24:邪神③
地面に赤い血が広がって行く。
二秒、いや一秒と半分、果たしてこの出血で持ちこたえることが出来るだろうか?
持ちこたえても【邪眼】が封じられたいま、もう勝てる見込みはない。
だったらいいかな……
諦めて目が閉じようとすると、地面に流れ落ちた血が真っ二つに割れた。いや割れたのではない。大地に亀裂が入り、そこに血が流れ込んでいるんだ。
まるで刃物で斬ったかのような鋭利な亀裂。
どうしてこんなものが急に……?
死の間際で一つの仮説が浮かび上がった。
勝てるかも……、しれない……
逃げ……
腕の力を総動員して必死に大地を掻いた。
ゾブッ
大地を掻いていた手に鉤爪が突き刺さった。
あれだけ血を流したのに、手はまた別だとばかりに鮮血が噴出した。二度、三度、血の勢いはどんどん失われていく。
完全に嬲り者。
いよいよ血の流しすぎで意識が遠のき始める。
「フギャニャァァァ!」
ティファの肉声が聞こえた。
あれだけこっちには来るなと言ったのに、この子は……
「ギャウン!?」
私が敵わない相手にティファが敵う訳はない。邪神の一撃にティファは人型を保てず、私の前に血塗れの灰虎毛の猫が降ってきた。
ティファ、ごめん。
でもお陰で足りたわ。
私はこの場の時間を二秒戻した。
二秒前の私は怪我をしていないし、ティファはまだ突撃していない。二人を同時に治すにはこの手しかない。
そして邪神の鉤爪が振り下された。だがその軌道は一度視ている。難なく剣で受けて、ペナルティの四秒を耐えきるために護りに徹した。
……長かった四秒が過ぎた。
私はその場で無造作に剣を振った。
まるで届かない位置で振られた剣だから、邪神は避ける素振りを見せなかった。何の意味も無い素振りだけど、私にはちゃんと意味があった。
出来ると言う確信を得て、今度はその場で剣を突き出した。
剣の先は【時空間操作】で開いた穴へ。
穴の出口は邪神の背中側。その穴から転移された剣先が現れて邪神の背中を貫いた。私の手に肉を突いた手ごたえが伝わった。
へぇ異空間越しでも感じるんだ。
思いもしない背中からの攻撃に邪神の意識は一瞬だけ背に向けられた。
このような戦いの最中だ、その隙は致命的。
届かない位置から斬撃を振り、それをすべて邪神の元へ転送した。
邪神の体中から血が舞った。
優勢と言っても良いだろう。
だが邪神の金色の瞳は【邪眼】を封じるばかりか、転移先を看破するらしく、致命傷と呼べる傷を与えることは出来なかった。
そうなるといよいよ接近して倒すしかないのだが、この戦法は接近していないから出来る芸当で、接近すると
だが逆に言えば今ならあると言うことだ。
まずは実験。
剣を振り、0.05秒後に転送した。
〝時〟を操ったペナルティはその二倍で、今回ならば0.1秒間【時空間操作】が使えなくなるはずだ。
だがペナルティは発生しなかった。
未来方向だから? 何故発生しないのか疑問は残るが、その検証はあとで良い。いまは〝空間〟と〝時〟の二つを織り交ぜて、手数を稼ぐことに徹するべきだ!
四度に一度、未来に向かって斬撃を飛ばした。
十分に溜まった所で、接近、直接の斬り合いを選んだ。
貰った時に馬鹿にした【
しかしいまは大助かりで、適当に未来へ跳ばした斬撃をまったく気にせずに、邪神と斬り結ぶことが出来た。
あまつさえ、自分を盾に腹から突き刺すなんてことも出来たわ。
未来に跳ばした刃が最後の切り札とばかりに、私は邪神に猛攻を掛けた。しかし的を視ずに跳ばした刃は致命傷にはならず、細かな傷を生み出すだけだ。
くそっやっぱり倒せないの?
未来へ跳ばした刃はあと少し。
一旦距離を離してもう一度……
そう思った瞬間、邪神の右目から鮮血が舞った。
『GueGyaaa!』
えっ!? あんな場所、私は斬ってないわ。
『ご主人!』
ティファの叫び声で我に返る。
呆けるのは後よ!
私は歯を食いしばり改めて邪神を睨みつけた。するとその邪神の像がブレた。
この効果は【予知の邪眼】だ!
視えるのはほんの僅か、きっと0.5秒も無い。でもこの
私は右目の死角に入るように動きつつ剣を振るった。
そして……
ここっ行ける!
視えた未来を信じ、神の剣を信じ、私はそのままの流れに体を委ねた。
しかし剣閃が邪神の心臓を捕えた時、
『ピィィィ!』
どこからやって来たのか斜め後ろから白い梟が迫って来た。
目標は私。
梟を払い除ければ勝機を逃す、しかし払い除けなければ相討ちだと【邪眼】が未来を予見した。
だが手を止めれば二度と勝機は無いだろう。
相討ちで結構よ!
『フギャァァ!』
ティファの決死の突撃!
しかし今度の相手は邪神に非ず、灰虎の猫は見事に飛ぶ梟を捕えて、その翼を爪でえぐった。
どぅと暴れ回りながら転がって行く猫と梟。
ありがとう!
ゾブッ……ゾブブブッ
剣が肉を貫き、身を沈んでいく感触を腕に感じた。
【
青白い炎は瞬く間に邪神を包み込む。
『Oooooo……oooo……』
とてもとても低い怨嗟の叫びの様な悲鳴がしばらく続き、邪神はついに塵となって消えた。
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