第43話 それからの日々

 そして、あれからしばらくが過ぎた。


 今日は晴天で気分のいい日だった。



「さて、今日も働くわよ」


「今日も今日とてモンスター狩りかぁ」



 家から出るリーゼリットの肩に飛び乗り俺は言った。


 今、俺たちは日常を送っている。


 すなわち、いつものように依頼を受け、いつものようにモンスターを狩る日常。


 そう、俺たちは日常に戻れたのだ。


 あれから色々あったが、こうしてありふれた、非日常的日常を送っている。



「新聞に載ってたな。ウィーゲイツは監獄にぶち込まれるって」


「あいつの一族もももう終わりね。次はましな領主が来ることを祈るわ」



 ウィーゲイツはあれから国軍に捕縛された。


 リーゼリットが突き出した録音機が決定的な証拠となった。


 ウィーゲイツは軍の取り調べを受け、次々と余罪が明らかとなった。


 裏での横領、配下を使った殺人、様々な方面との癒着、立場を利用した不法な立ち退き、その他ももろもろ。


 取り調べをすればするだけ犯罪が明るみになり、担当者が呆れるほどだったそうだ。


 一族もろとも立場を奪われ、ウィーゲイツがこの街に戻ってくることは永遠にないだろう。


 だから俺たちに何らかの影響が出ることはなかった。こうして平和な毎日を送っている。



 次の領主はまだ検討中らしいが、隣の地域を収める貴族がこちらも治めるという話がもっぱらだった。



「さて、今日は西地区の雑魚狩りね。数が多いのだけが難点」


「まぁ、魔法で吹っ飛ばせば一瞬だろ」



 俺もヤタガラスの力を使った魔法なら一網打尽だ。


 イージーミッションと言って良いだろう。俺のおかげでリーゼリットの利率は跳ね上がっているのだ。俺も鼻が高い。



「はぁ、あんたがまたあのフェニックスみたいな状態になればもっと楽なんだけど」


「あれにはもうなれない」


「努力が足りないのよ」


「努力しようがない。俺にもどうすれば良いのか分からん」



 そして、あれ以来俺があの燃え上がる炎の体の状態、女神曰くの【ゴッデス・オーバー・リミット】の状態になることはなかった。


 感情が高まっていたからかと思えば、それだけでもないような感じだった。感情の波があっても俺の体が変化する兆しはない。


 そもそもあれだけの、あのウィーゲイツの理不尽に対するほどの怒りなんか早々起きるものじゃない。



「まぁでも、使い魔としては合格点よね。頼りにしてるわ」


「もうちょっと敬っても良いと思う」


「考えとくわ」



 一応女神の使いなんだがな。リーゼリットたちには知らせないが。


 そして、俺たちは街へと繰り出した。













「プロメテウスの加護よ!!!!」



 リーゼリットのお気に入りの魔法はいつものように炸裂し、這い回るバグたちを残らず吹き飛ばした。


 甲虫型のモンスターたち。


 カナブンみたいな見た目だが、でかいカナブンがすごい量で動き回っている様は身震いするほど気持ち悪かった。



「気持ち悪かった。虫型のモンスターはきついな」


「あら、カラスなら美味しそうって思うんじゃないの」


「冗談じゃない。程度がある」



 大体中身は人間なのでカラスの価値観は当てはまらない。


 とにかく、仕事は一瞬でカタがついた。移動時間と手続きの方が長かったほどだ。


 儲け儲け。



「さて、帰るとしますか」


「今日は大市の日じゃないか?」


「そうね。でも今日中にポーション作らないとダメだから帰るわ」


「そうだったな」



 家に帰っても仕事がある。


 というか、これくらいの時間で終わること前提に動いているわけだ。


 やはり俺の力様様だ。


 敬って欲しい。


 リーゼリットは魔法の鞄からホウキを出すとまたがり、飛び上がる。


 俺はその横を羽ばたいてついていく。


 もう、カラスの体も随分慣れた。最近はよりアクロバットな飛び方を追求しているところだ。



「昼飯はどうするんだ?」


「良いお肉があるからなんか適当に作るわ」


「そうだった。昨日買ったんだったな」



 もはやこの街の買い物事情にも詳しい俺だ。生前の感覚と物価とのズレに感嘆の声を上げることも珍しくない。


 そうしている間にあっという間に我が家だった。


 空を飛べばヴァンダルグの街の移動なんかすぐだ。


 俺に慣れ親しんだ街。不思議なファンタジーの、廃墟の街。



「さぁて、帰宅っと。って」


「どうした?」


「あいつ....」



 リーゼリットは非常に険しい表情で愛しき我が家の立つ広場を睨んでいた。


 そこにはひとつの人影があった。

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