第29話 ウィーゲイツの陰謀と賭け

 目の前のヴァンダルグの街ではドラゴンとリーゼリットたちがずっと戦闘を行っている。


 魔法が炸裂し、ドラゴンが青白い炎を吐き出している。


 俺はそれを城壁の上から見つめている。


 どうしようもなく。


 どうにかしようと考えながら。



「ほほぉ。思った以上に善戦していますね。やはりあなどるべきではなかった」



 ほほほ、とウィーゲイツは笑っている。


 忌々しいことこの上ない。


 ウィーゲイツは余裕もいいところだ。


 このまま時間と共にリーゼリットたちは消耗し、刺客がリーゼリットたちを陥れるのだ。


 それでウィーゲイツの野望は成熟する。


 このままではリーゼリットたちが死んでしまう。



「くそ...」



 この頑丈なカゴは簡単には壊せそうにはない。


 ヤタガラスになって炎熱攻撃を行っても破壊できるか分からない。


 やはり俺の本領は使い魔で、単独で戦うのには向いていない。



「哀れな娘です。最後は親と同じ運命ですか」


「なんだと?」



 ウィーゲイツはさっきも気になることを言っていた。


 こいつはリーゼリットの親について何か知っているのか。



「お前は何を知っている」


「ほほほ。さて、どうでしょうね。語ってあげたいのも山々ですが」


「お前が、今回と同じようにリーゼリットの親を殺したのか?」


「ほほほ」



 俺の言葉にウィーゲイツは醜悪に笑った。


 これまでの言動から予想できる答えがそれだった。


 すなわち、リーゼリットと同じようにドラゴンとうまく戦ったリーゼリットの親たちをウィーゲイツが殺した。


 リーゼリットは親を殺したのはドラゴンだと言っていたが、つまり実際はそうではないのか。


 ただの、この悪党の企みによって消されたというのか。



「トーマくん。街を運営すると言うのは綺麗事だけでは成り立たないのですよ」


「お前は私腹を肥やしたかっただけだろう」


「所詮カラスには分からない話です。我々の苦労などは。ほほほ」



 ウィーゲイツはニコニコ笑っている。


 俺の怒りなんぞ感情にすら入らないのだろう。


 ひどく苛立たしい話だった。


 なんとかしてこのクソッタレに目にもの見せてやりたい。


 状況は悪い。


 だが、なにか方法はあるはずだ。


 なんとか、このカゴを壊す方法が。


 早くしなくてはならない。リーゼリットたちを助けなくてはならない。


 なにか、このカゴを壊せるなにかを、



「そうか」



 そこでふと思い至った。


 完全な博打だが、やるしかないだろう。








「さて、ではそろそろ始めましょうか。ゼシキ、行きなさい」


「面倒なこった」



 ウィーゲイツの言葉に合わせてシノビが動く。


 このまま街に降りてウィーゲイツの手下たちとリーゼリットを殺すのか。


 それは防がなくてはならなかった。


 なので、



「おい!!! オタンコナスで情緒不安定のシェザーナ!!! 俺はここに居るぞ!!!」



 目一杯大きい声で俺は叫んだ。



「な!!! なんのつもりです!! 突然大きな声を!!」



 ウィーゲイツが俺の声に怒り、カゴを蹴り付けてくる。


 ウィーゲイツは訳もわからず怒り狂っていたが、シノビは違った。


 さすがだ。歴戦の勘というやつだろうか。



「てめぇ、なにをした」



 俺を睨みつける。


 だが、もう遅い。


 だってやつは地獄耳だから、悪口なんか絶対聞き逃さないのだから。



「なんなんですか!」



 ウィーゲイツがさらに1発カゴを蹴る。


 しかし、シノビはもう俺なんか見ていなかった。



「やりやがったなお前」


「なに? どういうことですゼシキ」


「ずらかるぞウィーゲイツ」



 シノビが言うが早いかだった。


 辺りが暗くなった。


 いや、だが雲が出たわけではない。


 巨大なものが、上から降りてくるだけだ。



「は? ああ!? ひぃいいいいいいいいいい!!!!」



 ウィーゲイツは絶叫した。


 空から降りてきたのは、紛れもない『尖塔のドラゴン』だったのだから。



───ゴァアアアアアア!!!



 吠えた蹴りながらドラゴンは俺たちに迫る。


 ウィーゲイツは腰を抜かして動けなくなっていた。



「面倒な野郎だ!」



 ゼシキは肥えた体のウィーゲイツを必死にかつぎ、脱出を試みるが、


 ドラゴンはあえなくこの城壁の上に体を激突させた。


 着地なんて生ぬるいものじゃない。


 ドラゴンはその全身を叩きつけたのだ。



「マジで殺す気じゃねぇか!!!」



 カゴごと転がり、城壁から落ちる俺。


 しかし、予想通りだった。


 ドラゴンの鱗に削り取られたカゴは僅かに歪み、俺が脱出出来る隙間ができていた。


 そして、頑丈なオリハルコンのカゴは確かにドラゴンの体当たりから俺を守った。


 賭けは成功だった。


 俺は急いでカゴから脱出する。


 しかし、



───ガァアアアア!!!



 目の前にはドラゴンが居た。


 当たり前だ。


 俺はデッドオアアライブなのは結局変わらなかった。


 だが、なんとか逃げなくては。死ぬなんかごめんだ。


 しかし、そのドラゴンの牙がまさに俺を捉えて、そして噛み砕こうと閉じられる。



「ここまでなのか!!!」



 俺が叫んだ時だった。


 ドラゴンの顎は閉じられる。


 しかし、その牙は何も捉えはしなかった。


 代わりに、



「どこに居たのよ!! 散々探したんだから!!」


「ウィーゲイツに捕まってたんだよ!!」



 俺はホウキでものすごい速度でぶっ飛ぶリーゼリットの腕の中に居たのだった。

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