第35話 再び上空へ

「すごいわね。まさかドラゴンとの戦いの最中に仕掛けてくるとは思わなかった。あんたたちも死ぬわよ」


「所詮俺たちはウィーゲイツにとっちゃ駒でしかない。死のうが生きようがしったことじゃないんだろう。なにせ俺たちもそのつもりだしな」


「死んでも平気だっていうの?」


「そういう風に育てられて、そういう風に生きてきたんだよ俺たちは。まぁ、そうじゃないのも少しは混じってるが」



 目の前のシノビはそんなことをリーゼリットに言っていた。


 距離にして5mほどか。


 工房の中でならリーゼリットに分があったが、ここではどうか。


 俺の力があれば、どうにか戦えないだろうか。



「分かってんだろ。勝てねぇよ」


「ええ、そうね。なにせ多分、私のどんな魔法の詠唱よりあんたの暗器が私を貫く速度の方が速い」



 どうやらそういうことらしかった。


 ここでの真っ向勝負では、決してリーゼリットはシノビに勝てないらしい。


 周囲は煙幕が立ち込めている。


 みんなはどうなっているのか。


 そもそもドラゴンは。



──ガァアアアア!!!



 煙幕の向こうで咆哮が聞こえる。


 視界が奪われているのはドラゴンも同じか。



「時間はないに等しいな。終わらせてもらうぜ」



 それと同時にシノビの姿が消えた。


 リーゼリットにも俺にもその姿は捉えられない。


 まさしく、瞬間移動みたいな速度でリーゼリットに襲いかかるのだ。



──ガギィッ!!



 そして、音が響く。


 シノビの攻撃の音。


 しかし、それはリーゼリットを貫く音ではなかった。


 金属と金属がぶつかった音。


 すなわち、武器と武器がぶつかった音だった。



「大丈夫か!? リーゼリット!」


「レナ! 助かった!」



 後ろに迫っていたシノビの短刀を止めたのはレナの大剣だった。



「ちっ」



 舌打ちと共にシノビは距離を取る。



「みんなは!?」


「最初は戸惑ってたが『強化』が入ってるんだ。遅れは取らないさ」


「なら良かった」



 どうやらみんなは無事に応戦しているらしい。


 俺を通した強化が役立ったようで嬉しい限りだ。


 その時だった。



──グガァアアア!!!



 ドラゴンの咆哮、それと共に風が吹き荒れた。


 翼による羽ばたきだ。


 それだけで立ち込めていた煙幕は吹き飛ばされた。


 状況はあらわになる。


 刺客たちの姿もよく見えた。



「潮時か」


──ゴァアアアアアア!!!



 どうやらドラゴンは怒っているらしく、そしてその怒りは刺客たちに向けられていた。


 勝負を邪魔されて怒っているのか。


 本当に気分屋なドラゴンだ。


 刺客たちは影のように消えていく。


 残ったのは陣形が乱れた冒険者たちだけ。



「ちょっとまずいわね! 行くわよ、トーマ!」


「え? もがっ!!!」



 リーゼリットは俺を引っ掴むとそのままホウキに飛び乗る。


 そして、一気に飛び上がった。



「うわぁああ!!」


──グガァアアア!!!!!



 そして、ドラゴンも俺たちを追って飛び上がったのだった。











「なんでっ!? あそこで戦わないのか!?」


「陣形がめちゃくちゃでしょ! 今無理矢理戦ったら死人が出るわ」


「なるほど」



 つまり、冒険者たちが体勢を立て直す時間稼ぎにホウキで飛び上がったと言うことか。


 しかし、俺たちの目的が時間稼ぎなのに対してドラゴンは殺意増し増しだった。



──ゴァアアアアアアァアアアア!!!



 すさまじい咆哮を上げながら炎を吹き出し、俺たちを落とそうとしてくる。


 下での戦いで怒りに怒っているのか。


 追い詰められた上に邪魔まで入った。


 気分屋のドラゴンには耐えられない状況なのかもしれない。


 そう、追い詰めた。確かに俺たちはドラゴンを押し、確かにダメージを与えていたのだ。



「プロメテウスの加護よ!!」



 リーゼリットの声とともに爆発が起きる。



──ガァアアアア!!!



 ドラゴンが叫ぶ。


 確かに、確かに魔法が効いている。


 さっきまで気休めみたいなダメージだったのに、今は確かに痛みを訴えていた。



「ダメージが蓄積されてるわ。このままならいける」



 ドラゴンは吠えたけり、再び俺たちに向かってくる。


 リーゼリットは回復した魔力で再びホウキを最高速度まで加速する。


 ドラゴンは当然ついてくる。


 またドッグファイトだ。



「押してる。このままいけば倒せる。とうとうここまで来たんだ...!」



 リーゼリットは驚きと興奮が混じった複雑な声で言った。


 倒せる、あのドラゴンを。


 長年戦い続けて、いつか倒して見せると言ってきたドラゴンを。


 そのいつかがいよいよ今日になろうとしているのか。



──ガァアアアア!!!



 ドラゴンは青白い炎を吹き出す。



「へファイストスの加護よ!!!」



 炎の竜巻が起きる。


 それはドラゴンの炎さえ巻き込み、かき消していく。


 すなわち、ドラゴンの炎が弱まっていることを意味していた。



──グガァアアア!!!



 ドラゴンはまた魔力にヴェールを纏う。光球を出して、ビームのように俺たちに放つ。



「くっ!!」



 リーゼリットは急旋回でそれをかわす


 天候は未だ嵐。


 ドラゴンは弱ってきているとはいえ、その強さは災害級。


 勝利の見込みは出てきた。しかし、まだいくつかの壁の向こう側にそれはある。


 リーゼリットたちはそれを必死に手繰り寄せようとしていた。

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魔法使いと尖塔のドラゴン〜転生したら使い魔のカラスだった俺がなぜだかドラゴンと戦う話〜 @kamome008

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