第10話 謎の少女『銀のシェザーナ』
長い銀髪ポニテの白い美少女、シェザーナは俺を見るなり俺をカラスじゃないと言い出した。
俺は呆気に取られる。
なにせ、言う通りなのだから。
だが、そこですぐに認めるのは少しまずい気がした。
「ははは、なにを言ってるんだ」
俺は作り笑いでごまかす。
「何言ってんだシェザーナ。こいつはこの通りどこからどう見ても普通のカラスだろうが」
「人間の言葉を話すカラスが普通のカラスなもんか」
「こいつ人間の言葉話せるのか!?」
「私に今言った言葉は人間のだったね」
「マジか、全然分からなかった」
どうやら俺の声は人間と話す時は人間の言葉に、カラスと話す時はカラスの言葉に聞こえるようになっているようだった。
「『旧き言葉』の改良版か。どうも君という存在には女神が関わっているね」
「こいつ女神様と関わってんのか!?」
ルゥはいちいちすさまじいリアクションだった。この異様な状況をわずかばかりでも和ませてくれる。
その余裕は少しだけ俺に思考する力を与えてくれた。
まず、この少女が何者なのか。敵なのか味方なのか。そもそも俺をしゃべるカラスと異常扱いしているが、なぜ少女自身もカラスと話せるのか。
「お前は何者なんだ。俺の敵なのか?」
俺はジリジリと間合いを取りながら言う。
いつでも逃げ出せるようにだ。
「敵か味方かと言われれば敵かな。そもそも私の味方も私が味方する存在もいないけどね」
「そうだぜ! こいつはなんて言ったって...」
「ルゥ、その先を言ったら今晩の私の晩御飯がカラスの丸焼きになる」
「なななななんだって!? でもお前いつも自慢げに」
「今日は違うんだよ。相手が女神関連だって言うならなおさら」
どうやら、シェザーナは俺を警戒しているらしい。
奇遇なことに俺も実にこの少女を警戒していた。
まさしく、一色触発といった感じだ。
だが、俺はカラスでこの少女がなんなのかはまだ分からないままだ。
「へぇ、その瞳。その表情。まるで人間だね」
「........!」
「聞いたことがある。女神は時として異界の人間をこの世界の生物に転生させると。君はその類かな?」
「なに!?」
本当に何者なんだこの少女。
なんで女神のことも、異世界転生のことも分かるんだ。
この世界に転生してまだ一日だが、周りの雰囲気を見るに、この世界の人々にとって女神は俺の元の世界の神様と同じで信仰の対象のようだ。
それはつまり、みんながはるか遠くの存在として認識していて、そもそも実在の存在かどうかも確信していないといった感じなのだ。
なのにこのシェザーナは間違いなく女神の実在を確信しているし、その力に関してもある程度の理解があるようだ。
どういうことなんだ。
「お、お前。本当に何者だ」
俺の警戒は頂点に達していた。
俺の素性を知られた。
この少女は危険過ぎる。間違いなく、俺の平穏を脅かす種類の人間だ。
いや、そもそも人間なのか?
「へぇ、転生した人間であることを否定しないんだ。つまり肯定したってことで良いのかな?」
「...........」
「肯定したと勝手に受け取らせてもらうよ。そうかぁ、君はカラスだけど中身は人間なんだ。なら.....」
少女はジリ、と一歩だけ俺と距離を詰めた。
そして、
「なら私のものになりなよぉ!!!」
俺は次の瞬間にはシェザーナの羽交締めにされていた。
シェザーナの柔らかいいろんな部分が俺を包み込んでいる。どうも着痩せするタイプのようだ。リーゼリットほどではないが思ったよりも....。
いや、今はそうではなくて。
「なんだ! なんのつもりだ!」
「いやだから。面白いから私のものになりなって」
「い、嫌だ!!! なんぜこんな得体の知れない人間の所有物にいきなりならないとダメなんだ!」
「えぇー、釣れないなぁ。物欲の薄い私が欲しがるって滅多にないよ? 栄誉なことだよ?」
「嫌だ! とにかく嫌だ!! すぐに逃げ出したい!! 俺の居場所に、リーゼリットのところに帰る!!!」
「リーゼリット?」
途端に少女の雰囲気が変わった。
急に静かになって。顔を見るとなんか少し怒っているような。整った顔が怒りで静まり返っているのはなんだかすごく怖い。
「リーゼリットって、あの壁の向こうで魔物狩りやってる魔法使い?」
「そ、そうだよ。俺はあいつの使い魔なんだ」
「ふぅん、君はあの女の所有物なんだ」
所有物という言い方には語弊があったが、言い返す気は起きなかった。シェザーナの雰囲気が怖いからだ。
「ならいいや。私あの女嫌いだし」
「お前リーゼリットの知り合いなのか?」
「顔は良く知ってる。一回も話したことはないけど。話したくもないし」
リーゼリットの仕事のライバルかなにかなのだろうか。
どうやら明らかにリーゼリットを敵視しているようだ。
相変わらず怒っていて怖い。
「まぁ良いや。なら君を持ち帰るのはなしにしよう。でも、君への興味は収らないね。またぜひ話をしよう」
「自分が何者かも話さないやつとはあんまり会いたくない」
「はっきり言うね。なら簡単な自己紹介だけ。私は『
そう言ってシェザーナは微笑むと去って行った。
残されたのは俺とルゥ。
なんだか大嵐を乗り切ったかのようだった。
汗が滲むのを感じる。
一体なんなんだあの少女は。どう考えても普通じゃない。というか明らかにヤバい人間だった。
女神に転生させられた俺に興味津々といった感じだったが正直勘弁願いたい。
あんな得体の知れない恐ろしい少女とまた関わるのなんてごめんだ。
というか、
「あれは誰なんだルゥ? 何者なんだ?」
知っていそうな人間、もといカラスがすぐ隣にいるではないか。
「知らない知らない。何も知らないぜ。しゃべったら丸焼きだ」
「なるほど」
どうやらルゥから聞き出すのは諦めた方が良さそうだった。
仕方ない。カラスとはいえ、こうして会話をした相手が死ぬのは嫌である。
「ていうかお前人間だったのか!?」
ルゥは叫ぶ。
そういえばルゥは人間嫌いなんだった。
気を悪くしたのだろうか。
「人間にもこんな良い感じのやつがいるんだな。人間としゃべるの初めてだから興奮するぜ!!!」
大変楽しそうだった。
それからルゥはまた世間話を俺に仕掛け、俺は人間だった頃の話なんかをして楽しませたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます