第16話 冒険者ギルドと報酬と夕暮れの街

「こちらが報酬になります」


「ありがとう」



 冒険者ギルドの受け付け、クエストをクリアした俺たちは報酬を受け取っていた。


 でかい皮袋に硬貨がジャラジャラ入っているのが分かった。


 カウンターの他は待機スペースがメインか。


 いろんな武器や防具を装備した冒険者たちが思い思いに時間を潰していた。



「はい、報酬」



 リーゼリットはドン、と机の上に皮袋を置く。



「うはは。悪くない重みだ」



 レナは嬉しそうに笑っている。


 どうやらこの世界的にもそれなりの額らしい。


 その働きに貢献したとなればそれなりの満足感は俺にもあった。



「今回はあっという間に終わったっていうのがでかいわね。まだ日も傾いてないじゃない」


「魔法でドカンで終わりだったからな。いやぁ、トーマ様様だな」



 レナはわしわし俺の頭を撫でる。悪くない気分だ。



「ヤタガラスっていうのか。トーマはすごいな。本当に女神様の祝福を受けてるんだな」


「ま、まぁな」



 レナは心の底から関心しているようだった。


 なんというかレナは純真だ。ほっこりする。


 それにしても、俺のスキル的なものがあれだというなら、あれを頼みに頑張るしかないだろう。


 やっぱり転生したからにはただのカラスではないということだ。


 正直自分でもビックリするレベルだったが。


 魔法の強化ジェネレーター、それが俺のヤタガラスとしてのスキル。



「なにはともあれ祝杯だ」



 そして、テーブルには三杯の樽のジョッキが運ばれてきた。そしてつまみのサラミ。


 ファンタジーでいい感じの入れ物だが、量がすごくて素直にワクワクできなかった。



「もう飲むの? 家に帰ってからにしなさいよ」


「達成感の鮮度が落ちる。今飲まないでいつ飲むんだ」


「だから家で」



 リーゼリットの言葉も聞かずにレナはゴクゴクとまず一杯目を一気に半分ほど飲んでしまった。


 本当に酒好きらしい。



「ぷはーっ!」


「景気良く飲んでるところだけど、報酬の配当はどうするのよ」


「は? 半分ずつだろ?」


「賭けのこと忘れたの?」


「いや、あれはケルベロスが寝てたからノーカンだろ」



 微妙に2人の間に火花が散っているように見えた。


 報酬の話ともなればお互いに譲れないものがあるようだ。



「今回はケルベロスを討ち取ったのは私だって話よ」


「討ち取れたのはトーマの力があったからなんだろ?」


「トーマは私の使い魔だから」


「それに魔法の爆発のせいで私は酷い目にあった」



 そうして2人はやいのやいのと議論を重ねるのだった。


 俺はそれを黙って見守ることしかできない。


 皿からサラミをついばみ、いつ終わるとも知れない激論を右から左に聞き流すしかないのだった。








「じゃあ、今日はありがとうね」


「いやいや、また呼んでくれ。食い扶持は多ければ多い方が良い。トーマとも触れ合いたいし」



 そう言いながらレナは俺を撫で回していた。だが、あんまり嫌な撫で方ではない。むしろ優しい。心地いい。真心を感じる。


 話し合いの末、結局報酬は半々ということで落ち着いたのだった。



「トーマ、こいつのところが嫌になったらいつでもウチに来ると良いぞ」


「あんたの酒瓶だらけの家も大概でしょ」


「ははは」



 はははと笑うレナだが普通に問題な気がする。生活には改善の余地ありだろう。


 だが、レナはいい奴だ。この半日しか関わっていないがもう好感を持てる。屈託がない感じが良いのだろう。あと撫でるのがうまいし。生活は改善した方が良いが。



「じゃあ」


「次のドラゴンとの戦闘には来なさいよ」


「ああ、今度は行くとも」



 そう言ってレナは夕暮れの街に去っていった。


 やはり異世界の夕焼けも綺麗だ。


 ファンタジーな街並みが赤色に染まっているのはなんとも言えない趣があった。


 レナはその景色の中に消えていった。



「さて、私たちも帰りましょうか。思ったより上手く終わったし」


「それは何よりだ」


「あんたのおかげよ。今日はなんか美味しいもの食べさせてあげる」


「楽しみだな」



 晩飯のランクが上がるのは実に喜ばしい。


 それが自分に働きのおかげならば尚更。



「それにしてもとんだ拾い物だったわ、あんた」


「自分でもびっくりしてる」



 使い魔としてのチートみたいなスキルだったとは。なんか色々回りくどいが。でもこれはこれで面白い気もした。



「これなら倒せるわ。尖塔のドラゴンを」



 ケルベロスとの戦闘のあとも言っていたことだった。


 しかし、そんなに簡単な話なのだろうか。



「あの炎魔法で本当にドラゴンを倒せるのか?」


「まぁ、分からないわ正直」



 リーゼリットは素直に言った。



「でも、私の最大火力はまだ出してない。もし、私の火力魔法の最大をあの規模で強化出来るならドラゴンを倒せる可能性はやっぱりあるわ」


「そんなにすごいのか」


「すごいわよ。低級魔法をあの規模で出せるのなんて伝説上の魔法使いか魔族だけだわ。それだけ異常なのよ」



 そこまでだとは思ってなかった。この世界的にもかなりすさまじい現象を起こしていたのか。


 そういえば、ギルドでもケルベロスを焼いた火球はちょっとした騒ぎになっていたようだった。リーゼリットが何人かに話しかけられているのを見た。



「尖塔のドラゴンは炎の魔法が特別効くわけではないけど、あれだけの魔法なら効果がないわけないわ。それに私の魔力の消費は普段通り。理屈で行けば力押しでかなりいけると思う」



 そんなゴリ押しで伝説のドラゴンを倒せるというのか。


 だが、リーゼリットも長くドラゴンと戦ってきたのだ。夢物語を語っているわけではないのだろう。


 それだけの機会を俺は与えられたのか。



「改めてよろしくねトーマ。期待してるわ」


「お、おう」



 リーゼリットはにっこり笑って言った。結構かわいい。俺は照れ気味だった。


 そもそも、前の生ではこんな風に期待されること自体なかったのだから。


 慣れない状況だったが、頑張れるだけは頑張ろうと思うのだった。


 そうして日は暮れ、街は夜に向かっていった。

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