23:邪神②

 瞳を閉じて五秒。

 私は三つの瞳に【予知の邪眼】を宿して岩から出た。邪神の【石化の邪眼】は未来予知の通り無効化され、私に効果を発揮しなかった。


 私は手を天に掲げて【天羽々斬剣あめのはばきりのつるぎ】を召喚。改めて見たが長い。なんせ普段使いしている剣に比べて長さは二倍だ。

 だが本来ならば使いにくいはずなのに、金髪の言う通り、この剣の使い方はこの剣が教えてくれてむしろ扱いやすく感じる。そこで得る腕前もまた〝神級ゴッズ〟だ。

 私は自信を持って邪神と対峙し斬り掛かった。

 瞬間、剣と鉤爪が交差した。相手の体躯は校舎ほど、当然力では打ち負けるが、〝神級ゴッズ〟の【物品アーティファクト】は私の体を巧みに操り、相手の力を受け流してくれた。

 交差したのはほんの一呼吸。

 しかしその数は優に片手を超える。

 邪神の体に傷が走りパァツと鮮血が舞った。〝神級ゴッズ〟の剣技は【予知の邪眼】と合わされば、無類の強さを発揮した。

 いける!

 私は勝利の確信を持って剣を振るった。


 一呼吸、二呼吸、徐々に打ち合う時間は伸びていく。邪神の体はその度に血で赤く染まっていた。

 そして剣閃がついに邪神の首を捕えた!

 邪神はそれを護るかのように両手を顔の前でクロスに構えた。


ザンッ!


 チッ一寸届かない!

 だが斬りおとされた邪神の片腕が鮮血と共に空を舞った。


グシャ!


「ぐぇっ」

 腹の下が無くなったかのような痛烈な痛みと共に視界が横にブレた。続いて背中に痛みが走り、肺に溜めていた空気がすべて吐きだされた。


 何が……?


 身を起こそうとするとガララッと岩が崩れる音が聞こえた。

 うぐっ……

『転移するニャ!!』

 脳裏にティファの悲鳴が聞こえ、私は目標を決めずに転移を発動した。


 ランダム転移、薄暗い空に太陽のリングが見えた。

 敵の近くじゃなくて良かった……

 体が落下する感覚を覚えた所で私は意識を失った。







 頬をペチペチと叩かれる感触で目が覚めた。

「ご主人、起きるニャ。ご主人?」

 私を覗きこんでいたのは涙目の私。

 寝起きを泣いた自分に起こされるなんて、すいぶんと新鮮な体験ね……

「ティファ? 私はなんで……

 ハッ邪神は!? 怪我は!?」

「邪神は火口からは動かないようだニャ」

 そして怪我の方はティファが【時空間操作】の裏ワザで治してくれたらしい。

 そんなのまで使えるのかと驚いたが、ペナルティはキッチリ私持ちだそうで、許可なく使われるとヤバい話だったわ。


「あの瞬間、私は勝ったと思っていた。

 ねえティファ何があったのか教えてくれる?」

「ご主人の剣が邪神の腕を斬り飛ばしたニャ。その時に邪神が尻尾を振ったのニャが、ご主人にはそれが視えてないみたいでそのまま壁に叩きつけられたニャ」

「でも私はあの戦いの間、ずっと【予知の邪眼】を使っていたのよ……」

「すまんニャ。【邪眼】でも視えない攻撃のカラクリは解らないニャ

 でもニャア、あのとき邪神の瞳は金色に光っていたニャ」

 瞳が金色?

 思い出そうとするが駄目だ。あの時邪神は手をクロスに構えていて、私からは邪神の顔は見えていなかった。

「いいえティファお手柄よ、きっとそれだわ。

 金色の瞳は私の三つ目の【邪眼】を上回ると言うことよ」

 石化もしない瞳にどれほどの力があるのかは分からないけど、【予見の邪眼】を封じてくると言うだけで十分脅威だわ。

 こっちの攻撃はほとんど効かないのに、あっちには一撃必殺の威力がある。正直、未来予知と言う保険無しで戦える様な相手じゃない。

「あーやめたい!」

 でも次で死ぬって言われてるしなぁ。

「ご主人、次もあちきが全力でフォローするからニャ!

 頑張るニャ!」

「ありがとうティファ、期待してるわ」




 二度目の対峙。

 先ほど片腕を腕を斬り落としたはずなのに、邪神の両手はしっかり生え揃っていた。ズルいなんて言わない、こっちだってさっきの怪我は無しだ。

 問題は、今回、邪神の瞳はのっけから金色に輝いていた。

 なるほどねとひとりごちる。

 先の未来を視ると、その後に取る行動パターンが残像のごとく現れて像がブレるのだが、邪神が金色の瞳を出している時は、残像がすべて無くなっていた。

 予想通りあの金色の瞳によって【予見の邪眼】が封じられているようだ。先ほどはここぞと言う時に開いたのだろうが、種がバレたいまは手加減無しか。

 軽々と【邪眼】を封じてくる辺り、邪神の名は伊達じゃないわね。


「行くわよ」

 返事の代わりに返って来たのは『Gyaaaa!』という言葉にもならない叫び声だった。


 【天羽々斬剣あめのばはきりのつるぎ』】に任せて剣を振るった。しかし剣は寸前どころか、難なく躱され、弾かれた。

 何合か斬り合ってみたものの、先ほどと違いかすり傷一つ無し。

 それどころか、まるで剣筋を予見しているかのような先回りの動作。押すどころか逆に押され、私は徐々に逃げ場を奪われつつあった。

 これは不味い!

 耐え切れず転移。

 しかし出現位置にはすでに尻尾が振られていて、私の体を横なぎに吹き飛ばした。致命傷を避けられたのは〝神級ゴッズ〟が貸し与える剣技のお陰。

 尻尾と胴の間に何とか剣を割り込ませることが間に合い力の限り押し返した。しかし力比べは当然私の負けで、再び壁に叩きつけられて、肺の空気を根こそぎ吐きだした。

「グハッ」

 口から出た空気はまるで紅い霧。いまの衝撃で腹の中が出血したようだ。

 開始数秒で早くもピンチ。

 転移はどうやら居場所を悟られる。ならば【時空間操作】は使えないと判断し、さっさと時間を巻き戻して傷を治した。

 そこまで秒で判断、ペナルティは二秒。


 ヨシっと剣を握り直し、二秒耐えればまだ行けると気合を入れ直す。


 ん? 耐えるってなんだ?

 そんなの最初から勝つつもりが無い奴の台詞じゃないか?

 私は心の奥でとっくに負けていることに気付いた。


 邪神が下半身の蛇を滑らせて迫って来た。

 目前で振りあがる邪神の腕。

 ヤバい避けなきゃ……、なんで避けるのどうせ勝てないのに……


 一瞬の迷いは剣を鈍らせ、私の体は鉤爪に切り裂かれた。

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