第22話 外套の男たちとの戦闘
「ほらほら、早くついてきなよ」
「くっ、はや...」
「もうちょっとカラスに合わせてくれシェザーナ!!」
俺もルゥも必死に飛んでシェザーナをおいかけていた。
シェザードはふわふわとまるで風船みたいな軌道で浮くように飛んでいるが、実際の速度はかなりのものだった。
「大丈夫大丈夫、そんなに早くは行かないから」
ははは、とシェザーナは笑っている。
俺たちは全力で羽をばたつかせている。
そして、シェザーナは目的地を見つけると高度を下げていった。
そこは広場。俺とリーゼリットの家がある、廃城の前の広場だった。
「とうちゃーく」
「ひぃひぃ、疲れたぜ」
ルゥと俺もゆっくりと降り立った。
「ここならゆっくり話せるね。近くに魔物の気配はないし。冒険者どもの気配もない」
なるほど、確かに今魔物の姿はなかった。
「あそこが君の家だろう」
そうして、シェザーナは俺の家を指さした。
「な、なんで知ってるんだ...」
「ふふふ、君のことならなんでも知ってるのさ」
ちろりと舌を出して笑うリーゼリット。
怖い。なんかすごく怖い。住所を知らない人に知られているのってこんなに怖いのか。
「まぁまぁ、別に寝込みを襲うつもりはないよ。心配しなくて良い」
「お、おう」
そんなこと言われてもあんまり信用できなかった。
「君たちはここであのドラゴンと戦っているんだったね」
「ん? ああ。まぁ、勝てるはずないみたいだけどな」
「そうだろうね。できもしないことにしつこつ挑み続ける。君のご主人と仲間たちはひどく迷惑だよ」
シェザーナはうんざりした様子だった。
「お前もドラゴンを狙ってるのか? リーゼリットたちの商売敵なのか?」
「ん? ふふふふ。まぁ、商売敵ではないけど、敵なのは間違いないだろうね」
不敵に笑うシェザーナ。
妙な言い回しをする。本当に掴めない少女だった。
さっきの浮遊魔法なんかを見るに、魔法使いとしてはかなりの実力を持っているようだったが。魔法使いとしてリーゼリットを敵視しているんだろうか。
「お前は一体なんなんだ? なんで俺にしつこく付きまとうんだ?」
「さて誰だろうね。ただ、君にしつこく会いにくるのは君がとってもかわいいからだよ。女神の力で転生してカラスにされて、それでも健気に生きようとしている。愛おしくてたまらない。私のものにしたくてたまらない。君という存在にひどく興味を惹かれるんだ」
「なんなんだそりゃあ」
俺には分からないが、シェザーナは大変俺を好いているようだった。
なんでか、なんでなのか。相手は人間のはずだが、まるで考えていることがわからなかった。
いや、もしかして、はたして、シェザーナは人間なのか。
「お前は一体....」
俺は言いかけた時だった。
「やれやれ」
シェザーナが腕を振るった。
同時に俺の横を何かが通り過ぎる。そして、それによってなにかが弾き飛ばされた。
それは矢だった。狩猟なんかで使う吹き矢に似ていた。
「無粋だな人間は。こんなに楽しく話をしているところなのに」
シェザーナが睨む先に居たのは。黒い外套と頭巾で身を隠した2人の男だった。
「なんだあの少女は」
「分からん。だが、魔力を飛ばして矢を弾いたように見えたぞ」
「特等魔法使いか? 知らない顔だな」
男たちは口々に会話をしていた。
あいつらは、
「誰かなあの人たちは」
「多分、ウィーゲイツの仲間だ」
「ウィーゲイツ? ああ、領主っていう男か」
シェザーナはひどくうんざりした様子だった。
「なんで君が狙われてるの?」
「俺は特殊能力で魔法を強化できるんだ。それでウィーゲイツは俺を使ってリーゼリットがドラゴンを殺さないか心配らしい」
