出回ってないとか」


「貴族達が依頼を出すくらいだと聞いたことあります」


「ふむふむ、こいつは保護されるべき魔獣だろうか?」


「いえ、見境なく襲いかかるので……」


「情報に感謝する」


 相手から目線を逸らさずに思案する。

どうやら、戦いは避けられないらしい。


「……やるか。君たち、そこから一歩も動くなよ? おそらく、動いた奴が狙われる」


「わ、わかりました」


「は、はい……!」


「良い子だ……さあ、かかってこい」


「フルルッ!」


 俺が動きを見せると、予想道理に突っ込んでくる!

 しかし……受け止めるつもりだったが、予想外の出来事に判断を変えて避ける。


「ふむ……強いと言われるわけだ」


「フルルッ!」


 その突進は、大木を倒していた。

 奴が走ってくる瞬間、そのツノが回転をしたのが見えた。

 さながら、ドリル回転といったところか。


「ひぃ!?」


「か、身体がバラバラになっちゃうよ……」


「大丈夫だ、次は止める」


「「へっ??」」


「仙気解放」


 惚ける二人を尻目に、少し腰を落として構える。

全身に気を巡らせ、どんな突進だろうと止めるという意思でもって。


「さあ、こい」


「フルルッ!」


「フンッ!」


 もう一度同じように突進してくるのを、ドリルの付け根を押さえることで止める。

ドリルが回転する轟音が耳を直撃し、俺の腹を貫こうと牛鬼が体ごと押してきた。


「おっさん! む、無理だって!」


「早く手を離さないと!」


「問題ない……!」


 俺の計算が正しければ……よし! 回転が止まった!

 回転が止まったツノに膝蹴りを叩き込み——へし折る。


「フルァァァ!?」


「とどめだ」


その隙を突き、抜刀によって首を切断する。


「う、嘘だろ……?」


「あのドリルを止めちゃった……?」


「ふぅ、前の俺だったら止められなかっただろうな」


仙気を使ったとはいえ、全力でなくても止めることができた。

俺の仙気の扱いが、師匠に近づいたのかはわからない。

だが少なくとも、以前よりは強くなったことを実感する。


「あ、あの! 本当にありがとうございました!」


「ありがとうございます!」


「いや、冒険者は互いに助け合わなくてな。ひとまず、送って行くから帰ろう。そして、ギルドに報告だ」


「そ、そうですね」


「はいっ!」


……この二人の若者を見ていると、旅立った二人を思い出すな。


帰ったら、ギルドで二人について聞いてみるとするか。





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