第11話 噂話と買い物と魔法道具
「あら、探したわよ。どこ行ってたの?」
「ちょっとその辺をブラブラしてた」
「ふぅん。散歩みたいな感じ」
ルゥと別れて、上空を適当に飛び回るとすぐにリーゼリットは見つかった。
魔法道具の店が並ぶエリアは人が少ないおかげだ。
俺はすぐに舞い降りてリーゼリットの肩に止まったのだった。
「なにか面白いものでも見つかった?」
「他のカラスとしゃべったのと、なんか変な女の子に絡まれた」
「変な女の子?」
俺はシェザーナとのことをリーゼリットに伝えた。
女神とかの内容のことは省いた。
なのでなんでか分からないが俺にすごく興味を持つ変わった子みたいな話しかできない。
真っ白な髪の目立つ見た目だったこと。
しゃべれるカラスの俺に興味津々なこと。
カラスと会話できること。
そして、
「なんでかお前のことを知ってたな」
「私の知り合いってこと?」
「いや、向こうが一方的に知ってたみたいだったけど。話したことはないって言ってた」
「ふぅん」
リーゼリットは訝しげに眉をひそめた。
「まぁ、壁の内に住んでる変わり者ってことで噂にはなってるから。それで知ってたのかしら」
「そうなのか」
「内側に住んでる人間なんて数えるほどしかいないから」
確かにあんな危険地帯にわざわざ住んでいるやつなんか物好きでしかないのかもしれない。
それでリーゼリットは結構有名人なのか。
この世界にも写真はあり、カメラみたいな魔法道具があるようだ。
なら、シェザーナは新聞かなにかの写真でリーゼリットの顔を知っていたのか。
「ちなみにお前の方は『銀のシェザーナ』っていう人物に心当たりはあるのか?」
「ないわね。聞いたこともない」
「じゃあ、何者なのかまるで分からないってことか」
「そういうことね」
リーゼリットも分からないらしい。
あれだけ目立つ容姿なら少しくらい噂になっていそうだが。
聞き込みとかすれば分かるんだろうか。
だが、そこまでするかどうかは微妙なラインだ。
まだ俺に実害が出ているわけでもない。
ただ、どちらかといえば危険な人物なように思えた。
この先、俺に何かをしてくるんじゃないかという心配はあった。
「心配なの?」
そんな俺の心情を読み取ったのか、リーゼリットが言った。
「まぁ、多少は」
「なら、それとなく聞き込んであげましょうか。この街なら噂はすぐに広まるし、なにか知っている人がいるかもしれない」
「ほんとか? 助かる」
なんて良い雇用主だろうか。
労働者に寄り添ってくれるのか。
「その分働いてもらうけどね。うふふ」
だが、タダでとはいかないらしい。
抜け目のない雇用主だった。
「さて、食材はこれくらいで良いかしらね」
そう言ってリーゼリットは買った数々の食品を魔法のポーチにしまった。
まさに四次元のポケットみたいに吸い込まれるようにしまわれていく。
漫画みたいな大きな肉とか、馬鹿でかい人参とか、青い卵とか、見たことないものばかりだった。
「結局あんまりシェザーナの情報はなかったな」
「そうね、銀色の髪の女性ならいないこともないし。恐ろしい美人言ってもやっぱり人間なんならそこまで噂にもならないのかもね」
そうは言っても人間離れしていたんだがな。
誰が見ても記憶に残る気がしたんだが。この世界の人間からしたらあんまり珍しくもないんだろうか。
入る店の店員にリーゼリットは必ず聞いてくれたがめぼしい情報は結局手に入らなかった。
「まぁそれはそれとして、欲しいものは結構手に入ったわね」
リーゼリットは満足げだった。
「食材も文句ないほど手に入ったし、魔法の触媒も充分揃った。魔法道具も掘り出し物が結構あったしね」
「へぇ、魔法道具かぁ」
魔法道具、言葉そのものがファンタジーな響きだ。
それだけでワクワクしてしまう。
「まずこれ、なんと自動で皿を洗ってくれる魔法道具なのよ」
リーゼリットが出したのはパカリとフタが開く箱、中には何枚もしきりがある。あそこに皿を挟んで水が吹き付けられる仕組みらしい。
食洗機だった。
「次はこれ。温風が出て髪を乾かす魔法道具。これで一生懸命魔法唱えて髪を乾かす手間が省けるわ」
次にリーゼリットが出したのは持ち手のついた筒のような魔法道具。
筒の先から温風が出て髪を乾かしてくれるらしい。
ドライヤーだった。
「最後はこれ! この小さなバッジみたいなのはなんと音を記録して再生するのよ。音の保存自体は今までもあったけど、この小ささは画期的!」
どうやら録音機だった。
「いやぁ、良い買い物ができたわ」
「そ、そうか」
なんだろう。なんだか。なんだかな.....。
「どうしたの? なんかガッカリしてない?」
「いや別に。すごいすごい。すごい買い物だ」
「なんか無理矢理言ってない?」
正直ガッカリしていたが言わないでおいた。
確かにリーゼリットにとっては良い買い物なのだから。
ただ、俺にとってはあまりに見慣れたものだったというだけなのだから。
ただ、俺が期待したファンタジーではなかったというだけなのだから。
「まぁ良いわ。さて、なら最後の用事を済ませましょうか」
「まだ用事があったのか」
「ええ、午後は仕事をこなさないとなんだから」
「ほほぉ、仕事か」
適当に相槌を打ったがなにも分かってはいなかった。
とりあえず、リーゼリットの肩に乗って成り行きを見守れば分かるだろう。
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