第20話 鎧の戦士の仲間たち

 それから俺たちは廃墟の街を行ったり来たりだった。


 いく先々で魔法陣を描き、俺は魔法の触媒にされ、作業は進んでいった。


 そして、いく先々で魔物が出没し、俺たちはそのたびに戦闘を行ったのだった。


 そんな感じで3箇所を終えたのだった。



「さて、あと2箇所ね」



 俺はホウキで飛ぶリーゼリットの肩に止まっている。


 街の方々を行ったがどこもかしこも廃墟だらけだ。当たり前だが。



「次はあそこか」



 リーゼリットが言っていた、街の南の広場。そこが次の魔法陣の設置場所だった。


 しかし、



「誰かいるわね」



 そこには何人かの人だかりがあった。


 全身甲冑姿の男たちだろうか。


 それに、



「レナもいるわね。いつものメンツじゃないの」



 どうやらいつもドラゴンと戦っている仲間たちのようだった。


 俺たちはそのグループの近くに降り立つ。



「どうしたのこんなところで」



 降りるなりリーゼリットが言う。


 甲冑の戦士の1人が答えた。



「お前が飛び回ってるのが見えたから。術式を張り直してるんだろう?」


「そうよ」


「それがこの前のカラスくんか。噂は聞いてるぞ。そのカラスくんが居れば尖塔のドラゴンを倒せるかもって話なんだろ?」


「そうなのよ。ああ、気になって見にきたんだ」


「そういうことだ」



 笑いながら甲冑姿の戦士は行った。


 なるほど、ドラゴンを倒せるほどと言われた俺の力がどれほどなのか見にきたという話らしい。



「この前みたいな魔法を見せてやってくれ。トーマはすごいんだ」



 なぜかレナは誇らしげだった。


 なんでレナが誇らしげなんだ。



「まぁ、戦力の情報共有はどこかでするつもりだったし。良いわよ」



 そう言ってリーゼリットは俺に魔力を通した。


 途端にヤタガラスのなる俺。



「おお、姿が変わった」


「これがカラスの神様なのか」



 戦士のみなさんはザワついている。なんだか悪くない気分だ。ステージの上のパフォーマーとかこんな感じなのだろうか。



「プロメテウスの加護よ!」



 リーゼリットが魔法を発動する。


 同時に起きる爆発。巨大なそれは廃墟の一つを吹き飛ばした。


 瓦礫が飛び散り、周囲に落下する。



「こんな感じよ」


「すごいな」


「今の下級魔法だろう。それであの威力なら上級を唱えたらどうなるんだ」


「確かにこれならドラゴンに勝てるかも」



 戦士たちは口々に話していた。


 どうやら、鑑賞に耐える見せ物になったらしい。



「ほらな、トーマはすごいんだ」



 やはりレナは自分のことのように誇らしげだった。


 まぁ、嬉しそうなのは良いことか。


 とにかく、リーゼリットの仲間の皆さんにも俺の能力は評価が高いようだった。








「それで、今この能力を使って街に術式を張り直してるのよ」


「なるほど、これが街中で発動すれば確かに悪くない」


「でも、炎魔法にしか使えないんだろ?」


「それでも十分だろう」



 戦士のみなさんとリーゼリットは口々に話してミーティングを行っていた。


 あんまり入っていけそうな空気ではなかった。


 俺はしばし待ちぼうけだった。



「みんなにも高評価だなトーマ」



 そんな俺に言うのはレナだった。



「ああ、喜んでもらえたなら何よりだ」


「トーマの実力は確かなものだ。こんな優秀な使い魔は聞いたことがないぞ」



 そうなのか。


 ここまで魔法を強化するとかあんまりないのか。


 普通の使い魔の基準が分からないからなんとも言えん。


 だが、この反応を見るに尋常でないことをしているのは確かなようだ。



「リーゼリットとの暮らしは大丈夫か? 人使いが荒いだろうあいつは」


「ああ、確かに」



 レナも感じているところらしかった。ということはレナの扱いも荒いのか。もう少し手心を覚えるべきだろう。



「でも、そんなに悪くはない」



 でも、やっぱり全然ましなように思う。



「そうか、そう思えるなら良かった」



 ふふふ、と笑うレナ。レナなりに俺を気にかけてくれているのだろうか。


 ありがたい話だ。


 と、



「おい、本当にしゃべるのかこのカラスくんは」



 戦士のみなさんの1人が俺を見て言った。



「あ、ああ。まぁ」


「すごい! 女神の奇跡っていうのは本当だったのか!」


「動物としゃべれるの新鮮だ。カラスの生活って大変なのか?」


「飛ぶのって楽しい?」


「好きな食べ物は? 好みのカラスってどんなの?」



 途端に全員が質問と一緒に詰め寄ってきた。


 しゃべる動物というのが相当珍しいらしかった。



「ちょっとちょっと。私の使い魔なんだから。あんまりもみくちゃにしないでよね」



 リーゼリットが戦士たちの前からひょいと俺を抱え上げた。



「ええ、面白いのに」


「いけずぅ」



 戦士たちはかなりがっかりしていた。


 なんだこの好奇心の集団は。



「魔物と話せればいろいろできそうなのにな」


「ああ、魔物とは話せないんだ」


「そうなのか? やっぱり動物じゃないからなのか」



 そういえば、獣の声をあげるのは動物も魔物も同じなのに魔物とはまるで意思疎通ができない。


 魔物は死んだら煙みたいに消えるし、やっぱり生き物とは違うのだろうか。



「そうだ、リーゼリット。この前火薬を安く売る店を見つけたぞ」


「霊薬が安い見せもな」


「本当? ちょっとミーティングにしましょうか」



 そうして、レナも含めてみんなはここで会議を始めるのだった。


 なんかそういうサークルみたいだ。ドラゴン退治サークルか。あんまり流行りそうな感じじゃないな。


 まぁ、俺は待ちぼうけだった。


 なんとなく空を見る。


 前の世界と変わらない青い空。時刻はもう昼を過ぎているだろう。


 俺はぼーっとしている。


 その時だった。



「おい、トーマ」


「ん?」



 声がしたので振り返る。


 そこにいたのはカラス。外の街にいたルゥだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る