34:うわー劣勢ですねー(棒)
トンネルを抜けた先は薄暗い室内だった。
室内の灯りは数本の蝋燭の炎のみ。
召喚魔法の儀式を行っていたのだろう、魔術師風の者が五人ほど私の足元にある魔法陣を取り囲むように立っていた。
正面にいたローブ姿の初老の男性が、
「異世界から来た英雄よ、いま陛下を呼んで参るゆえ、しばし待たれよ」
一方的にそう告げると初老の男性は走り去って行った。初老の男性は螺旋階段を降りて塔から出て行った。
あれ?
なんで【邪眼】を使っていないのに、この暗がりの中であの爺さんの行動が昼のように
先ほどすべての【
私は試しに【保管庫】を開いてみた。
【保管庫】は難なく開いた。そして呼べば【
消えたのではなく、馴染んだ、いや取り込んだのかしら?
数分後、真正面にある扉の向こうから複数人の足音が聞こえてきた。
最初に入って来たのは鋼色の全身鎧に身を包んだ騎士二人、それに続いて頭に王冠を乗せた質の良いマントを纏った中年の男性が、その後ろには先ほどの初老の男性と騎士二人が続いている。
全員が部屋に入ると私以外が一斉に王冠を乗せた男性に向かて下肢付いた。
どう考えても彼が陛下に違いない。
立ったままの私に苛立ちを見せたのは最初に入って来た騎士の二人。
陛下はそれを手で制して、
「異世界の英雄よ、召喚に応じてよくぞ参った。
言われるまでも無い。
他の世界にまでお鉢を回すようなおっさんに膝を付く必要性を私は感じない。
場所は変わり、私は柔らかいソファのある応接室に案内された。
一緒にやって来たのは、陛下とローブ姿の初老の男性、そして護衛の騎士が四人。
ソファに座っているのは、私と陛下のみで、ローブ姿の初老の男性は陛下の方に立っていて、騎士は陛下の後ろに二人、私の左右に二人が立っている。
テーブルの上には、先ほど執事が淹れてくれた温かいお茶と、美味しそうな香りのする焼き菓子が乗っている。
しかしそれらに手を付ける間もなく、あちらが自己紹介を始めた。
「余はコルネート王国国王ベネディクト二世だ」
「私は真理。地球と言う星の日本と言う国から来たわ」
「陛下発言をお許しください」
自己紹介を終えたばかりのところで、初老の男性が割って入った。
陛下は「許す」と短く答えると、疲れたようにソファの背もたれにその身を委ねた。
「陛下に変わりまして、細かい説明はわたくし宮廷魔術師のエリヒオが行います」
どうやら最初からそう言う筋書きだったらしいね。
陛下はそれっきり発言することは無く、後を引き継いだエリヒオが現在のこの国の置かれた状況について解説を始めた。
この世界には複数の国が存在している。
もちろんこれは別に珍しい事ではない、だって地球だってそうだしね。
むしろ珍しいのは、相手の国を攻める際に、実際に軍を率いるか、それとも〝宝具〟を賭けて異世界の者─こちらでは英雄と呼ぶらしい─に戦わせるかが選択できる事だった。
人民が傷つかないから、当然のごとく英雄召喚による代理戦争は流行り。いまこの世界では軍を率いる戦争はほぼ無くなったそうだ。
「また代理か」
と、私の口から不満が漏れたのは仕方がないと思って欲しい。
前回のファンの時などは、命のやり取りさえも無い決闘代理なんていうクソッタレな理由で呼ばれたのだ。
「我が国の保持する〝宝具〟は一つです。
そして〝宝具〟の数だけ異世界から英雄の召喚を行う事が出来ます」
いま国が保持する〝宝具〟の数が一つと言ったので、今回この国に呼ばれた英雄は私一人と言う事になる。
「期日までに英雄の召喚を終え、英雄は〝宝具〟を使い敵国と戦います。
どちらか国の召喚された英雄がすべて倒れたら終了となります」
なるほどバトルロイヤルと言う事か。
「敵の〝宝具〟の数は?」
しかしエリヒオは私の質問に顔をしかめただけで、
「真理様にお願いしたいのは、最低でも相手国の英雄を二人倒して欲しいと言う事だけです」
ちょっと何を言っているのか
えーと最低二人と言う時点で敵が三人以上いることが確定してるんだけど?
