第14話 朽ちた教会とケルベロス

 そうして、しばらく進んでいくうち、すぐに教会跡は見えてきた。


 日中だというのに崩れかけた教会というのはかなり不気味だった。


 フロ◯ゲーに出てきそうなダークさだ。


 大きさもかなりのものだった。


 教会跡は少し広場になったところの真ん中にあった。


 俺たちは少し離れたところから様子をうかがう。



「中にいるのかしらね」


「どうも外にそれらしき姿はないな」



 確かに外は静まり返っていた。


 遠くから他の冒険者パーティの戦闘に音は聞こえるが、それ以外に音はない。


 なんというかボス戦前みたいな空気感だった。



「行ってみるか」


「ここにいても仕方ないしね。日暮までには終わらせたいし」



 2人はそのままテクテクと教会に歩いていく。


 結構無造作だが大丈夫なものなのか。


 それだけ2人の実力が高いということなんだろうか。


 俺はパタパタと飛んでそれに従った。


 上空から見てもケルベロスらしき姿はない。やはり中にいるのだろう。


 そして、2人はなんの障害もなく、教会の扉の前までやってきた。


 レナはそのまま扉に手を当てる。



「開けたらいきなり飛び出してくるに10万ゼール」


「なに? 賭けるの? じゃあ、普通に奥で待ってるに10万」


「よぉし」



 なんだかレナはすごく楽しそうにしながら扉を押し始めた。


 酒だけでなくギャンブルも好きなのだろうか。少し生活を見直した方がいいと思う。


 俺もリーゼリットの肩に止まり、開いていく扉を見守る。


 そこはかとなく2人が臨戦態勢に入っていくのが分かる。


 そして扉が開かれる。



「ん? これはどうなの?」


「どっちも負けだな」


「いや、待ってるでしょ」



 そして、開かれた扉の奥はずらりと朽ちた椅子が並ぶ聖堂。そしてその奥に巨大なものがうずくまっていた。いや、寝ていた。


 ケルベロスは聖堂の奥でゆっくり睡眠に勤しんでいた。


 3つの首それぞれが気持ちよさそうに寝息を立てている。


 とにかく大きい。大型ダンプより大き生物なんか俺は初めて見た。



「いや、寝てるんだから待ってるとは言えないな」



 そう言ってレナは背中から大剣を抜くとそのままケルベロスに斬りかかった。


 しかし、剣が頭のひとつにぶつかる前にケルベロスはそれをかわした。


 危険を察知して起きたのだ。


 大きく身を起こすケルベロス。



───グガァアァアアア!!!



 そして、レナとリーゼリットを見ると大きく咆哮した。



「賭けの結果はあとで話すとして、とっとと倒すわよ」


「結果はもう決まってる。両方負けだ」



 そしてレナは再びケルベロスに斬りかかっていった。


 戦闘開始だった。









「さぁ、行くのよトーマ」


「俺!?」



 戦いが始まるなりリーゼリットが言った言葉に俺は仰天するしかなかった。



「この前みたいに白くなってあいつと戦いなさい」


「戦いなさいって言われても....」



 どうやってなるのかよく分かっていないし、そもそもこんな化け物と戦えるのか分からない。



「あの状態のあんたがどれだけのものなのかまだ確かめれてない。今日のクエストはその検証のためでもあるのよ」


「そう言われても」



 そんな簡単に変化できるものなのか。


 今の所体は真っ黒だ。



「おい、リーゼリット! なにしてる! 早く戦え!」



 向こうではレナがいらだたしそうに叫んでいる。


 戦っているのはレナだけなのだから当たり前だ。



「もう、仕方ないわね。なら、とりあえずもう一方の方を試すわ。あんたには私の魔法の触媒になってもらう」


「なんじゃそりゃ」


「魔法の中継ぎってこと。あんたは私と契約してる。その時に使い魔として体に私の魔力式を渡してある」


「つまりどういうことだ?」


「あんたを通して魔法を使ったら効果が倍増するってことよ」



 そんなことができる体だったのか。ただのカラスかと思っていたが。


 しっかり使い魔としての役割はあるらしい。



「じゃあ、いくわよ。プロメテウスの加護よ!」



 そう言いながらリーゼリットが指を振る。


 すると俺の体が赤く発光した。



「おぉお!?」



 それと同時だった。俺の体が、くちばしが、白く変色していく。そして、気づけば3本目の足が生えていた。


 ヤタガラスだ。またヤタガラスになった。


 そして、



「うぉわああああああああああああ!!!!!!」



────グルァアアアアアア!!!!




 レナとケルベロスが同時に叫んだ。


 なにせ、起きたのはすさまじい爆発だったのだ。



「なんじゃこりゃあ!???」



 そしてリーゼリットも叫ぶのだった。


 聖堂内で起きた大爆発は教会の屋根を、壁を、大きく吹き飛ばした。教会が内部から吹き飛ばされたのだ。


 レナなんか吹き飛んだ屋根と一緒に外まで飛んでってしまった。生きているのかあれは。


 そして、当然のように。



「ヤバっ!!! 崩れる!!!! 出るわよ!!」



 明らかに教会が歪んでいる。いや、倒れていっている。教会が崩壊していっていた。


 俺たちは扉を蹴飛ばし、急いで外に飛び出した。


 後ろでは轟音を立てて教会が崩れ落ち、瓦礫の山と化していた。


 俺とリーゼリットは間一髪外へ脱出できた。


 さすがにやばかった。死ぬかと思った。というかレナは大丈夫なのか。



「なんだって低級炎魔法でこんなことに....」



 リーゼリットは唖然としていた。


 目の前には無惨な元教会の瓦礫。


 しかし、その瓦礫がゴトゴトと動く。



────グガァアァ!!



 そして、その下からケルベロスが吠えながら飛び出した。


 頭の一つが焼けて無くなっている。


 血ではなく煤のような黒い煙が出ている。あれが魔物の血の代わりなのか。おかげでそこまでグロテクスではない。 


 しかし、ケルベロスは見るからにブチギレていた。俺でも分かるほど全身から怒りが溢れている。



「さすがにしぶといわね。って、あんたまた白くなってるなじゃない」


「なんかお前が魔法使ったら変わったな」


「なんだか分からないけど、引き続きあんたを触媒にして戦うわ。色々試させてもらうわよ」



 そして、ケルベロスが吠えたけりながら襲いかかってくる。戦闘再開だった。

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