第13話 冒険者の街の成り立ち
そして、俺たちは城壁の内側へ戻っていた。
見渡す限りの廃墟、割れた舗装、崩れ落ちた鐘楼。
ここに繁栄や文明の息吹はまるで感じられなかった。
死んだ街。だが、それは人間にとっての話だ。
「目標、ケルベロス。達成条件、討伐及びケルベロスの牙10本の納品。報酬100万ゼール」
「唱えなくてもいいわよ、レナ」
「モチベーションアップに重要なんだよ」
レナはクエストの受注用紙を眺めながら言った。
レナは今は軽装の鎧を身に纏っている。背中には身の丈ほどの刀身が太い大剣だ。
城壁内に入ってしばらく。
まだ魔物は出ていない。
俺たちは冒険者ギルドで仕事を受注して、こうして壁の中に入っていた。
今日リーゼリットが受けたクエストは魔物の討伐。標的はケルベロスという話だった。
ケルベロスといえば三つ首のワンコロだ。
ゲームでは大体結構強いモンスターとして出てくるがどうなのだろうか。
受注条件が『冒険者ランクプラチナ以上』になっていた。
プラチナといえばレナの一個下、上から3番目だ。モン◯ンならG級くらいいっているのではないだろうか。
俺の身の安全は大丈夫なのか。
「かなり壁の近くに出るんだな」
「魔物の気持ちなんか分からないわよ」
出現場所は教会跡、正門から南へ割とすぐのところだった。
近すぎて初心者冒険者たちの活動範囲を狭めているらしい。
なのでクエストの重要度はかなり高いようだった。
というか、
「ドラゴン退治以外にも普通に働くんだな」
「そりゃそうよ。倒しもしないドラゴンとの戦いだけじゃご飯は食べていけないんだから」
「ドラゴンも鱗なんかはかなり高く売れるんだが、いつも何枚も手に入るわけじゃないからな」
そういう話らしかった。
冒険者が受ける冒険クエスト。それをリーゼリットとレナはこうして受注している。
当然報酬が目的だ。
日銭を稼ぐため、普通の冒険者と同じように魔物退治を行うらしい。
ドラゴン退治では食っていけないのでこうして普通に働いているのだ。
そしてその報酬を元手にまたドラゴンと戦う。そうしてリーゼリットたちは暮らしているらしい。
なんか売れない芸人みたいだと思ったがなにか失礼な気がしたので深くは考えなかった。
「お、若人が仕事に繰り出してるぞ」
「あんたも私もまだまだ若人でしょう」
「彼らには敵わないさ」
見れば明らかに子供が抜けきっていない年齢の若者たちが4人、鎧に身を包み、ピカピカの武器を握って歩いていくのが見えた。
レナの話では新米冒険者らしい。
「あっちは知った顔だな」
「レナードさんたちね。今日も良く働いてるわ」
リーゼリットたちが見た方を見れば、いかにもベテランみたいな屈強な男たちが瓦礫の山を乗り越えていた。
というか、そこら中に人影がある。
朝見た正門から流れ込む冒険者もまだいるのだろう。彼らは本当に全員が全員クエストを受注してここに入っているらしい。
「これが冒険者の街っていうのの本当の意味か」
「その通り。『尖塔のドラゴン』に滅ぼされたこの街はほとんどダンジョンになった。だから魔物も湧き放題。でも、街だから簡単に入って簡単に出れる」
「だから、この街は冒険者にとって格好の仕事場になった。難易度は比較的低い、簡単に出入りできる、魔物はずっと湧き続けてどれだけ人が入っても取り合いになることは少ない。新米からベテランまで誰にとっても美味しい。冒険者にとって夢の街がこのヴァンダルグだ」
そういうからくりらしかった。
つまり冒険者にとってとにかく美味しい土地だということらしかった。だから、どんどん人が集まってきて、そうして壁の周りの街がどんどん大きくなっていったのがこのヴァンダルグという街らしかった。
そしてその繁栄の甘い汁を思いっきりすすっているのが領主ウィーゲイツということなのだろう。
「それで、あのドラゴンがいなくなると街から魔物が湧かなくなるからあの領主は困るのか」
「そういうこと。ドラゴンはいわば人払いだから。それにドラゴンの魔力の残滓を求めて魔物が湧くっていうのもある。悲しいかなあのドラゴンのおかげでこの街は成り立ってるのよ」
なんというかマッチポンプじみている。
ドラゴンに滅ぼされた街が、今やドラゴンのおかげで繁栄しているのか。
なんとも皮肉の効いた話だ。寓話のようでもある。
果たしてこれが街として正しい形なのかは俺には分からない。
分からないが確かなことはこの街で生きている人々がいるということだった。
「じゃあ、ドラゴンを倒そうとするお前たちは街の悪役なのか?」
「まさか、道化役もいいところよ。だって誰も倒せるなんて思ってないんだから」
そういう話らしかった。
リーゼリットは本気でドラゴンを倒そうとしているが、残念ながらそれを実現できるとは街の誰1人として思っていないのだ。
つまり、定期的に行われる催し物程度にしか思われていないのだろう。
なんとも虚しい話だ。
だが、ドラゴンを倒すのがそれだけの夢物語だという意味でもあるのだろう。
「さて、話ばっかりしてても仕方ないわ」
「それはそうだ。しゃべってばかりで日が暮れては困る」
そうして、俺たちはケルベロスが出現するという教会跡に向かうのだった。
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