第32話 魔法薬と奥の手

「うわぁぁあ!!!」



 叫ぶ俺。ドラゴンが急降下で体当たりをかましてきたからだ。


 リーゼリットはギリギリでそれを避けるが、後ろの廃墟は衝突で隕石でも落ちたように吹き飛んだ。


 そして、その中からピンピンしたドラゴンがまた俺たちを追ってくる。


 それを追うように下から魔法がドラゴンに放たれていた。



「全然ダメージを感じないぞ!!」


「少しずつは削れてるはずよ! スルトの加護よ!!!」



 そして後ろで巨大な青白い火柱が発生する。


 ドラゴンはそれの直撃を受ける。



「はぁはぁ....」



 リーゼリットの息が上がっている。


 当たり前だ。


 さっきから最高速度でホウキを飛ばし続け、さらに俺を通しているとはいえ魔法を連発している。


 消耗しないほうがおかしだろう。



「一体あとどれくらい続ければ倒せそうなんだ!?」


「私の魔法だけだと丸一日はかかりそうかな」


「無理だろそれじゃ!!」



 この状況を丸一日!? そんなの保たないに決まっている。


 だってリーゼリットはもう息が上がっているのだ。


 つまり、ドラゴンの消耗とリーゼリットの消耗を比べたら、先に限界が来るのはリーゼリットの方だということだ。



「それじゃあもう負けは確定してるんじゃないのか!?」


「バカ言わないで。ちゃんと大丈夫になってるわよ」


「根性でとか言わないよな!?」


「当たり前でしょ! 精神論は嫌いなのよ!!」



 そう言ってリーゼリットは一気に急降下した。


 路地に降りる。そしてさっきまで俺たちがいた宙にドラゴンが牙を突き立てていた。


 そして、その時だった。



「なんだ!?」



 街の向こう、4区画ほど先から煙の弾が上がった。信号弾というやつだろうか。色は青だった。



「集合の合図ね! ようやく準備が整ったみたい!!」



 そして、リーゼリットは信号弾が上がった方向に一気にホウキを飛ばした。


 そして後ろに炎が吹き付けられる。


 さっきからずっと死が鼻先に迫っている。


 このままじゃ心が壊れるっていうんだよ。



───ガァアアアア!!!!



 ドラゴンが吠えながらまた俺たちに迫る。


 もうダメだ。


 ホウキの速度がドラゴンを振り切れないほどに落ちている。


 しかし、



「あと1発か!!」



 後ろで再び仕掛けてあった術式が発動し、ドラゴンは巨大な火球を受けて落下していった。


 また廃墟が吹き飛ぶ。


 リーゼリットはその間にさらに速度を上げた。



「なにがあるんだ!?」


「見れば分かるわよ!!」



 そして、ホウキは街のひと区画を目指してすっ飛んでいく。


 そして、そこには。



「全員集合ってわけ」



 リーゼリットの仲間たちが集まっていた。







「つまりここで勝負をかけるってことか?」



 ホウキで俺たちは降りていく。


 ここはこの前ケルベロスと戦った教会があった跡だった。


 瓦礫はどかされ、広い広場となっていた。



「そういうこと」


「でも真っ向勝負であいつと人間が戦えるのか?」


「まぁ、みてなさいって」



 リーゼリットはもったいぶってばかりじゃないのか。しっかり説明してほしいというものだ。



「みんな準備と覚悟は良い?」


「ああ!!」


「ここでケリをつけてやる!!!」



 集まった仲間たちの戦意は上々だった。


 剣を持ったもの、斧を持ったもの、杖を持ったもの、巨大な大砲を担いだもの。


 全員がドラゴンと戦う戦士たちだ。



「お前の方こそ消耗は大丈夫なのか?」



 聞いたのはレナだった。



「正直限界が近いわ」


「なら一本目を飲んでおけ」


「出来たのね。助かるわ」



 そう言ってレナが差し出したのは金色の液体が入った小瓶だった。


 リーゼリットはそれを開けると一気に飲み干した。


 なんとも言えない表情をするリーゼリット。



「なんだそれ?」


「魔力に霊薬。まぁ、簡単に言ったら液体の魔力ね。消耗した分をこれで補うの」


「トーマも飲むか? まずいぞぉ」


「まずいって言われて飲むかよ」


「悶えるトーマも見てみたかったけどな」



 ははは、と笑うレナ。キュートアグレッションってやつだろうか。冗談にしてはタチが悪い。実はドSなんじゃあるまいか。


 そして、レナはさらに2本瓶を取り出した。



「あと2本ある。考えて使えよ」


「ありがとう。助かるわ」



 どうやら急増で仲間が用意してくれたアイテムなのか。


 確かに、何から何まで突然だったから準備に手間取った部分があるのかもしれない。



「さて、じゃあ、いくわよ」



 リーゼリットは手を仲間たちにかざす。



「レーヴァテインの加護よ!」



 リーゼリットの言葉と同時だった。


 仲間たちの体、武器、それらの表面を赤い湯気のようなものが包み込んだのだ。


 これは、



「強化魔法か?」


「そう、火炎系のね。火炎魔法なら攻撃魔法じゃなくても強化されるんじゃないかと読んだけど、当たってたわ」



 なるほど、これがリーゼリットたちの奥の手なのか。


 リーゼリットの魔法だけではなく、仲間たちも超強化してしまえば全員で互角以上にドラゴンと戦うことができる。


 俺ってこんなに有能だったのか。



「どっせい!!」



 叫び声と共にレナが大剣を地面に叩きつける。


 同時に、轟音と共に地面が大きく割れた。


 とても人間の力ではない。



「っほほぉ、トーマ様様だな。さすがだぞ!」



 そう言ってレナはわしわし俺の頭を撫でてくる。


 周りでは他の仲間たちも試しに武器を振るっては高威力を叩き出し、驚きに声を上げていた。



「よし、これなら戦える!!」



 そうリーゼリットが言った時だった。


 大きな影が広場に落ちる。


 ドラゴンがその美しい銀の鱗を煌めかせて、ゆっくり降りてきたところだった。


 決戦の始まりだった。

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