第16話 アルル視点
……お父さん、大丈夫かなぁ?
下水道を見下ろせる場所から、入り口をずっと眺める。
すると、サクヤちゃんが優しく舐めてきた。
「アォン(平気よ、パパはつよいから)」
「う、うん。あの、わたしはここにいていいのかな?」
「アォン?(どういう意味?)」
「えっと……成り行きで助けてもらっちゃったけど、わたしを助けて得なんてないし……こんなに良くしてもらっても、わたしに返せるものない」
村では誰も助けてくれなかった。
お腹空いても、寒くても暑くても。
残り物などを食べて生きてきた。
「アォン(別にいいのよ。あのお人好しは、そんなこと考えてないし……まあ、気持ちはわかるけどね)」
「サクヤちゃんも?」
「アォン(アタシも似たようなものだしね。ほとんどパパに育てられたようなものだから。それに貴女みたいな子を放って置けないのよ)」
「可哀想とか、同情ってこと?」
そういうことなら、よく言われてきた。
でも口だけで、何もしてくれない人ばかり。
「アォン……(それがないとは思わないけど、多分あんまり考えてないわ)」
「ふぇ? か、考えてない?」
「アォン(そうそう、だからそんなに深く考えなくていいわ。あの人、単純だから。頼られたり、甘えられたりするの嫌いじゃないはずよ)」
「……そんな人いるんだ」
少なくとも、わたしの周りにはいなかった大人だ。
一緒に寝てくれるし、ご飯もただで食べさせてくれる。
……でも、わたしなんかが幸せになっていいのかな。
「……グルル(……嫌な感じね)」
「サクヤちゃん?」
「アォン(アルル、アタシの後ろに来て)」
「う、うん」
「アォン!(隠れてないで出てきなさい!)」
すると、建物の傍から大人の男達が出てきた。
そして、その顔の一人には見覚えがある。
……わたしを買った、奴隷商人だ。
「へっ、気づきやがったか」
「ほう、これは中々に」
「旦那、言った通りだろ? この雪豹は高く売れると思うぜ」
「ふむ、失敗して奴隷の一部を囮にして逃げたと聞いた時はどうしようかと思ったが……これなら、黒字になりそうだ」
近づいてくる……ど、どうしよう!?
怖くて身体が動かない。
捕まったら、また酷い目に遭わされる。
ご飯もなかったり、何か言ったらぶたれたり。
すると、サクヤちゃんがわたしの前に出る。
「グルルッ……!(近づくんじゃないわ……!)」
「だ、旦那! こいつ、やる気ですぜ!」
「ははっ、威勢もいいな。だが、魔獣は主人の許しなく戦うことはできない。してもいいが、その時はただの魔獣討伐扱いだ」
「そ、そうでしたね。へへっ、お前が暴れるとご主人様に迷惑がかかるぞ?」
「出来れば綺麗な状態で売りたいから大人しくしろよ」
そ、そうだったんだ。
じゃあ、サクヤちゃんがわたしを守ったら……あれ?
その時、わたしは思う。
サクヤちゃんも同じことを思ったのか、わたしと目があった。
「アォン……(まさか、こんなに早く役にたつなんて……)」
「お、お父さん、すごいね……!」
「アォン(それに関しては偶然だと思うけど……まあ、運が良かったわ。ただ、パパか来るまでは手荒な真似は避けたいわね)」
「う、うん、むやみに手を出しちゃダメだって」
「……アオーン!(……パパ!)」
「何をごちゃごちゃいってやがる……! 野郎共! 捕まえろ!」
奴隷商人の声で、紐や縄を持った人たちが近づいてくる。
すると、サクヤちゃんの周りが冷たくなっていく。
「アォン!(これでパパが気づくはず……凍れ!)」
「な、なに!?」
「うわっ!?」
わたしたちの目の前に氷の床が現れ、それによって男の人達が転んでいく。
それは辺り一面に広がっていて、わたしたちのところに来れないみたい。
「サクヤちゃんがやったの?」
「アォン(まあね。アタシの名前は雪豹、氷を操ることができるの)」
「わぁ……すごい!」
「グルッ(ふふんっ……こうすれば、相手を傷つけずに済むしね)」
そっか、こうすれば相手に直接的には傷をつけてない。
お父さんに言われたことを、サクヤちゃんは守っているんだ。
「こ、氷使いだと!? そんな魔獣は、雪山に生息するという氷龍か雪豹……あれがそうなのか!?」
「だ、旦那? そんなに珍しい魔獣なんで?」
「珍しいなんてもんじゃない。氷龍が守る雪山は、吹雪に見舞われ誰も近づけない。そして対をなす雪豹は、入ってきた者を音なく始末するという。つまり、見たことある者がいないのだ」
「そ、そうなんすね……だったら尚更」
「わかってる……魔法部隊、氷の道を溶かせ! いいか、絶対に相手に当てるなよ!」
すると、周りにいたフードを被った人達が前に出てきた。
その人達の手から火の玉が出て、それらがわたし達の足元に向かって飛んでくる!
「わ、わわっ!?」
「アォン!(させないわ——アイスランス!)」
サクヤちゃんの周りに氷の槍が発生して、火の玉とぶつかる。
その時、物凄い爆発音と風が吹いた。
「きゃぁぁ!?」
「アォン!? (アルル!?)」
「だ、大丈夫……」
吹き飛ばされたわたしは、あちこちから血が出ていた。
い、いたい……お、お父さん……!
「グルルッ!(アンタ達!)」
「あの娘はどうでもいい! 今ので氷が溶けた! さあ、アレを捕まえろ!」
「アォン!(やれるものならやってみなさい!)」
そして、男達が近づいてくる。
その時、誰かがわたしを抱き上げた。
それは……お父さんだった。
その顔は微笑んでいるのに、どこか威圧的です。
「……アルル、平気か?」
「う、うん……」
「ごめんな、遅くなって。痛いと思うが、少しだけ我慢してくれ——すぐに終わらせる」
そう言い、お父さんが頭を撫でてからわたしを下ろす。
さっきまでの恐怖や不安は何処かにいき、わたしは……この人を信頼しているんだと強く認識しました。
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