第28話 駆け引きと燃える街

───ズズン



 また外から音と振動が響いてくる。リーゼリットたちは竜と戦い続けているのだ。


 シェザーナは皆殺しにすると言った。なら、間違いなく今までに無いほどの猛攻がリーゼリットたちを襲っているはずだ。


 大丈夫だろうか。大怪我をしたものは居ないだろうか。死人は出ていないだろうか。


 俺が間抜けにも捕まったばかりに。


 だが、とにかく。ここがヴァンダルグのどこかであるのは確かだ。


 脱出さえ出来ればすぐにでもリーゼリットたちと戦える。


 どうすれば、



「ふむ、考えていますね。ここから脱出する方法を」


「ぐっ」



 見抜かれている。当たり前か。この状況で大人しく捕まるやつなんていないだろう。



「無駄ですよ。そのカゴはオリハルコン製。あなた程度が暴れたぐらいではどうにもなりません」



 オリハルコン、RPGとかで聞く一番強い金属だ。要するに俺に破壊するのは不可能なのだろう。


 どうしようもない。



「哀れな小娘ですね。親と同じだ」


「なに? お前、リーゼリットの両親についてなんか知ってるのか?」


「おっと、口が滑りました。どういう形で漏れるか分かりませんからね。これ以上は口をつぐみましょう」



 むふふ、と腹立たしく笑うウィーゲイツ。


 どうすれば良いんだ。どうすればこのムカツク親父に一泡吹かせられるんだ。


 俺はむふむふ笑うウィーゲイツを睨み付けながら考える。



「俺はこれからどうなる」


「まぁ、あの娘たちが死んだらお役御免ですからね。見世物として私の元に置こうかと思いますが」



 なるほど。方針は決まった。



「ははぁ、バカなんだなお前は」


「なんだと?」


「しゃべるカラス。魔力を通したら増幅する使い魔。利用の仕方はいくらでもあるのにただ見世物にしかしないのか。かなり発想が貧困だな」


「私をバカにしているのですか? たかがカラスが!!!!」



 ウィーゲイツは俺が入っているカゴを蹴りつけた。激しくカゴが揺れて俺は中でもみくちゃになる。地面に転がされたカゴをウィーゲイツは激しく蹴り転がす。



「自分の立場をわきまえなさい。畜生の分際で、私を罵ろうなどと! ふざけている! ああ、腹立たしい!! 腹立たしいですよ!!!」



 怒りのままにウィーゲイツは俺の入ったカゴを蹴りつけ続ける。俺は中ですっかり全身打撲だった。ボロボロになって動くのも痛い。


 だが、言ってやった。



「ああそうだ。お前は能なしだ。この街は実質冒険者たちが動かしてる。あんたはそのおこぼれをすすってるだけだ。裸の王様も良いところだ。実際はなんにもやってないようなもんなんだから」


「貴様.....!!!」



 さらに一際強くウィーゲイツはカゴを蹴った。すごい勢いでカゴは転がり、壁にぶつかって止まった。体中が痛い。果たして飛べるだろうか。


 しかし、半分以上出任せの発言だったが、どうやらウィーゲイツ敵には図星だったらしい。この街の運営についてウィーゲイツなりに苛まれていることがあるのだろう。



「ククク、良いでしょう。良くも言いましたね。あなたには罰が必要だ。相応の罰が」


「なに?」


「あなたをこれから外に出します。そこからお仲間が一人一人死んでいくところを見せてあげましょう」


「なんだと! やめろ!!!」



 口ではそう言うがまさに願ったりの状況だった。簡単に怒ったから上手く乗せたら状況が転がらないかと賭けてみたが勝ったらしい。


 ウィーゲイツが顎で示すとシノビは俺が入ったカゴを軽々と片手で持った。さっきからのウィーゲイツの蹴り付け方を見るに重そうだったが、まるでそれを感じさせない。


 それにしてもこのシノビは本当にウィーゲイツの後に控えているだけだ。相変わらず感情というものを感じられない。



「さぁ、行きましょう。地上の地獄が見れますよ」



 ウィーゲイツはニタニタ笑いながら俺に言った。









 長い階段を登ると俺達は外に出た。ここはヴァンダルグの城壁の上だった。俺が閉じ込められていたのは監視塔の下だったらしい。


 城壁の上からはヴァンダルグの街の中が一望出来た。



「なんてこった」



 燃えていた。ヴァンダルグ中で火の手が上がっている。そこら中に火がちらつき、黒い煙が上がっている。



───ズズン



 その中で巨大な爆発魔法が発動していた。


 この前俺たちが仕掛けたもののひとつだろう。


 その爆炎の中から大きな影が飛び出した。


 ドラゴンだった。銀色の美しいドラゴン。尖塔のドラゴンだった。


 ドラゴンはぐるりと一気に上昇し、そこから青白い火炎を地上に吐き出した。街が焼かれていく。


 そこに、地上から氷結魔法が飛んでいた。



「戦ってる」



 リーゼリットたちが戦っている。よく見ればドラゴンの体が少し焦げている。作戦は成功のようだ。俺を通して発動する極大魔法はしっかりドラゴンに効いている。



「むむむ、なんですか。カラスを除けば瓦解すると思っていたのに。連中食い下がっているではないですか」


「だが、あの仕掛けはあと3つだ」


「ゼシキ! お前があれを解除しなかったのがそもそもの間違いです! この能なしが!」


「あれを解除しようとしたら宮廷魔術師でも連れてこないとならんが、まああんたには分からんか。相当なもんだぞあのリーゼリットって魔女は」


「黙れ! お前も私をバカにするのか!!!」


「悪かった。訂正する」



 ようやくしゃべったシノビの言葉はぶっきらぼうでなんだかイメージと違った。こいつにも色々事情があるんだろうか。



「ふふ、しかし、あと3つか。ならそれが切れればやつらは殺されるしかなくなりますねぇ。私の手下が動いている。必ずやあの小娘たちを陥れるでしょう」


「なんだと!?」



 そこまで手を回しているのか。隙を見て、リーゼリットたちを罠に嵌めようというつもりらしい。いや、ひょっとしたら直接手を下すのかもしれない。なんてことだ。



「むっふふふ。さぁ、最高のショーですよカラス君」



 ウィーゲイツはにっこり笑って俺に言った。


 クソ、リーゼリットたちせめてこっちに気付けば。だが、ここは今戦闘している区域とちょうど反対だ。


 なんとかして、こっちに気付かせさえすれば。


 どうする。ここまでの状況は作ったのだ。あとは気付いてもらうだけだ。


 なんとかしなくては。


 目の前ではまた極大魔法が発動し、ドラゴンに直撃していた。なんとかリーゼリットたちに俺の場所を知らせなくてはならない。

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