「へぇ、女神のスキルみたいなものか。ドラゴンを殺すとはまた大きく出たね。ははは。領主は心配性だな」
シェザーナは笑っている。よほど俺の発言が面白かったらしい。そんなに面白いことを言ったつもりはなかったが。シェザーナはドラゴンの絶対性を信じているような気がした。
「まぁいい。追っ払ってあげるよ」
シェザーナは一歩前に歩み出た。
男たちと対峙する形。
男たちは身構えてシェザーナに向き合う。
「どうする?」
「特等の相手ならしたことがある。勝てなくてもお前と2人ならカラスを奪うくらいはできる」
「そうか、なにせリーゼリット対策で魔除けの外套を着ているしな」
男たちは会話し、じりじりと間合いを詰め始めた。
「行くぞ」
その掛け声とともに男たちは消えた。
いや、目にも止まらない速さで踏み込んだのだ。
「やれやれ」
そして、同時にシェザーナは腕を振った。
そして、
「ぐぁああっ!!!」
「ぐぅっ!!!」
男たちが吹っ飛ばされ、2人揃って廃墟の壁に激突した。
「バカな。魔除けの外套が」
「Aランクまでの魔法を無効にする秘宝の魔道具じゃなかったのか」
男たちの服はところどころが引き裂けていた。
男たち自身にダメージはなさそうだったが、シェザーナの攻撃が効いているらしい。
「こうなったらあの少女からやるしかないな」
男たちはじりと身構えて、そしてまた消えた。
俺の目にはまるで姿さえとらえられない。
しかし、
「面倒だなぁ」
気づけば男たちはシェザーナと組み合っていた。
男たちの腕には妙な形状のナイフがあり、それをシェザーナに振るっている。
しかし、それは届かない。
シェザーナは容易くそれらをかわし、そして2人のそれぞれのナイフを素手で掴んだ。
「なっ!!??? なんだこいつは!?」
「昏倒薬が塗ってある刃を素手で!!??」
男たちは驚愕していた。
「それっ」
そして、シェザーナは2人をいっぺんに蹴り飛ばした。
また廃墟の壁に激突する2人。
「なんだ、なんなんだあの少女は!!」
2人は動揺していた。
どう見てもあの2人はかなりの強さのように見える。しかし、シェザーナの強さはそれ以上に圧倒的だった。
まるで子供でも相手にしているように男たちを手玉にとっている。
これは一体...。
「面倒だから、どっか行って」
そして、シェザーナは大きく息を吸い込んだ。
そして、一気に吐き出す。
ただし、それは、
「な、なんだ!?? 炎!!??」
「バカな!!! 外套が効かない!!! 魔法じゃないぞ!!!」
青白い炎シェザーナは口から吐き出していた。
それらは男たちを包み込み、男たちは火だるまになっていた。
「くそっ! くそっ!!! 撤退だ!!」
そして、男たちは外套を脱ぎ捨て、火を払い、一目散に撤退していった。
慌てふためき、顔を隠す余裕さえなかった。
2人は屋根を飛び、遠くの消えていった。
「やれやれ、口ほどにもない」
シェザーナの強さは圧倒的だった。
あの手練れの男たちがまるで相手になっていなかった。
強すぎる。
「お前は本当に何者なんだ」
俺は思わず言っていた。
この世界の人間の強さの基本がどれだけのものかはまだ分かっていない。
だが、それにしたってシェザーナの強さは尋常ではないと思った。
まるで、人間離れしている。
「人間離れしてる」
そう自分で口にして、急に引っかかった。
さっき、シェザーナが吐き出した炎。
あの青白い炎。あれはまるで、
「ふふふ。まぁ、良いじゃない。それより案内したいところがあるんだ」
「なんだ?」
「私のとっておきのオススメスポットだよ」
シェザーナはにっこりと、しかしどこか恐ろしい笑みを浮かべていた。
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