13:要人を救出せよ①

 異世界から戻って来た翌日。私は家の前にやって来たいつもの黒い高級車に乗った。

 ちなみに心配されるのでお母さんには詳しいことは告げず、この前異世界に行ったからその検査だよと誤魔化しておいた。

 ただし出がけに「気を付けてね」と言って送り出されたので、それとなく察している可能性は大。

 ほんとお母さんの偉大さには感服するわ。


 高級車を降りるといつも通りのエレベーターが待つ壁の部屋だった。エレベーターに乗る前に目隠しをされてビルの屋上に出た。

 見えていないのになぜ屋上かって?

「外に出るわ、風が強いから気を付けてね」って黒田が言ったからよ。

 突風が吹きつける音に混じって機械音が聞こえる。この音はドラマや映画でおなじみのヘリっぽい?

「もしかしてヘリコプター?」

「ええそうよ。わたしはここまでじゃあ頑張ってね」

 黒田に送り出されてヘリに乗った。


 目隠しが外れたのはヘリを降りたさらに先の個室。

 ただし窓は無し。

 小さな部屋にはテーブルと椅子が二つあり、一つは私が、もう一つは国旗の無い軍服を着た金髪青目の女性兵士が座っている。

 誰この人?

「まだ二時間ほど掛かるわ。楽にしてなさい」

 冒頭のほんの一瞬だけ日本語ではない言葉が聞こえたが、すぐに脳が日本語に変換してしまった。

 これは異世界転生の特典の一つで【共通言語】と言う。

 この能力のお陰で私はすべての国の言語を─それこそ異世界であろうとも─日本語で読めて会話も出来る。

 そんな訳で私の英語の成績はすこぶる良くて、将来は通訳とか映画の翻訳なんかの仕事もいいな~と密かに思っている。まあ実際に雇われたのなら追加でSPかボディーガードの役目を担いそうだけどさ。



 さて二時間。

 女性兵士に連れられるまま進むとそこは船の甲板で……

 う~んでもこれを甲板って言っていいのかな?

 ハッキリ言えば、大海原に浮かぶのは国旗を掲げていない空母の上だった。

 空母の滑走路には、やっぱり国旗の無い軍用の輸送機があって、後ろ側の貨物部分が開いていた。

「次はあれに乗るわよ」と女性兵士。

 ううっやっぱりか~


 さていま私が乗っているのは空軍が所有する様な輸送機だ。

 国籍不明ってのは一先ず置いておくとして、他国の軍隊が所有している輸送機に乗った事がある女子高生と言うのは、一体どれくらい居るだろうか?

 外国に旅行中に災害に巻き込まれたり、または日本で大災害が起きて他国の軍が救助に協力してくれれば少なからず居そうな気がするなぁ?

 それ以外の理由だと……

 きっと私くらいしか居なさそうなので考えるのは止めた。例えそれを知ったとしても楽しい未来が感じられない。


 耳にはずっとグォングォンと大きなエンジンの音が聞こえている。これは飛行機の翼の近くだからとかそんな生ぬるい話じゃぁない。

 最初は煩いと思っていたが、気づけば耳はすっかり麻痺してしまい、今では全く気にならなくなった。ぶっちゃけ今ならこの音の中で寝られるまである。

 むしろ今はシートが堅くてお尻が痛い事の方が問題だ。

 この飛行機は絶対に旅客機よりも乗り心地が悪いと思う。ただ残念かな、私にはこれ以外の飛行機の経験が無いので真偽のほどは不明だ。

 それにしてもパスポートも無いってのに、私ってば異世界含めどれだけの国を回ってんだろうねぇ……


 飛行機は途中で二度ほど補給の為なのかどこかで着陸していたけど、その間は私は降りることは出来なかった。

 二度目の補給の際に最初の女性兵士さんは降りてしまい、別の女性兵士さんが四人乗って来た。全員女性なのは私への配慮なのかな?

 映画さながらな金髪の細マッチョさんを拝みたかったが残念だわ。



 今回は人質救出なのできっと凄く動くだろうなぁ~と、私は動きやすい服を~と考えてスパッツの上から学校指定のジャージを着てスニーカーを履いてきた。

 だが新たに乗って来た四人から早々に「ダメだNO!」と叱られた。

 替わりに兵士さんが支給してくれたのは、彼女らが着る物と同じ様な、生地の分厚いアーミー用の上下服。上下共にガチな迷彩が入っている。

 ちなみに貰ったこれも無国籍。


 続いて手渡されたのは厚手のグローブ。

 なんとこれはナイフが通らない防刃素材だそうで、相手が刃物を振ってきたら手で受けろと何とも物騒な事を言われた。

 そして足には裏と爪先に鉄板が入った糞重たいブーツ。

 正直歩きにくいのだが、これから行く場所が激戦区らしいので何が落ちているかも分からないらしくて甘んじて着用中だ。

 なお「地雷も落ちてるわよ」と言って兵士さんらが笑っていたけど、それに鉄板靴は流石に効かないと思うからアメリカンジョークだったのかな?


 ちなみにこの一式、終わったらくれると言う。

 しかし町中で着る場面が想像できないのでぶっちゃけ要らない。

 まぁ異空間に仕舞っとくけどさ。

 着てきたジャージも先ほど着替えて仕舞っているしね。


 一式貰った服に着替え終わると各所にあるポケットがやたらと重かった。何が入ってるんだと取り出していくと、兵士さんは逐一それは~と解説をしてくれた。

 緊急用のソーイングセットは自分で開いた傷を縫うと聞いてゾッとした。痛み止めやら気付け薬に包帯やら、他にはコンパスに携帯食なんかもあった。

 一番馴染みのある絆創膏が無いのが逆に驚きだわ。

 取り出しやすいようにと配置されているらしいのだが、覚えきれないので纏めて【保管庫】に入れてやったら、『ヒュ~ッ』と語尾上がりの口笛を吹かれてた。


 もうそろそろ、かれこれ六時間近く移動していると思うんだけど、まだ着かないのかなぁ?

 試しに聞いたら「悪いが答える権限が無い」と黙秘された。

 いつ到着するくらいの情報はくれても良いと思う。


 他に聞きたいこともないし私は、「寝るから着いたら起こして」と伝えて、固い床に転がった。

 すると寝袋を貸してくれたので、ありがとうと言ってそれに包まって眠った。

 借りた寝袋が思ったより柔らかかったのが癒しだったわ。

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