第18話 朝と街の術式

 翌朝、ピチピチと小鳥がさえずり、天気は晴れでいい日和だった。


 俺は眠気まなこで軽く体をばたつかせて伸ばしたりする。



「昨日の夜は大変だったな」



 襲撃者のことを思い出して俺はげんなりする。


 連中は俺を狙っていたらしい。ひょっとしたらまたあんなことがあるのかもしれない。


 面倒極まりない。リーゼリットの言う通り、夜は家から出ないようにしなくては。



「なにはともあれ朝飯だ」



 俺はリーゼリットの姿を確認する。


 しかし、その姿は部屋の中にはない。


 もしかして朝風呂かと思った時、



「あ、起きたのね。ちょっと手伝って。私だけじゃ面倒なのよ」



 突然玄関のドアを開け放ち、リーゼリットが入ってきた。



「なんだ? 何事だ?」


「いいから出てきて」



 俺は言われるままに止まり木から飛びたつ。


 一体なんなのか。


 俺みたいなただのカラスが必要な人間の用事なんかあるのか。


 そして、ドアから外に出た。



「多すぎるからあんた使ってまとめて吹き飛ばすわ」



 納得だ。俺が必要といえばこういうことだろう。


 目の前には20体を超える、家ほどのサイズの石の巨人たちが群がっていた。


 ゴーレムというやつか。これもこの街で発生した魔物なのか。



「とっととやるわよ」


「はいよ」



 言われるままに俺はリーゼリットの魔法を援護する。魔力が通ると俺は再びヤタガラスになった。


 そして、リーゼリットは強化された炎魔法でゴーレムたちをまとめて吹き飛ばしたのだった。







「さて、やっと朝ごはん食べれるわ」



 そして、戦闘を終えて俺たちは朝飯とあいなった。


 強化された炎魔法数発でゴーレムたちは消し飛んだ。


 あの量のあの大きさのゴーレムを簡単に倒せるのは果たしてどんだけのものなのだろうか。



「ああいう魔物の襲撃は良くあるのか?」


「しょっちゅうよ。こんなところに住んでればね」


「今まで全部倒してたのか?」


「そうよ。それで倒した魔物の素材を売ってドラゴン退治の足しにするのよ」


「なるほど理に適ってるな」



 あんまり適っていない気がしたがそう言っておいた。


 別に外で暮らしていればいい気がするのだが。


 それこそレナみたいに。



「今まではあれくらいの量の魔物倒そうとしたらそれだけで1時間かかってたからあんたが来てくれて本当に良かったわ」


「役に立ってるなら何よりだ」


「さて、いただきます」


「いただきます」



 そして俺たちは目の前のパンとスープと厚切りのハムを焼いたものを食べ始めた。


 今日の朝飯はなんだかワイルドだった。










「さて、今日は作業に努めるとしましょうかね」


「作業?」



 昨日は市場に買い出しだった。


 今日はそうではないらしい。


 作業とはなんだろうか。この前みたいに薬品でも作るのだろうか。



「街に術式を張るわ。次にドラゴンが来る時までに備えるの」


「術式ってのは?」


「遠隔で発動する魔法の法陣よ。この前の戦いでも見せたでしょ」


「あれかぁ」



 あの、リーゼリットが地面の魔法陣に手を当てたら遠くで魔法が発動していたアレらしい。


 いわゆるトラップみたいなものだろう。



「あれがドラゴン退治のキモなのよ。それと大砲」


「剣とか槍とかは使わないのか?」


「普通の魔物ならね、それでも良いんだけど。普通の武器はまるで効かないのよあの怪物」


「なんと」



 そもそも、武器自体が通用しないのか。なら、わざわざ剣や槍で戦う意味はないだろう。


 効くと分かっている大砲だの魔法だので戦うべきだ。でないと勝負にすらならないのだから。



「それで、今日はその術式ってのを街に仕掛けるのか」


「そういうこと。ドラゴンが来るまではまだ日があるけど。この前使ったらあたりのはまた張り直さないとダメだから」


「そういう感じなのかぁ」



 魔法のことはさっぱり分からん。


 言われたことがそういうものなのかどうかも分からん。分からんがでもなんだかワクワクする。


 魔法、術式、ドラゴンとの戦い。ファンタジーな感じがすごい。



「魔導書と、特製チョークと....」



 そう言いながらリーゼリットは荷物をあの四次元ポーチに詰め込んでいく。


 俺はまだ残ったハムをついばんでいる。


 良い感じにコショウが効いていてうまい。



「あ、そうだ」


「なんだ?」



 リーゼリットが何かを思いつく。そして、人差し指を俺に向けてくる。



「術式を張る段階からあんたに手伝ってもらったらまた何か違うかも」


「はぁ」


「なるほどなるほど。そういう方法もあるわね。色々試してみないと」



 ふむふむとリーゼリットは首をかしげていた。


 

「とことん俺をこき使うつもりなんだな」



 リーゼリットは何から何まで俺の力を利用しようといつつもりらしい。



「そりゃあ、そうでしょ。あんたは私の使い魔なんだから。使えるだけ使わないと」



 リーゼリットに迷いはなかった。


 俺を使い倒すつもりらしい。


 まぁでも、



「人間のころよりましか」


「ん? なんか言った?」


「いや、なにも」



 独り言だった。


 だいぶコキ使われているとは思うが、リーゼリットは俺を便利な道具としか思っていない気がするが。


 でも、それでも道具として大事に扱ってくれている感じがする。


 ただただ、消耗品のように扱われていた人間だった頃より、壊れたら壊れたみたいな扱いを受けていた生前よりは遥かにましだった。


 ここでは一応なにもかもが保証されているのだから。



「さて、行くわよ」



 準備ができたらしい。


 そうして俺たちはまた魔物だらけのヴァンダルグの街にへと出かけるのだった。

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