第2話 ドラゴンとの戦い

「飛んだぞ! 気をつけろ!!!」



 鎧姿の戦士の1人が叫ぶ。


 確かにドラゴンはその巨体を尖塔から離し、優雅に飛び立った。


 大きな体が空を舞い、俺たちの頭上を抜けていく。


 すさまじい光景だった。


 少なくとも、1回目の人生では絶対にお目にかかれない光景だった。なにと比較すれば良いのかさえ分からん。



「よし! なら予定通り行くわよ」


「了解だ!!」



 リーゼリットと戦士たちはそう言うと拳を上げて声を上げる。


 なんだか分からんが作戦開始の雰囲気だった。


 それからそそくさと戦士たちが散っていく。



「なんだなんだ」


「これからあいつへの攻撃を始めるのよ。まぁ、黙って見てなさい」



 そう言うとリーゼリットは広場の石畳の地面に左手を置いた。


 すると地面に幾何学模様の入った円が浮かび上がる。


 漫画やゲームでよく見る魔法陣だった。



「配置は良い?」


『OKだ!』


『こっちも準備できてる!』



 するとトランシーバーのようにどこからか声が響く。これも魔法なのか。



「あいつは?」


『現在東側城門付近!』


「よし! 始めて!」



 リーゼリットが言った途端だった。


 こっちから真後ろの方角、そこで大きな音が響いた。


 よく分からないが映画とかで見る大砲の音のようだった。


 なにかが炸裂する音も響く。


 こんな街中で大砲なんかぶっ放して大丈夫なのか。


 そう思ったが、周囲を見れば廃墟になりかけている城と同じように、そこらの家はみな崩れかけていた。


 街全体が廃屋まみれだ。


 まるで廃墟の街だった。



『2発命中!』


「こっちも術式を発動するわ」



 リーゼリットが手を動かすと足元の魔法陣の幾何学模様が複雑にうごめく。


 すると遠くで爆発の音が聞こえた。



『爆裂魔法命中!』


「よし! 改良に改良を重ねたんだから少しは効くはず!」



 遠くで咆哮の音が聞こえる。


 おそらくドラゴンが吠えたのだろう。


 ずっと向こうで何かが起きている。



『ダメだ! ピンピンしてやがる!』


「これでもダメか! 次よ次!」


『やつは西に移動!』


「ならこいつよ!」



 リーゼリットと手とともに幾何学模様がまた動く。


 今度は遠くで白い霧が湧き上がるのが見えた。



『氷結魔法命中! 少し動きが鈍ったぞ!』


「大砲ぶち込んで!」


『おう!』



 また遠くで砲撃の音が聞こえる。


 これはなんだ。ひょっとして街全体がドラゴンと戦っているのか。


 街中に魔法がしかけられ、街中に大砲がしかけられているのか。


 それでドラゴンと戦っているのか。



『砲弾3発命中! ん? あ、野郎逃げやがる!』


「ならありったけよ!」



 また魔法陣が蠢き、遠くで巨大な石の壁が突き上がるのが見えた。


 そして、その先端には白いドラゴンが突き上げられている。



「どうだ!」



 リーゼリットが言う。


 その時、



『ブレスだ! 全員撤退! 撤退!』



 騒がしい通信が入る。


 その直後、ドラゴンはその首を大きく持ち上げると、一気に炎を吹き出した。


 白い炎、それはドラゴンを突き上げている石の壁ごと周囲を焼き尽くしていた。



「大丈夫!?」


『なんとか全員無事だ。クソ、逃げられた」



 遠くからまた大きな羽ばたきの音が聞こえる。


 直後、白い巨体が再び俺たちの上を通り過ぎていった。


 ドラゴン、あれだけの攻撃を受けてもビクともしなかったそれは鋭い眼で俺たちを一瞥した。


 それだけで俺は縮み上がったが、リーゼリットはそれを睨み返していた。


 そして、ドラゴンはそのまま羽を宙に打ちつけ、街から飛び去っていった。









「どう? こういうことをあんたと私でやっていくのよ」


「えぇ!? やっぱり俺もやるのか!?」


「当たり前でしょ。そのための使い魔なんだから」



 こんな怪獣映画の自衛隊みたいなことをいきなりやれというのか。そもそも俺はカラスなんだぞ。一体全体どうやって協力しろというのか。



「それにしても改良した魔法のことごとくが通用しなかったわね。さすがの化け物だわ」


「なんなんだあのドラゴンは」


「エルダーって呼ばれる最上位の竜の一体よ。ウエストエンド・ドラゴンって世の中では言われてるけど、この土地の人間は『尖塔のドラゴン』って呼んでる。街に入ったら必ずまずあの尖塔にとまるからね」


「最上位ってすごいのか」


「そりゃあもう。黒帽子の魔獣狩りでも、レジェンドランクの冒険者でも勝てない。人間が敵わないとされてる本物の怪物よ」


「な、なんだと」



 人間で敵わないならカラスなんか敵うわけないではないか。



「それでこのヴァンダルグはあの竜に一度滅ぼされた街。それからはあの竜のなわばりになって定期的にあいつが来るわ魔獣は湧くわのダンジョンさながらの危険地帯になったってわけ」


「そんな街でお前は暮らしてるのか?」


「その通り、私と仲間たちはあいつを倒すためにこの街に暮らしてる。あいつを仕留めるのが私の勤め。仕事としても、敵討としてもね」


「敵討?」


「あいつは私の両親を殺してるの」


「なんだって」



 魔獣に人が殺される。それは第一の人生では絶対に関わらなかったことだ。魔獣どころか、動物に身内を殺された人さえ見たことはない。


 そもそも誰かに誰かを殺された人と関わったことがない。それは遠い世界の話だった。


 だが、ここではあっという間に関わってしまった。


 俺は初めてのことでどう反応すれば良いのか戸惑う。



「別に深刻にならなくても良いわよ。まだ私が赤ん坊だったころの話なんだから。親の顔なんて写真でしか見たことないわ」


「でも敵討なのか」


「そうよ。知らなくっても私の両親をあいつは殺したんだから」



 なんだか壮絶な話だった。


 そんな心境、俺にはまるで理解できない。


 やはり俺は言葉を失ってしまう。



「いちいち深刻にならなくて良いわよ。改めてよろしくね、トーマ」



 そう言ってリーゼリットは俺の頭を優しく撫でた。


 それは思いの外心地良くて、俺は少しだけ心がほぐれたのだった。

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