第34話 エルダードラゴンの力

「うりゃあああ!!」



 レナが叫びながら大剣を振るう。


 衣服の端が焼けて、鎧の一部が赤く赤熱している。


 他の冒険者たちもそうだ。


 一体あのドラゴンの周囲は何度まで上がっているのか。


 この世のものとは思えない能力だ。



「なんだあの光の球!?」



 気づけばドラゴンの周囲には白い光の球が浮いていた。


 明らかにただ綺麗なだけではなさそうだ。



「魔法だわ! これが本気ってことか」



 そうか、高位のドラゴンは魔法さえ使うのか。


 こいつならそれぐらいはできて当然だろう。


 そして、光の球は突然細く伸びる。


 すさまじい速度で壁や地面に反射しながら冒険者たちを襲う。



「ぐわ!!」


「まず! 致命傷だわ! 後ろに下げて手当てを!」



 攻撃を受けた冒険者はすぐさま後ろに下げられ、リーゼリットの霊薬による治療を受けた。


 リーゼリットの話ならあの薬を塗れば一命はとりとめるはずだ。



「すごい威力ね。強化を貫通するなんて。後衛は絶対防壁の中から外に出ないで」



 光の球の攻撃の威力は俺を通した強化も貫通するようだった。



「今度はなんだ!?」



 俺が見上げたのは空だった。


 ヴァンダルグの空、そこに黒い雲がかかり、その下に白い幕のようなものがかかっていた。


 同時に雨が降り始める。



「天候の操作!? だけじゃない!?」



 白い幕はユラユラと揺れながら下まで降りてきて、ドラゴンの周りをかこった。



「プロメテウスの加護よ!」



 俺を通した魔法が発動する。


 白い幕を爆発が乱す。



「ちょっと効きが甘いわね。魔力を阻害してるのか。多分普通の魔法はもう効かない」



 魔法対策の魔法ということか。


 俺を通した魔法さえ乱すとなれば、どれほどの防御なのか見当もつかない。



「攻撃も防御も上昇した。これがこいつの本来の戦い方か。今までずっと遊ばれてたのね」



 俺を通した強化魔法さえ貫通する攻撃、俺を通した攻撃魔法さえ乱す防御。そしてついでとばかりに天候さえ変えてしまう。


 まさにエルダーの名にふさわしい能力だった。



「相手にとって不足なし!!」



 しかし、そんなことで怖気付く精神を冒険者達は持ち合わせていなかった。


 果敢にドラゴンの懐に飛び込み武器を振るっていく。


 ドラゴンの魔法をいなし、白い幕を払いのけ、冒険たちはドラゴンの体に確実に傷を負わせていく。


 張り合っていた。


 現状、この冒険者たちは確かにこのエルダー、『尖塔のドラゴン』張り合っていた。



「このまま押し切る! カグツチの加護よ!」



 リーゼリットが魔法を発動する。


 地面からマグマが吹き出し、ドラゴンを襲った。








「プロメテウスの加護よ!!」




 また爆発が起き、ドラゴンの体を吹き飛ばす。



───ガァアアアッ!



 効いてはいるようだがドラゴンも簡単に怯みはしない。


 お返しとばかりに光球を伸ばし、レーザーのように跳ね返しながら後衛の俺たちを襲ってくる。



「アイギスの加護よ!!」



 防壁魔法が働き、角度を逸らして俺たちの足元に着弾する。



「危ねぇ!!」



 俺は叫ぶ。


 俺は完全なバックアップだが、それでも十分に危険だ。


 というか、あんな化け物見ているだけで寒気がする。


 どう考えても人間が戦う相手ではないがみんなは必死に食い下がっている。


 それはそうだ。ここにいる全員が今日この日を待ち続けていたのだから。


 すなわち、自分たちの手がドラゴンの喉元まで届くこの日を。



───グルァアアアアッ!!!



 ドラゴンが炎を吐き出す。


 広場が青白い炎で埋め尽くされる。


 防壁を易々と砕き、後衛にまで被害が及ぶ。


 もはや無傷の者は1人もいない。


 全員が死に物狂いで戦っている。それはドラゴンも含めてだ。



「うぉおおお!!」


───ガァアアアアアっ!!!



 レナの剣がドラゴンの胸に大きな傷をつけた。血が吹き出す。



「押してるわ!!」



 少しずつ、少しずつだがドラゴンの傷が増えていく。動きが鈍っていく。


 こちらの被害とドラゴンの傷、どっちが増える速度が速いかといえば傷が増える方がやや上な気がした。


 それはつまり、このままならドラゴンを倒し得るということだった。



「面倒なしがらみも今日までよ!! ここで仕留めてやる!!」



 リーゼリットも魔法を撃ち続ける。


 倒せる。間違いなく、このままいけば。このままなら。


 だが、それはドラゴンが死ぬということ。


 本当にそれで良いのか。本当にそれで俺は良いのか。


 分からない。分からない。


 ただ、ドラゴンを追い詰めれば追い詰めるだけ、俺の脳裏には挑発的に笑っているシェザーナの顔が浮かぶのだった。



「どうすれば....」



 俺が呟いた時だった。



「なんだ!!??」



 冒険者の1人が叫んだ。


 俺たちがいる広場、俺たちの陣形、その端で煙が起きたのだ。



「こっちもだ!?」



 反対でも煙が巻き起こっていた。


 もうもうと立つ煙はやがて広場全体を覆っていく。



「煙幕だわ!! みんな陣形を整えて! 前衛は一旦下がって!!!」



 リーゼリットが言う間にもあたりは煙で包まれていく。



「なんだお前!!」



 と、どこかで刃の打ち合う音が響いた。


 誰かが誰かと戦っている。明らかにドラゴンでない誰かと。



「ウィーゲイツの手下だわ!!!」



 リーゼリットが叫んだ時だった。



「ここまでやるとは思わなかったな。仕事がかなり面倒になった」



 気づけば、俺たちの前に存在が感じられないほど気配が希薄な男。あのシノビが立っていた。

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