「私は敵の数を聞いているつもりだけど、言葉が通じなかったのかしら?」
苛立ちを言葉に乗せて睨み付けてやった。
「……十七名です」
エリヒオは絞り出すようにそう答えた。
「ハァ~?」
一対十七?
「ハァ~?」
二回目の巻き舌&呆れ声が口から漏れた。
この〝宝具〟の奪い合いと言うシステムは、住人や領土への被害がなくて、とても良くできているように思える。しかし一度勝ち始めた国を止めることが出来ないと言う最大の欠点が存在する。
小国を滅ぼして数を揃えた後は、多勢に無勢で皆殺しが可能なのだ。ぶっちゃけ、一国に統一されるのが前提のシステム。
世界の国が一国になった時の不具合なんて、私は統治者じゃないから知らないけれど、それを成すまでに流れる血がこの世界の住人の物ではなく、すべて異世界人って所は心底気に入らない。
テーブルの上には、すっかり冷めたお茶とお茶請けの焼き菓子、そして金色に鈍く光る成金趣味の黄金の腕輪─古代エジプトっぽい奴だ─が乗せられていた。
「こちらが我が国の所持する〝宝具〟です」
仰々しく赤い布が敷かれた台座に置かれている腕輪。
なんだろう、この腕輪には違和感がある。〝宝具〟とは名ばかりの、粗悪品の屑? いや違うな、う~ん。
「先代の英雄が先の戦いで相手側の英雄を一人倒しせしめました。
その時に奪った〝宝具〟がこちらです」
話が始まったので私は意識を腕輪からエリヒオに向けた。
「なるほど、ではこちらの英雄の数は二人なんですね」
「いいえ、真理様一人です」
「はい? だって英雄が相手を倒したので……しょう? あれ? 待って」
分かってしまった。
先ほどエリヒオは私に、『最低二人を殺せ』と言った。そしてこの戦いが終わる条件は、片方の国の『英雄がすべて倒れたら』だ。
つまり先代の英雄は一人を殺したが自分も死んだ。
だから戦いは終わった。
倒した奴の〝宝具〟は奪えるのだろう、だから一つを奪い、一つを奪われた。
「な、なんなのよ、このクソッタレな世界は!?」
一対十七の戦い。今回の私の役目は、二人以上を殺して次の英雄により有利なバトンを渡すだけの捨て駒だ。
「申し訳ございません」
エリヒオだけではなく、陛下とそして騎士もが深く頭を下げていた。
それは死刑宣告と等しい。
「やってらんなーい」
私は与えられた自室のベッドに仰向けに転がり、先ほど渡された鈍い光を発する腕輪を指先で弄びながら文句を垂れ流していた。
彼らの言うノルマ二人は、私にはティファが居るからきっと余裕だろう。
でもそれは彼らの都合で立てたノルマの話で、私には全く関係ない話だ。私の夢は
でもなぁ~
さすがの私も【
敵も馬鹿じゃないから、私を殺す為に連携だってしてくるしねぇ。
あーそう言えば次の召喚で死ぬって金髪に言われてたっけ。
勝手にファンの所だと思ってたけど、どう考えてもこれじゃん!
一対十七って、そりゃあ生存率0%だわ。
「にゃ~」
元気出せよとばかりに、ティファがすりすりと耳を擦り付けてくる。
心遣いは分かるけどそれは無理な相談だ。邪神を倒して生存率が上がったらしいが、0%が多少マシになっただけで、依然低いまま。
確か〝確実に死ぬ〟が、〝上手くすれば死なない〟だっけ?
上手くったってさぁ……
先ほどは無意識で反応していた【邪眼】と、確かに開いたはずの【保管庫】も、今ではうんともすんとも言わず、完全に反応していない。
つまり【
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