第21話 シェザーナ再び

「よぉ、元気そうだな」



 ルゥは気さくな感じで話しかけてきた。


 チャカチャカと歩きながら俺に近づいてくる。



「ルゥも元気そうだな」


「まぁな、ボチボチってところだ。お前は人間に付き合ってるのか?」


「そんなところだ」


「大変だなお前も」



 ははは、などと笑うルゥ。


 この上ない世間話だった。


 しかし、壁の中に住む俺たちをクレイジー認定したルゥが壁の中にいるなんて不思議な話だ。



「ルゥも壁の中にも入ることがあるんだな」


「ん? いやいや、好き好んで中に入りはしねぇよ。魔物と会うのなんかごめんだからな」


「へぇ、じゃあなんでまたこんなところに」


「それはだな...」



 ルゥはそう言ってチラリとリーゼリットたちの方をうかがった。


 リーゼリットたちは議論が白熱していて俺たちに視線すら向けない。


 完全に議論に集中している。



「ちょっと付き合ってくれねぇか?」


「ん? ここから抜け出すってことか?」


「そういうことだ」



 かなりのコッソリ感を出しながらルゥは言った。


 なんだか怪しかったがルゥはそんなに悪いカラスではないと思う。


 ちょっと抜け出すくらいリーゼリットたちも何も言わないだろう。



「ちょっとなら」


「よし、ならこっちにきてくれ」



 そう言ってルゥは飛び立つ。


 俺も従って飛び立った。


 そして、廃墟の街のひとつ向こうの通りに降り立つルゥ。


 俺も従って降りる。



「ここがなんなんだ?」


「いや、まぁ...」



 ルゥは乾いた笑いを漏らしている。


 なんなんだ。なにをどうしようって言うんだ。


 疑問符の俺、その時だった。



「トーマ♡♡♡!!」



 後ろからものすごい力で抱きしめられた。


 柔らかい感触が全身を包み込む。



「なんだなんだ!?」


「私だよー。シェザーナだよ」



 そう言いながら声の主は俺をもみくちゃにする。


 俺はようやくその人物を見る。


 銀の髪の人形みたいに美しい少女。シェザーナがそこにいた。



「なんだ!? シェザーナまで壁の中にいるのか!?」


「私がルゥに君を呼ぶように頼んだんだよー」



 そう言いながらわしわし俺の頭を撫でて、胸に抱き締めるシェザーナ。当たっている。いろいろ当たっている。冗談じゃない。



「ひぇぇえ」



 俺はなんとかシェザーナの元を脱出した。



「あぁん。逃げなくても良いじゃん」


「逃げるわ! こんなもみくちゃにされたら」


「えぇ? そんな真面目ぶっちゃって。本当はいろんなものが当たって恥ずかしかったんでしょ?」


「ななな、なんだよ! 当ててんのそっちだろうが」


「そりゃあ、もちろん。君の反応が面白くて当ててるんだよ」



 ふふふ、と妖艶な笑みを浮かべるシェザーナ。


 ななな、なんだこいつは。純真なおじさんをからかうなってんだよ。









「トーマの顔が見たくなってね。寂しくてこうして会いにきたってわけ」


「まだ1日しか経ってないぞ」



 シェザーナはすごく寂しそうに眉毛を曲げていた。


 しかし、昨日別れてからまだ1日しか、いや1日も経っていない。


 そして、それだけでそんなに寂しがられるほど俺たちは深い仲ではない。はっきり言って赤の他人だ。


 ちょっと怖い。


 というかシェザーナは何者か全然分からないからそもそも怖いんだった。



「1日だって永遠みたいに長かったよ。君は罪な男だね」


「勝手にそんなこと言われても...」



 困るのだった。


 というか、わざわざ俺をルゥに頼んでまで呼びつけて、ただ会いたいだけだったのか。


 考えることが全然分からん。



「どう? 決心はついた?」


「なんの?」


「あの女から離れて私のところに来る決心だよぉ」


「そんな決心に揺らいだ覚えはないが...」



 押しがすごい。



「あんな女のところ、とっとと離れた方が良いよ。どうせひどい扱い受けてるんでしょ?」


「まぁ、人使いは荒いけど、そんなに悪くはない」


「騙されてるんだよぉ。私ならもっと良い目に合わせてあげるよ」


「今のところ、リーゼリットの待遇に満足してるから」


「素直じゃないなぁ、もう」



 どう答えてもシェザーナの頭の中でシェザーナに都合が良いように捻じ曲げられている気がする。


 思考回路が手強い。



「ていうか、なんでそんなにリーゼリットが嫌いなんだ?」


「.....色々あるからね。あの大剣の女も周りの甲冑たちもみんな嫌いだよ」


「ドラゴン狩りメンツ全員嫌いなのか...」


「ふん!」



 なんだか拗ねるシェザーナだった。


 商売敵かなんかなんだろうか。


 それともウィーゲイツ絡みだとか?


 とにかくどうやらリーゼリットたちのドラゴン狩りをよく思っていない勢力なのには違いなさそうだった。



「ちょっと遊ぼうよトーマ。もっと話がしたい」


「ええ? 俺一応リーゼリットと仕事してるんだけど」


「来ないならアイツらに君が人間だってバラすよ」


「なんなんだよぉ...」



 逆らいようがないじゃないか。横暴だ。



「そんなに時間はかけないからさ」


「行く以外にないじゃんか」


「そういうこと。さぁ行こう」



 そう言うとシェザーナはふわりと浮き上がった。


 ホウキも使わず生身の人間が飛んでいる。



「お、お前本当に何者なんだ」


「魔法くらいでいちいち驚かないでよ。まぁ? あの女のよりずっとすごいんだから仕方ないかもだけど」



 ふふん、とシェザーナは得意げだった。



「ついてきて」



 そして、シェザーナに言われるまま俺は飛び立つ他になかった。ついでにルゥもついてくる。


 リーゼリットたちは未だ熱い会議中だった。


 まぁ、ちょっとだけだ。


 仕方ないが付き合うとしよう。

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