第34話 道中にて

馬車を借りたら、早速都市を出発する。


御者は雇わずに、交代で馬を運転することにした。


こうすればアルルも楽しめるだろう。


カイトにアルルと御者を任せ、俺はカエデと馬車の中で過ごす。


ちなみにサクヤは、カエデの膝の上に頭を乗せて寝転んでいた。


「ゴロゴロ……」


「ふふ、どうしたの? 珍しく甘えてるけど」


「きっと、アルルがいないからだろ。アルルがいると、お姉さんのふりをしないといけないからな」


「その気持ちはわかるかも。しっかりしなきゃって思うよね」


悪い意味ではなく、そういうものなのだろう。

しかし、それは成長のためには欠かせない要素だと思う。

だが……少し寂しいと思うのが、複雑な親心だ。


「カエデも甘えて良いんだぞ?」


「えー、どうしよっかなー。私はシズク姉みたいにはできないし」


シズク、それは五人いる女の子の中で四女に位置する女の子だ。

優秀な土魔法の使い手なのだが、極度のめんどくさがりで甘えん坊だった。

あの子を里から出すときは、相当苦労したな。


「あれと一緒だと流石に困るが」


「だよね。うーん……気が向いたら」


「ああ、それでいい」


しっかり者ではあるが、やはり猫獣人特有の気まぐれさがある。

あんまり押しても良いことはないので、この辺りでやめておこう。

……そんなことすると、嫌われちゃうよってよくセシリアに言われたしなぁ。


「ねえねえ、兄さん。ところでさ、これからはどうする予定なの?」


「この先の話か……ひとまず、第一目標であったお前達とは会えた。あとは知り合いを探したりしながら、銅級冒険者目指すつもりだ」


「そしたら、ここを出て行っちゃう?」


「ああ、その予定だ。カエデ達は、後どれくらいでランクが上がるんだ?」


「多分、数回やれば上がると思う。もしくは、大きい仕事を一個こなすとか」


「なるほど。それなら、俺より早くランクは上がりそうだな」


「そのつもりだしね。兄さんには負けないって、カイトと言ってたし」


すると、サクヤが急に起き上がる。

耳がピクピクしたので、俺とカエデも戦闘態勢に入った。

少し遅れて、御者をしているカイトから声が上がる。


「にいちゃん! コボルトの群れだ!」


「わかった! 俺たちで迎撃する! お前はアルルを守れ!」


「アォン!」


俺が馬車を出ようとすると、サクヤが尻尾で叩いてくる。

ふと見ると、その顔は自分に任せろと言っていた。

おそらく、カエデとカイトに成長した自分を見せたいのだろう。


「そうだな……最近はアルルの護衛を任せていたしな。わかった、行ってこい」


「アォン!」


俺の声に馬車から飛び降りて、コボルトの群れに突っ込んでいく。

馬車は一度止まり、その戦いを四人で見守る。


「ガァァ!」


「グルルッ!」


コボルトも素早いが、サクヤは更に素早い。

コボルト達がサクヤを囲む前に、ジグザグに動いて各個撃退していく。

たまに背後を取られるが、尻尾ビンタによって相手をぶっ飛ばす。

……俺、よくあんなの食らってんな。


「うひゃー、サクヤ強くなったな!」


「ほ、本当ね……あんなに小さかったのに。尻尾も第三の手みたいに器用に使ってるし、ヨルさんを思い出すわ」


「わかるわかる。ヨルさんの尻尾ビンタは、オレ達はよく食らってたからなぁ」


「そうそう、よく稽古してもらってたよね」


「あぁー、二人からしたらそうなるのか」


二人はサクヤが赤ん坊の時から知っている。

あの頃は、『ぴー、ぴー』と鳴いていたな。

俺の後をついて回ったり、カイトとカエデとよく遊んでいたっけ。


「オレ達とは成長速度が違うとはいえ……負けられねえ」


「そうね。私達も頑張らないと」


「サクヤちゃん、楽しそう!」


そしてあっという間に、二十匹ほどいたコボルトの群れを殲滅した。

戦いを終えたサクヤが、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「ハフハフ……」


「サクヤ! すげえな!」


「強くなったのね!」


「アォン!」


二人に撫でられて、サクヤはご満悦の様子。

しかし、街道にコボルトの群れか。

奴らは頭が良いが弱い。

いくら馬車が一台とはいえ、こんな目立つ場所で襲いかかるか?

これも、森の異変の影響かもしれん。


「お父さん?」


「ん? あぁ、何でもないさ。ほら、二人とも。討伐依頼の証を取るから手伝ってくれ」


「「はーい!!」」


アルルをサクヤに任せ、三人で討伐依頼の証である耳を切り取る。

それが済んだら死体を燃やし、再び馬車を走らせる。

御者をカエデに代わり、今度はカイトと馬車にて話を……と思ったが。


「アォン!」


「おっ!? 狭えからやめろって!」


「……こうも違うか」


サクヤがカイトにじゃれつき、車内がガタガタ揺れる。

カエデには甘え、カイトには遊んでもらうらしい。

すると御者側から、カエデが顔を出してきた。


「ちょっと! カイトもサクヤも暴れないでよ! 兄さんも止めてってば!」


「「すいません」」


「ククーン」


一番下の妹に怒られ、俺達は大人しく座るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る