第6話 カラスのスキルと1日の終わり
「なんじゃこりゃあ!」
俺の体は美しいことになっていた。
真っ白な体に3本の足。神話のヤタガラス。そんな感じになっていた。
「あんたただのカラスじゃなかったわけ!?」
これにはリーゼリットも驚きを隠せないようだった。
「知らないよこんなの。なんなんだこれ」
「自分でも分からないの? これも女神の奇跡のひとつなのかしら」
女神と言われて俺ははたと気づいた。
そうか、異世界転生で良くあるスキルみたいなやつか。
カラスだけどスキルをもらえたのか。
いや、人間で渡してくれよ。回りくどい気がする。
「あんたそれでなにか出来るの?」
リーゼリットはなんだか期待に満ちた目をしていた。
見せ物じゃないんだがな。
だが、なにかできるのかと言われれば出来る気がした。体が燃えるように熱い。
目の前ではブラックドックと言われた魔物たちが俺の変化を警戒し、間合いを取って唸っている。
「よ、よし」
俺はブラックドックたちを睨む。
そして、羽を広げて叫ぶ。
「そりゃああ!!」
勇ましい俺の掛け声。
それと同時に体が燃え上がるのを感じた。
いや、文字通り燃え上がっていた。俺の体は炎のように赤熱していたのだ。
そして、
───グギャアァア!!!
俺が睨んだブラックドックの一体、それが燃え上がったのだ。
そして、一瞬で消し炭になる。
「どりゃああ!!」
俺は再び羽を広げて叫ぶ。
すると、
───ガギャア!!
またブラックドックが一体燃え上がり消し炭になった。
これが俺の能力なのか。
炎系の能力。相手を焼き払う力。それは俺が女神から与えられたスキル。
「へぇ、やるじゃない!」
リーゼリットはかなり嬉しそうだった。
多分、たまたま拾った使い魔がすさまじい能力を持っていたのでかなり得した気分になっているんだと思う。
短い付き合いだが、リーゼリットはそういう現金なことを考えている気がした。
「よ、よし。このまま....」
俺が残りのブラックドックも焼き払おうとした時だった。
───グルルルルル、グァッ!!!
一匹のブラックドックが吠えると全員が一斉に逃げ出したのだ。
敵わない相手には挑まない魔物としての本能なのか。
「ダメダメ、逃さないわよ」
それと同時にブラックドックたちが逃げた広場、そこに巨大な爆発が巻き起こった。
すさまじい熱風と爆風。俺はたまらず飛ばされる。
見ればリーゼリットが指を振ったポーズで止まっている。
今のはリーゼリットの魔法なのか。
ブラックドックは残らず消滅していた。
え、普通に俺よりすごくないか。
「連中を逃すと後が面倒なのよね。って、元に戻ってる」
「え?」
俺を拾い上げたリーゼリットの手の中、自分を見ると確かに俺は普通のカラスに戻っていた。
「ふぅん、なんだか分からないけどとんだ拾い物だったみたいねあんた。これはうんと働いてもらわないと」
リーゼリットはにっこり笑っていた。
俺にはその笑顔から優しさを感じることはできなかった。
「なるほど、やっぱり自分でもさっぱりなのね?」
「うん、まぁ....」
寝巻き姿でベッドにかけるリーゼリットに俺は言った。
歯切れが悪いのは当たり前だ。なんとなく察しはついているからだ。
「まぁ、使い魔に便利な特殊能力があるだけでもこっちとしては儲け物だけど。まぁ、色々頑張ってもらわないと」
なにを色々頑張るのかは聞かなかった。聞きたくなかった。
「まぁ、なんだか分からないのも気分悪いから色々調べないといけないわね。まだいろんな能力があるのかもしれないし」
「その可能性もあるのか」
「次ドラゴンが来るまでには深掘りしときたいとこね」
「ドラゴンはどれくらいの頻度で来るんだ?」
「大体10日に一回ってところかしらね。あいつは縄張りを常に回ってて、この街もそのひとつだから」
なるほど。普通の動物みたいにナワバリを周回していて、その周期が10日なのか。10日もかけて回るってどんだけ広いナワバリなんだ。
しかし、それならあんな恐怖体験は10日後まではしなくて済むのか。
少し安心した。
「とにかく今日は寝ましょう。明日は市場に行くつもりだし。あんたもなんだかんだで疲れたでしょう」
「ああ、まぁな」
確かに1日が終わると分かったらどっと疲れが出てきたのを感じていた。転生1日目ってこんな感じなのか。同胞の情報がないのでさっぱり分からん。
「はぁ、良い品物があると良いけどね。大外れの日じゃないことを祈るわ。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
そうしてリーゼリットは燭台の灯を消した。
部屋は真っ暗になり、リーゼリットはまもなく寝息を立て始めた。
俺の転生初日は終わりを迎えた。
しかし、いきなりこんな世界に飛ばされて、いきなり謎のスキルをもらって。俺は一体どうなっていくのだろうか。
転生させられたならなにか目的とかあるんだろうか。あのドラゴンを倒すのが俺が与えられた役目なんだろうか。
だが、特殊能力があるとはいえ俺はただのカラスだ。あんなガチの怪物とやり合えるんだろうか。
大体、炎熱系の能力って言ってもなんかあんまり大したことない感じだったと思う。
少なくともリーゼリットの方がすごかった。
俺はブラックドックを一体ずつ燃やしただけだったが、リーゼリットはまとめてドカンだ。
なんかあのドラゴンと戦うには全然足りない気がする。戦うならソウル・ソ◯エティの1番隊長レベルの炎熱系じゃないと勝負にならないんじゃなかろうか。
なんだか、いろいろ困難が多すぎる。
2回目の生は初っ端から波瀾万丈だ。
だが、とにかく疲れていた。
今は寝ようと思った。
俺は止まり木の上で静かに目を閉じる。
このカラスの体は驚くほど馴染んでいるので結構あっさり寝れそうだった。
そこで、
「この廃墟の街で市場?」
急に頭の中に疑問が浮かんだ。
見渡す限りのこの廃墟のどこで市が開かれるのか。
そもそも領主もこの廃墟のなににそんなに旨みを感じているのか。
やはり分からないことばかりでだった。
それでも俺はゆっくりまどろみ、やがて眠りに落ちていった。
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