第27話 牢獄とウィーゲイツ

「わぁああ!!!」



 目を覚ましたら朝だった。窓から明かりが差しこんでいる。


 一晩俺は眠っていたのか。


 だが、どう見てもリーゼリットの家ではなかった。


 まるでラ○ュタで○ズーが閉じ込められていた牢獄にそっくりだった。


 石造りの分厚い壁、天井は果てしなく高く、小さな窓は鉄格子が嵌まっている。


 どうやら俺は閉じ込められているらしい。


 その牢獄の中で俺はさらに鳥かごの中に入れられていた。



「なんだここ。俺はどうなって......」



 たしか昨日シノビに襲撃されて、なんとかリーゼリットが撃退して、それから俺は窓のそばに行って。そこからの記憶が無い。


 だが、どうやら俺はとらわれの身のようだ。


 ということは襲撃者の一味に捕まったのだろう。


 窓の側へ近寄った瞬間に外に潜んでいたやつに捕まったのか。


 どうやら、相当なヘマをしでかしたらしい。



「やっちまったってことか....」



 リーゼリットの奮戦も無意味になってしまった。


 俺が不用意に外に出ようとしたためにこうなったようだ。自分の警戒の薄さに呆れる。


 リーゼリットたちはどうしているだろうか。


 もう、朝だ。ここがどこだか分からないが、このままではドラゴンがやって来てしまう。


「おやおや、お目覚めでしたか。奇蹟のカラスくん」



 そんな風に戸惑いまくっている俺に声がかけられた。


 見ればドアを開けて一人の男が入ってきたところだった。恰幅の良い、腹立たしい薄笑いを浮かべた男。


 ウィーゲイツだった。


 このヴァンダルグを収める領主。そして、ずっと俺を付け狙っていた張本人。


 後ろには昨日俺達を襲撃したシノビが控えていた。なにをしても逃げ出せないということか。



「目当てのものを手に入れられて満足かよ」



 俺は思わず憎まれ口を叩いていた。



「ほぅ、しゃべるというのは本当でしたか。それも女神の奇蹟だとか」


「なんで知ってる」


「私はこのヴァンダルグで起きることならなんでも知っていますよ」



 ふふふ、とウィーゲイツは腹立たしい笑みをこぼす。どこかでリーゼリット達との会話手下が盗み聞きしていたのか。粘着質に俺達をつけ回していたらしい。



「じゃあ、シェザーナのことも知ってるのか?」


「あのあなたと一緒に居た娘ですか。何者か知りませんが、あなたを助けには来ませんね。おかわいそうに、友人に見捨てられましたか」



 なるほど、さすがにシェザーナが誰なのかまでは知らないらしい。情報網はあるが、領主の範疇は出ていないようだ。まぁ、知っていたらとっくに消されているのかもしれない。

 あくまでただの領主なのかこの男は。


 だが、だからといって俺が出し抜く隙があるようにも思えなかった。


 こいつがただの領主なら、俺はちょっとした特殊能力があるただのカラスだ。しかもリーゼリットと一緒で初めて役目を果たす。この状況を抜け出すのは簡単ではないだろう。


 どうする、どうすれば良いんだ俺は。



「んふふ。どれだけ悩んでも答えは出ませんよ。あなたがここを抜け出す方法はありません。そのカゴも魔獣を捕らえられる特別製。あなたはアルメルクたちが死ぬまで捕らわれの身です」


「リーゼリットたちが死ぬだと!!!」


「ええ、彼女たちには消えてもらいます。そのように手配してありますので」


「なんでだ! リーゼリットたちはお前にとっては都合の良いマッチポンプじゃないのか!?」



 リーゼリットたちがうまくドラゴンと戦って、少しずつでも善戦するからそこに希望を持ってここに来る冒険者だってたくさんいるのだ。


 そしてそいつらはやはり街に金を落としていく。


 なんだかんだ、リーゼリットたちの存在はウィーゲイツにとっては都合が良いはずなのに。



「今まではそうでした。しかし、彼女たちは上手くやり過ぎだ。あなたという戦力をとうとう手に入れ、ドラゴンの喉元まで迫っている。あなたを奪っても、この先ドラゴンを倒さないとも限らない。なので、役者を変えることにしたのです」


「なんだと? まさか、お前の手下にリーゼリットたちの代わりをさせるのか!?」


「ん~? んふふふ」



 ウィーゲイツは答えなかったが実に楽しそうだった。


 なんてことだ。リーゼリットたちが活躍しすぎて都合が悪くなったら殺すのか。


 そして、自分の指示した通りに動く冒険者を用意して、それこそ演劇みたいにドラゴンと小競り合いをさせて客寄せパンダにしようというのか。


 なんて悪党だ。人の命を何とも思っていない。金を落とす駒くらいにしか思っていない。まるでお話の悪党領主そのものではないか。


 ますます、ヘマをした自分が憎らしくなってきた。なんでこんなやつに捕まってしまったんだ。


 と、その時だった。



───ズズン、



 外から地響きが伝わってきた。


 これは、まさか、



「まさか、あいつらもう戦ってるのか!?」


「お気づきになりましたか、今朝早く、ドラゴンが街に襲来しました。あなたの言うとおり、確かに今日現れた。なぜ今回だけ10日の周期を無視したのかは分かりませんが実に都合が良い」



───ズズゥン、



 また地響きだ。外で戦っているのだ。リーゼリットとドラゴンが。俺が居ないのに。このままではリーゼリットたちが殺されてしまう。


 が、そこで気付いた。つまり、ここはヴァンダルグなのか。てっきり、領主のお屋敷にでも連れてこられたのかと思ったが。


 なら、なにかやりようがある気がする。



「んふふふふ。良いですねぇ。まるでお金が落ちる音だ」



 外からの地響きに耳を立て、ウィーゲイツは嬉しそうにそう言った。


 だが、もはやこんなおっさんの言葉にいちいち感情を動かしている場合ではない。


 考えなくては、なんとかしてここを脱出する方法を。

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