第33話 ドラゴンとの真っ向勝負

───ズズゥウウン



 巨大な地響きとともにドラゴンは広場に着地した。


 首をぐるりと回し、その青く冷たい眼で俺たちを睨みつける。


 しかし、リーゼリットたちのどよめきは起きない。


 ただ、武器を構えて応じるのみだ。



「ようしやるか!」


「改めて近くで見るとでかいな」



 レナと仲間たちが言う。



「後衛は前衛の動きに合わせて。前衛は後衛の射線をなるべく潰さないようにね」



 リーゼリットが指示を飛ばしていく。



「なるべくここで消耗させたいがな」


「この強化でどこまで通用するものかね」


「やるだけやるしかない」



 戦士たちの会話が聞こえる。



───ガァアアアアアアアッ!!!!



 ドラゴンが吠えた。爆音も爆音だ。あたり一帯が揺れたのを感じる。



「あっちもやる気満々みたいだな! いくぞ!!」



 その掛け声と共にレナが先陣を切った。


 続いて剣や槍を持った戦士達も続いていく。


 総勢30人ほどだろうか。


 その半分が前衛となり、ドラゴンに挑みかかっていった。



───ゴガァアアアッ!!!



 ドラゴンはそれに、体をよじり、回転させ、尻尾を振り回して応じた。



「どりゃああ!!」



 しかし、驚いたのはドラゴンの方だった。


 レナを含む、重装備の5人ほど。その戦士達が武器を使ってそれを押し止めたのだ。


 今までならそもそも止めるという発想さえなかっただろう。


 相手はエルダーと呼ばれる最上位のドラゴン。


 時に国さえ滅ぼす災害と同一視される存在だ。


 その一撃をたった5人の戦士が止めたのだ。



「ぜぇええいっ!!!」



 そして、返す刀でレナはその尾を大剣で切りつけた。



───グガァアッ!?



 明らかにドラゴンは同様していた。


 オリハルコンさえねじ曲げる硬度を誇るその銀の鱗。どんな鎧をも上回る防御力のその表皮。それが、斬られ、血が飛んだからだ。



「いけるぞ!!!」



 ドラゴンが動揺し、わずかに見せた隙、レナはそれを見逃さない。


 自らを先頭にしてそのままドラゴンの懐の中へと入っていった。


 重装兵が槍を突き立て、剣士が翼を斬る。


 それら全てはちゃんとドラゴンにダメージを与えていた。


 レナ達はそのままドラゴンに迫り続ける。



「その首! 頂戴する!!」



 レナが再びドラゴンの首に刃を振るった時、



───ガァアアアアアァアッッッ!!!!



 懐に入っていた全員が弾き飛ばされた。


 衝撃波だ。ドラゴンの体から白い波動が放たれた。



「なんだ!?」


「纏ってる魔力を爆発させたのね。初めて見る攻撃だわ」



 言うリーゼリットたちの頭を超えて、後ろにレナ達が落下していく。「ふげっ」という間抜けな声が聞こえた。


 ドラゴンはまた恐ろしい眼で俺たちを睨み据える。



「いけるわ。明らかに今までと違う」



 リーゼリットは確信と共に言った。






「そりゃああ!!」



 またレナが先頭となってドラゴンに斬りかかっていく。


 後ろに何人もの戦士が続き、後ろから矢が放たれる。



───ガァアアアア!!!



 ドラゴンは吠えながら青い炎を吹き出した。


 レナ達は咄嗟に飛び退きそれをかわした。


 炎の余波が後衛を襲う。



「アイギスの加護よ!!!」



 リーゼリットが防壁魔法を展開し、それを防ぐ。しかし、火炎属性ではない防壁はあっという間に砕けてしまった。



「炎ばっかりはどうしようもないわね!」



 前衛ではレナたちがドラゴンと近接戦闘を行っている。


 ドラゴンは強化されたレナ達と戦うのに意識が裂かれているようだった。


 その間に後衛が矢や魔法を放つ。


 魔法使いたちはそのさらに後ろで防壁を重ねて展開し、少しでも炎への対策を作っている。



「効いてるぞ!!」



 魔法の効果はさほどな様子だったが、矢は見事にドラゴンの鱗を突き抜け、体に突き刺さっていた。


 効いている。


 確かに強化されたリーゼリットたちの攻撃はドラゴンに効いている。



「押しきれぇ!!」



 レナの叫びと共に前衛は攻撃を加速させる。


 剣が槍がドラゴンの体に確かに傷を負わせていく。



───グルァァアアアアッ!!!



 またドラゴンが吠え、白い波動が放たれた。


 レナ達がまたその波動を受け、後衛の俺たちにまでその波動が届く。



「そう同じ手は食わないぞ!!」



 しかし、レナは地面に大剣を突き立て、踏みとどまっていた。



「そりゃあ!!」


「プロメテウスの加護よ!!」



 レナの大剣とリーゼリットの魔法が同時にドラゴンを襲う。



───ガァアアアアアアアッ!!!



 ドラゴンは明らかに苦悶の叫びを上げていた。


 ダメージは確かに蓄積されている。


 間違いない。このまま攻撃を続ければドラゴンは力尽きる。


 しかし、



───グルルルルル....



 ドラゴンが低く唸る。


 それと同時だった。


 ドラゴンの体表が白く光り始めた。



「なんだ?」



 疑問の声を漏らす俺だったが、その答えはすぐに分かった。


 ドラゴンの周囲の瓦礫や地面が溶けていく。


 赤く赤熱し、マグマのように溶けていくのだ。



「あいつ自身の温度が跳ね上がってるのね。それがあんたの本気ってわけ」



 今果たしてドラゴンの表皮は何度なのか。


 岩石を溶かすと言うことはハンパな温度ではない。



「戦えるのか!?」


「今の強化ならなんとか。確かに攻撃は効いてる。必ず仕留める!」



 周囲はまるでこの世のものとは思えない景色になりつつある。


 しかし、リーゼリットたちの目からは光は失われていない。


 皆はドラゴンとひたすら真っ向勝負を繰り広げる。

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