魔力なしの冒険者、十五年の時を経て最強になる~娘と相棒と旅をして、弟子達と昔の仲間に会いにいく~

おとら

第1話 旅立ち

……ここにきて、十五年か。


今年で三十二歳、もうおっさんに片足を突っ込んでしまった……片足で済むか?


寒空の下、お世話になった孤児院を見上げながら感慨にふける。


「十七歳の時に、パーティーを組んでいた仲間達から追放され……彼らは俺を置いて、辺境から王都に行ってしまった」


俺達は当時、新進気鋭の冒険者パーティーと知られていた。

当然、そんなパーティーから追放された俺と組んでくれる者もいなく……俺はソロ冒険者として活動していた。

悔しくて、そして強くなりたい一心で、とにかくがむしゃらに依頼を受けていた。

しかし、そんなことが長続きするわけもなく、ある時俺は森で魔物達に囲まれてしまう。

限界まで戦った俺はいつのまにか森を抜けて……そこをカイゼルさん……いや、師匠に拾われた。


「師匠は死にそうだった俺を救ってくれ、俺に稽古をつけてくれた……感謝しかない」


俺の事情も聞かずに家に置いてくれて、暖かい風呂と美味しいご飯を食べさせてくれた。

そして俺は恩返しのために、住み込みの仕事をすることにした。

俺は料理が好きだったので、同じく料理好きだった師匠も喜んでくれたっけ。

ただその親父も、出会って五年ほどで死んでしまった。


「親父の拾ってきた孤児院の子供達を世話をしてるうちに、あっという間に時間が過ぎてしまった。忙しくて、他の事を考える余裕もなかったな」


俺を追放したあいつらは、今頃何をしているだろうか?

そもそも、全員生きているのだろうか?


「ここには、何も情報が入ってこないしな……それに、聞くのも怖かった」


俺を追放した彼らが、何を成していったのか。

冒険者として大成し、俺の夢でもあった白銀級冒険者になったのだろうか。

無論、今は羨ましいとか嫉妬みたいなものはない。

結果的にだが、俺はここで幸せを手に入れたから。


「強くなれたし、孤児だった俺にも家族が出来た。見返そうとか、仕返しでもしようものなら師匠に怒られてしまうよな……男らしくないとか言われそうだ」


「アォン!」


そんなことを思い出していると、相棒である雪豹のサクヤがやってくる。

その毛皮は白く、まるで雪のように綺麗だ。

体長は一メートルくらいで、まだ二歳未満で人間でいうところの十歳くらいか。

この子は師匠の相棒だった雪豹のヨルさんから生まれたが、そのヨルさんは産んでから数ヶ月ほどで亡くなってしまった。

師匠も既に死んでいたので、俺が親代わりとして育ててきた。


「どうした?」


「グルルー」


鳴きながら、尻尾を使ってペチペチしてくる。

どうやら、早く行こうと催促しているようだ。

サクヤもここから出たことないので、出かけるのが楽しみらしい。


「そうだな、いつまでも感慨にふけっても仕方ないか。ただ、最後に墓参りはしていいよな?」


「アォン」


コクリと頷いたので、孤児院を後にして丘の上にある師匠のお墓にやってくる。

ちなみに、ここにはサクヤの母であるヨルさんも一緒に眠っていた。

俺とサクヤは座り込み、最後の挨拶をする。


「師匠、ヨルさん……今日、ここを出て行くよ」


「アォン!」


十年前に師匠が亡くなり、ヨルさんは二年前に亡くなった。

俺は師匠の代わりに、師匠が各地から拾ってきた子供達の世話をすることにした。

そんな中、最後の子が旅立って一年が過ぎた。

なので村人の勧めもあり、俺は一度ここを出ることにしたのだ。

自分の目的のため、旅立った子達の様子を見るために。


「見ず知らずの俺を助けてくれてありがとうございました。貴方が連れてきた子供達も無事に巣立ちましたよ……師匠の最後の願い、叶えてきますね」


「アォン……」


その後、俺とサクヤはそれぞれ黙りこむ。

おそらく、サクヤも心の中で親に話しかけているのだろう。

しばらくした後、丘を下っていくと村長のノイスさんと出くわす。

還暦を超え、腰が曲がっているがまだまだ元気がある方だ。


「おや、ハルト君」


「これは、ノイス殿……君は勘弁してくれると」


「ほほっ、君も三十を過ぎましたか。だが、まだまだ若いので君づけです」


「これは参りましたね……しかし、本当にいいのですか?」


実は俺は出ていくつもりはなかった。

この秘境とも言える場所の裏には高い雪山があり、その向こうにはレナス帝国があるが行き来はない。

しかし時折、山から凶悪な魔物や魔獣が降りてくる。

その魔獣や魔物から村を守るのも、俺が師匠から引き継いだ仕事だった。


「ええ、大丈夫ですよ。ここに残るといったハルト君が育てた方々もいますから。それに元々、我々だけで生活をしていましたから」


「ですが……」


「何より、氷山の支配者であるあの方と契約を結んでくれましたから。これからも、そこまで強い魔獣や魔物は降りてこないでしょう」


たしかに俺は氷山の支配者と戦い、師匠と同じように契約を結んだ。

あの方がいる限り、この村が危険にさらされる可能性は低い。


「……わかりました」


「貴方は、十分にやってくれましたよ。これからは、自分の人生を歩んでください……カイゼルが言い残したように」


「はい、そうします」


実は出て行く大きな理由がそれだった。

氷山の支配者と戦った後、その方から師匠の手紙をもらった。

そこには感謝の言葉……そして、願いが書いてあった。

これからは自分の人生を生き、世界を旅して研鑽を積んでこいと。


「ほほっ、不器用な方ですな。直接言わず、あの方に手紙を残すとは」


「ええ、全くです……ノイス殿、長い間お世話になりました」


「いえいえ、こちらの台詞ですよ。子供達に、よろしくお伝えください」


その後、俺たちは村人達に見送られて旅立つ。


目指す場所は、少し前に巣立った弟子達が向かった辺境都市ナバールだ。


……皆は、元気でやっているだろうか?



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