第36話 カラスの叫び

───ガァアアアア!!!



 ドラゴンは吠え猛る。


 俺たちはホウキの最高速度でそれに対応する。



 ドラゴンは速度もどんどん落ちているように感じた。


 なにせ、このホウキについてくるのでやっとといった感じなのだから。



「プロメテウスの加護よ!!!」



 リーゼリットの魔法がドラゴンの肩を直撃する。



───ゴガァァアア!!



 また痛みに声を上げている。


 明らかにダメージが通っている。


 さっきの防御膜みたいな魔法ももはや効果が途切れ始めているのか。


 強化されたリーゼリットの魔法を防ぎきれていない。



「このままダメージを蓄積させて、第二集合地点で勝負をつけるわ!!」


「第二集合地点!?」


「さっきので仕留め切れなかったから、その場合次があるのよ」



 なるほど。何ヶ所か集合場所を決めておいて、ダメなら次と繰り返していくのか。


 こう飛び回っていては口頭で伝達はできない。事前に集合地点を決めておくのは確かに得策か。


 しかし、



「下は大丈夫なのか!?」



 下では今もところどころで戦闘しているのを感じた。


 ウィーゲイツの下っ端たちがリーゼリットの仲間にまだまとわりついているのだろう。



「大丈夫。不意打ちじゃなければ遅れはとらないわ。きっとみんな次の場所に集まる」



 リーゼリットの言葉に迷いはなかった。


 それほど仲間を信用しているのか。



「ウィーゲイツは引くか?」


「分からない。そこまで狂ってるとは思いたくないけど、あいつなら手下の生死を問わず目的を達成しようとする可能性もあるわ」


「めちゃくちゃじゃねぇか!」



───ガァアアアア!!



 ドラゴンが火を吹いてくる。


 リーゼリットはそれをかわす。


 ドラゴンの炎にも勢いが失われつつある。


 しかし、ウィーゲイツはそこまで狂っているのか。


 確かにシノビは「命なんか計算に入れていない」と言っていた。


 手下の生死なんか関係なのかもしれない。


 そもそも、こんな怪物の目の前で事を始めようとしたのだから。



「とにかく! 私たちは目的を達成する! へファイストスの加護よ!!」



 また、炎の竜巻が発生する。


 ドラゴンはそれを受けて態勢を崩していた。



「とにかくこいつを削り切る!」



 リーゼリットはホウキをさらに加速させた。


 ドラゴンはそれに追いすがる。


 ドラゴンの目には怒りしかない。


 感情のままに俺たちを追ってくる。


 俺は....、



「もう良いだろう! 勝負はついてる! お前はもう負ける!」



 ドラゴンに叫んでいた。








「何言ってんのアンタ!?」



 突然ドラゴンに話しかけた俺にリーゼリットは驚いている。


 しかし、俺はやめない。



「これ以上やったら本当に死ぬぞ! お前は死にたいのか!?」


───ガァアアアアァアアアア!!!!



 ドラゴンは俺の言葉を聞かず、また炎を吐いてくる。


 リーゼリットは軽い動きでそれをかわす。



「もう炎も簡単にかわされるじゃないか! 俺たちの魔法だって跳ね除けてないじゃないか! 次の集合地点で総攻撃を受けたらいくらお前でも死ぬぞ!!!」


「なに話しかけてんのアンタ! こいつに言葉なんか分からないわよ!」


「いや分かる! こいつは分かるんだ!」


「どういうことよ!?」


───ゴァアアアアアア!!!



 ドラゴンは全然俺の言葉を聞かない。


 構わず炎を吹きつけてくる。


 もはや、それは俺たちをとらえることはない。


 本当にドラゴンは弱り切っている。


 痛々しい。見てられない。だってこいつはあんなに軽やかだったのに。


 このままじゃ本当にリーゼリットに殺される。


 それが目的で、そのために俺はリーゼリットに協力していたのに。土壇場で俺はそれが悲しくてたまらなくなっていた。



「どこか遠くへ行け! 2度とこの街に来るな! そして平和に暮らすんだ!」


───ガァアアアアァアアアア!!!



 ドラゴンがふいに加速し、その牙を俺たちに向けてくる。


 しかし、軽い加速でリーゼリットはそれをかわしてしまった。



「なんでだ!? なんでそんなにこの街にこだわるんだ!? ただの廃墟じゃないか!!!」



 俺は力一杯叫んだ。



『この街は私の街なんだ。私が生まれ育った場所なんだ。簡単に捨てれるわけないだろ、トーマ』



 そして、ふいにドラゴンは言った。



「しゃべった!?」



 リーゼリットは驚愕していた。


 だが、俺は続ける。



「でも死ぬよりマシだろう!!!」


『何も分かってない。何も分かってないよ、トーマは』



 そう言うとドラゴンはふいに翼をひるがえした。



「なに!?」



 ドラゴンは唐突に俺たちを追うのをやめた。


 そして、そのまま空高く飛び上がっていった。


 そして、高い宙空で、街の全てを見下ろせる宙空で羽ばたき静止した。



「何をするんだ!!!」



 俺は叫んだ。


 そして、ドラゴンの口の中にが輝き始めた。


 強い光だ。まるで何かを溜めているように。



「あいつ! 魔法で炎を塊にしてる! あれがあいつの奥の手か!」


「どういうことだ?」


「あいつ、自分が吐き出す炎全部一塊にして落とすつもりよ」


「つまり?」


「この街全部焼くつもりだわ」


「なんだって!?」



 それが、ドラゴンの、シェザーナの俺に対する返答らしかった。

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