エピローグ 魔法使いと尖塔のドラゴン

「スルトの加護よ!!!」



 人影を見るやリーゼリットは間髪入れず魔法を炸裂させた。


 俺を通していないから弱いが。


 火球が発生し、人影を襲う。


 普通の人間相手ならバカげた行動だが、



「クソっ」



 リーゼリットは本当に忌々しそうに言った。


 人影はリーゼリットの魔法をその手で軽く撫でるだけで払い消したのだから。


 そして、人影は俺たちに、いや俺に手を振ってくる。



「トーマ♡! 来ちゃった♡!」



 そこに居たのは宝石のような銀色の髪の美少女、人間形態のシェザーナだった。


 リーゼリットは舌打ちをかましながら仕方なくシェザーナの立つ家の前に着地する。


 俺も華麗に着地。



「なんで友達の家みたいに来るのよあんたは! 来たら殺すって言ってんでしょ!」


「え〜、結局今みたいに殺せないじゃん。大体人間の時の私殺してもなんの素材も手に入らないから成果にならないんでしょ?」



 2人の間にはバチバチと火花が散っているのが俺には見えた。


 シェザーナはあれからたびたびこうして我が家を訪れるようになった。


 やっぱり人間に化けて街をうろつくのはやめていないらしい。


 そして、毎度こうして我が家に来てリーゼリットとファイトしているのだ。



「とっとと消えなさいっての!」


「いやだよぉ、せっかくこうしてトーマと会えたのに♡ トーマ♡ また会えたね♡」


「お、おう」



 シェザーナは抱き潰されるかと思うくらいの勢いでギューっと俺を抱きしめる。


 柔らかなものが俺に当たっているが、あと少し力を加えられると死ぬのでその恐怖が下心を上回っていた。



「なんでドラゴンがカラスに惚れてるんだか」


「え〜? 愛に種族は関係ないんだよ? 子供にはまだ分からないかもだけど」


「こ、.....! 言うじゃない...今からでも仲間集めて一戦始めましょうか?」


「いやだよぉ。こうしてトーマと愛を確かめ合ってるのに♡」


「俺からは愛を向けてないが」



 シェザーナには取り付く島もない。


 好意を持たれるのは悪い気はしないが、シェザーナのそれはとにかく熱烈だった。



「トーマ、こんな性格の悪い爆弾女の使い魔なんかやめて私のところに来なよ♡」


「私の大事な使い魔になに言ってくれてんのよ!」


「お、俺は今の所ここを離れたくない」



 労働環境はかなり良いのだから。



「美味しいもの食べ放題だよ? それに...トーマが望むなら他にも色々...♡」


「な、なんと...」


「揺らぐな!!!!!」



 怒られた。俺の雇い主は烈火の如き形相だった。


 とにかく、俺の毎日はこんな感じだった。


 毎日モンスターと戦って、こうしてシェザーナとリーゼリットが騒動を起こして。


 ドタバタな毎日がずっと続いていた。



『おい! シェザーナ! 大市に行くんだろ!』


「あ、またあのカラス。あんたの友達なんでしょ? 何言ってるか分からないけど」



 リーゼリットの言う通り上から声が聞こえる。


 ルゥだった。シェザーナの友人カラス。この前の戦いの功労者でもある。


 そうか、これから2人で大市に行くのか。



「ん〜? やめとくよ。こうやってトーマと触れ合うと気分が高まっちゃった♡ 心の赴くままに飛び回りたい気分!」


『なんだそりゃ!』



 そう言うとシェザーナはパッと飛び上がった。


 そして、



「バカ!! こんなとこで変化するな!!!!」



 リーゼリットが叫ぶが間に合わない。


 シェザーナは一瞬でドラゴンの姿に変わり、その巨大な翼を羽ばたかせた。



『じゃあねトーマ♡ ちょっと隣の国まで飛んでくるよ♡ 愛してるよ♡』



 ちゅっ、とドラゴンが投げキッスをしてくる。


 なんだか異様な光景だったがシェザーナになにを言っても仕方がない。


 そして、そのままシェザーナは突風を巻き起こして舞い上がる。


 そのまま飛び去りはしない。


 シェザーナが一度降り立つところはいつも決まっている。



『ああ、良い眺め!!』



 シェザーナはお気に入りの尖塔に降り立ち、景色を眺めると言った。


 俺は来たあの日と同じ光景。


 快晴の空を背に、巨大なドラゴンが廃城の尖塔に立ち、街を眺めている。



「お前は変わらないんだな」



 俺は独り言を漏らしていた。


 それからシェザーナは尖塔から飛び上がり、翼を一回宙に叩きつけると一気に上昇した。そして、すさまじい速度であっという間に街から出ていった。



「もう戻ってくるなっての!!!」



 リーゼリットは怒りに任せて叫んでいた。


 こんな日々が続いていく。


 この世界に来て、何が何だかわからなかったし、正直今も何が何だかわからない。


 なんでここに居るのか、なにを託されてここに転生したのか。


 なにも分からなかったが、俺は割とこの世界とこの日常を気に入っていた。



「トーマ! ご飯にするわよ!!! あったま来た!! 肉全部丸焼きにしてやる!!!」


「そりゃまたワイルドだな」



 家に入っていくリーゼリットを追って俺もドアから我が家に入る。


 俺の新しい日常は続いていく。


 リーゼリットは大きな肉に塊を保存庫から取り出していた。


 今日のお昼はお腹いっぱいになりそうだった。

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魔法使いと尖塔のドラゴン〜転生したら使い魔のカラスだった俺がなぜだかドラゴンと戦う話〜 @kamome008

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