第42話 決着
「さぁ、これでめでたしめでたしってわけか」
気づけば、俺の姿も元の普通のカラスに戻っていた。
諸悪の根源たるウィーゲイツはこうして伸びている。
あとは裁判所なりなんなりの沙汰を待つだけだろう。
万事解決だ。
「んなわけないでしょ。どうすんのよこいつとの決着は」
リーゼリットはシェザーナを睨みながら言った。
『なに? やるの?』
シェザーナも睨み返した。
そうか。根本的に争っているのはウィーゲイツではなくてリーゼリットとシェザーナなんだった。
ウィーゲイツを負かして終わりじゃなかった。
俺たちはこの戦いをこそメインとしてやっていたのだった。
「い、いやいや。もう解決じゃないのか?」
「バカ言わないで。私と仲間はこいつを倒すために散々苦労したのよ!? それがこれで終わりって。ふざけてない?」
「それはそうか...」
仇がウィーゲイツだったとしてもリーゼリットそれを倒して終わりとはいかないらしい。
ドラゴン狩りを仕事にしてきたのだ。
ここで引き下がるわけにはいかないのか。
俺が来る前だって仲間達と協力して、色んな作戦を立てて戦ってきたのだ。
リーゼリットはドラゴンを倒すために生きてきたようなものだ。
だから、そう振る舞うしかないのだろう。
「むぅううう...」
俺は悩みに悩んでうめいた。
シェザーナは殺されて欲しくなかった。
昔、街を焼いて暴れたとはいえ、世の中に伝わっている内容は事実ではなかったのだ。
捉え方によってはシェザーナは身を守っただけ。それをウィーゲイツの一族が利用した。
シェザーナ自身に街の全てを焼き払うつもりはなかった。
シェザーナは悪いドラゴンではなかった。
だが、リーゼリットもリーゼリットで、これまでの全てが無に帰すのは嫌なのだろう。
リーゼリットだって今まで苦労してきたのだろう。
その全てを俺の身勝手な願望で無かったことにするのは正しいとは思えなかった。
いや、どうすれば良いんだ俺は。
困った、困ったぞ。
「なに見るからに困ってんのよ」
リーゼリットが呆れ顔で言った。
「いや、俺は別に」
「どうせ、そのドラゴンの命と私たちの努力を天秤にかけて悩んでるんでしょ」
「な、なぜ分かる」
「そんなことだろうと思った」
カマをかけられたらしい。だが、ズバリ当てられたのだからつい答えてしまうというものだった。
女の勘というやつだろうか。
それからリーゼリットは深く長いため息を吐いた。
「はぁ〜〜〜〜〜〜、もう」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ。ずっと仇だと思ってた相手が仇じゃなかったのよ? 悪党だと思ってたやつがそうでもなかったのよ? 私の怒りはどこに向ければ良いのよ。頭の中めちゃくちゃよ」
リーゼリットもリーゼリットなりに苛まれているらしかった。
当たり前だ。
いきなり自分の目的を失ったようなものだ。
なにがしたかったのか分からなくなっているのか。
「も〜〜〜、なんでも良いわよ。知らないわ、私」
「なんでも良い!? ドラゴンとかのこともか!?」
「もう良いわよ。復讐も、街を守る使命も、全部見当違いだったんだから。バカバカしい」
かなりリーゼリットはヤケクソになっているようだった。
ヤケクソで決めて良いのかそんなことを。
「良いのかそんな投げやりな感じで」
「大体、あんたこいつ直しちゃったじゃないの。もう一回こいつと戦う気力もリソースも私たちにはないわよ。なにが悲しくてあんな死ぬような思い1日に何度も味合わないとダメなのよ。全部アンタのせいだから!!!」
「ああ...ご、ごめん」
俺は謝るしかなかった。
『へぇ、優しいんだ』
そんな俺たちにシェザーナが言った。
「優しくないわよ。バカらしくなってるだけ」
『まぁ、そういうことなら。大人しく帰るけど』
「あんたの方こそそれで良いの? 今なら確実に私たちを殺せるけど」
『いいよ、もうとっくに白けちゃってるし。トーマは私を助けてくれたから。それに免じて見逃してあげる。それに....」
シェザーナはそして、俺に顔をこすりつけてきた。
「私、トーマに恋しちゃったみたい♡」
「なんだ!?」
「はぁ、長く生きてきて初めての感覚だよ。これが恋なんだね....」
「なんだなんだ!?」
シェザーナは激しく俺に顔をこすりつけ、長い舌で舐めてくる。
俺に恋!? なんだってそんなことに!?
「好きだよトーマ♡」
「なにがなんなんだ!? 助けてくれリーゼリット!」
「はぁ、カラスとドラゴンのカップルってよく分かんないけど。お幸せに」
「いや、助けてくれ!!」
リーゼリットはなんだか遠い目で俺たちを見ていた。
いや、このままだと舐め殺される。
どうにかしてくれ。
「あんたがまた来たら今度こそ殺すわよ」
『あれ? もう復讐はしないんじゃなかったの?』
「それ以前に私はこの街の冒険者なのよ。エルダードラゴンなんか札束の塊みたいなものなんだから。必ず今度こそ勝つわ」
『へぇ、鬱陶しいな。じゃあ、こっちこそ今度は殺すよ。そして、トーマはもらう』
「好きにしなさい」
リーゼリットは肩をすくめた。
俺をもらう部分は拒否して欲しかった。
『じゃあね、魔法使い。ひどい1日だったよ』
「こっちのセリフよ」
そして、シェザーナは大きな翼を広げた。
そして、その翼を大気に打ち付けると巨体は宙に舞い上がった。
『一緒に居て楽しかったって言ってくれてありがとう、トーマ』
そして、シェザーナは最後にそんなことを言ってさらに高く舞い上がり、遠くへ飛んでいった。
その姿はやがて見えなくなった。
「これは今度こそ一見落着か」
「私は全然そんな気分じゃないけど」
リーゼリットは歯を剥き出しにして悔しそうに言った。
なにはともあれ、長い1日はこうしてなんとか終わりを迎えるのだった。
「大丈夫か!!」
そして、通りの向こうからレナたちが飛び出してきた。
どうやらドラゴンが起きていたから様子を見ていたようだ。
リーゼリットは手を上げてそれに応じた。
俺は飛び上がってリーゼリットの肩に止まり、仲間たちの元へと帰るのだった。
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