第31話 断頭台とドッグファイト
「レナ!!!」
ホウキは急ブレーキでレナの前で止まる。
「断頭台が使える。うまく誘い込めるか?」
「なんとかやってみるわよ」
2人は何やら作戦会議をしている。
俺はリーゼリットの上からそれを見る。
太ももに挟まれる形になっているが今それどころではないのは分かっている。
なので意識は向けないようにしている。
「お! トーマ! 戻ったのか!」
「ウィーゲイツに捕まってたんだよ。なんとか脱出出来た」
「やっぱりか。あの腹黒領主め。トーマの力を知って横取りしようとしたのか」
「それだけじゃない。あいつ、この機に乗じてお前ら全員殺すつもりだ」
「なんと! そうか、さっき1人が物陰から切り付けられたんだ。ウィーゲイツの手のものだったのか」
なんてこった。もうウィーゲイツの作戦は始まっているのか。
街の至る所に危険があると見て良いだろう。
「でもバカな連中よね」
「なんでだ? まぁ、バカなのに違いはないけど」
欲のために人殺しなんか愚か者も良いところだけど。
「こんなところで暗殺なんか難しすぎでしょ。ドラゴンが飛び回ってんのよ? なんなら自分たちが死ぬわよ」
「まぁ、確かに」
この街は今とんでもない危険地帯となっているのだ。
地雷原で暗殺をしようとしているようなものだろう。
目標を殺す前に自分が死ぬなんてことはあっても全然不思議じゃないのだ。
「めちゃくちゃな命令に従うウィーゲイツの手下に同情するわ」
「良くない主を持つと大変だな」
と、上を見れば大きく旋回したドラゴンが再び頭上に迫ってきていた。
「やばっ!! 行くわもう!」
「ああ。なんかあいつお前たちばっかり追っかけてないか」
「なんでかこいつを執拗に狙ってんのよ」
「ほほぉ、トーマはモテモテだな」
「こういうのは求めてないぜ」
俺は言うが早いか、ホウキはものすごい勢いですっ飛んだ。
とんでもない急発進だ。
後ろにはドラゴンが飛んできていた。
そして、レナがそのドラゴンめがけて飛び上がっていた。
「その首頂戴する!!!」
レナの叫び声が風に混じって聞こえた。
レナはドラゴンに大剣を振り下ろす。
しかし、ドラゴンは爪を振りかざし、レナはそれを受けて廃墟に吹っ飛んでいった。
「大丈夫なのかレナは!?」
「あの程度で死んでたらもう100回は死んでるわよあの子」
リーゼリットは最高速度でホウキを飛ばす。
「断頭台ってなんだ?」
どうやら、この作戦の需要要素のようだったが。
「見れば分かるわよ!」
そう言うとリーゼリットは急上昇する。
俺たちの下を炎の渦が吹き抜けていった。
俺たちはドラゴンが吹き出す青白い炎をかわしながら街の上空を飛んでいく。
リーゼリットのホウキさばきは大したものだ。
ギリギリで炎をかわしている。
本来いつ死んだっておかしくないのだが、今はなんとか生きている。
毎秒毎秒がデッドオアアライブな感じだ。
怖すぎた。こんな恐ろしい思いは前世では一回もなかった。なんだかんだ日本って平和だったんだなと思ったりしていると。
「見えてきたわ」
リーゼリットが言った。
その視線の先を俺も見る。
そこにあったのは空に輝く長い光の筋だった。街の一区画分くらいは長い。
赤い眩い光だ。それが空中で、城壁の少し上くらいで静止している。
「なんだあの光!?」
「あれが断頭台よ。私たちが持ってる最高の魔法。あの下に凝縮された魔力の刃が降り落ちる。今回はあんたを起点にして発動するから、確実にドラゴンの首は落とせるでしょうね」
「そんなすごい魔法があったのか!?」
「準備に一晩かかるけどね。昨日、あんたがいなくなってから魔法使いの仲間たちに準備してもらってたのよ。今日のために用意した、あれが私たちの切り札ってわけ」
なるほど、どうやらすごい魔法のようだ。
リーゼリットが俺を通して発動するようなあの馬鹿でかい火炎魔法の威力が、一つの刃に凝縮されているのか。
確かにそれならドラゴンだって倒せるのかもしれない。
だが、
「そんなうまくあの下に行ってくれるのか?」
「無理でしょうね。今まで戦った感じ、あいつは恐ろしく頭がいい。正直、言葉を話せないだけで知能は人間並みだと思ってる」
実際は言葉を話せるが、ここでは言わないでおく。そしたら火の海が街の外まで広がるからだ。
「じゃあ、どうするんだ?」
「それをどうにか考えるのよ」
「無策か!?」
「仕方ないでしょ、そういう魔法なんだから」
威力はすごいが、あんな風に丸見えでは尖塔のドラゴンほど頭がいいと絶対に近づかないだろう。
なるほど、「今日のために用意した」と言っていただけに使うのは初めてで、色々ぶっつけ本番なのか。
どうしたら良いのか俺にはまるで分からない。
リーゼリットがなにかを思いつくのだろうか。
だが、そもそも。
俺はドラゴンをあの下に導くのに賛成なのか。
───グルァアアアア!!!
吠えた蹴りながらドラゴンは俺たちに迫る。
「くっ!!!」
「うわぁあ!!」
その爪が俺たちの脇を掠めていった。
すごい速度だ。今までいい感じに引き離していたのに追いつかれそうだ。
ホウキも速いがドラゴンも速い。
いや、しかし、ちょっと待て。これは、
「なんか速度落ちてないか!?」
「当たり前でしょ!! 私の魔力で飛んでるんだから!! しかも正真正銘の最高速度! 私が疲れてきたら速度も落ちるわよ!!」
「なんてこった!? どうするんだ!?」
「なんとか引き離してどこかで休む!! このままじゃジリ貧!!」
拮抗状態かと思ったが全然そんなことはないらしい。相手がドラゴンなのだから拮抗しないのは当たり前か。
一体どうなっちまうんだこれは。
そして、俺はどうしたいんだ。
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