25:足の先っぽだけ

 邪神の姿が消えると皆既日食のリングがずれ始めて、ダイヤモンドリングを創り出した。

 へぇ綺麗~

 しかし肉眼で見れたのはほんの数十秒ほど。

 太陽が眩く輝きだし凍った大地を照らして溶かしていくと、やっと世界を取り戻したと言う実感が沸いてきた。


「私、勝ったのね……」

『ご主人! やったニャ!!』

「ティファ!

 無事だったのね、ありがとう! 助かったわ!」

 私は走り寄って来た灰虎猫を抱きかかえてお礼を言った。

 さっきまで梟と死闘を繰り広げていたのか、ひっかき傷やらなにやらで、色々なところから血が流れ、毛並みもぼさぼさだ。

『むむっご主人? 瞳が金色ニャよ』

「金色?」

 そう自覚した瞬間に私はすべてを知った。


 神殺しを成した私は神の能力を簒奪していた。

 そしてこの瞳は、アテナが持つ〝すべてを見通す輝く瞳〟の能力だ。

 そう言えばメドゥーサとアテナを同一視する説があった様な……

 つまりあの邪神ってアテナの悪しき心ってこと!?


『正解です。

 そしておめでとうございます』

『あっ金髪!?』

 脳裏に聞こえたのは久しぶりのソプラノボイス。

 異世界干渉がどうのと言っていたが、邪神が消えたからもうOKなんだろうか?

『相変わらず失礼ですね。

 ですが、見事邪神を討伐して頂いたことですし、今回は大目に見ましょう。

 さあ帰還の呪文を使いますが、準備はよろしいですか?』

『あっちょっと待って、まだやり残したことがあるわ』


 私は【天羽々斬剣あめのはばきりのつるぎ】を呼びだして一閃、もひとつおまけに一閃。

 その二つの斬撃を過去に・・・跳ばした。

 これでよし!


 一つ目は大地を穿ち、二つ目は邪神の瞳を断つ刃だ。

 邪神との戦いで起きた不思議な光景。そのどちらもが、神殺しを成した私がやった事だった。

 未来からの支援だもの、斬った覚えがないのは当たり前よね。

 あんな芸当が出来るのなら、いっそ倒してくれても良かったのにと思ったが、そうするとよくあるタイムパラドックスの話が出てくるから、これが精一杯の助力。

 でもね、後はきっとなんとかなるって未来の私が保障するわ!


『ありがと。もう良いわよ』

『はい。ではまたー』

 本当は二度と会いたくはないけれど、残念ながら私の未来はもう予見されている。

 近い将来、再び出会うのは必然だ。



 眩い光が消え去ると見慣れた自分の部屋……じゃなくて、

「えーっなんでここぉ?」

「お帰りなさい」

 そう言ってニッコリと微笑んだのは完璧容姿を持つ金髪の美少女。

「あらお忘れですか、先ほどまたーと言ったではないですか」

「こんなに早くのつもりはなかったわよ!」

「まぁまぁ、少し落ち着いてください。

 いまからとても大切なお話をいたします。心して聞いてくださいな」

「何よ?」


 私が聞く姿勢を見せると、金髪はまた完璧な微笑みを見せた。

「すでにお気づきだと思いますが、あなた神殺しによって倒した神の能力を簒奪しました。そのためあなたは足の先っぽ程度ですが、神と呼ばれる存在に至りました。

 わーパチパチ、おめでとうー」

「神? 私が?

 ええっなにそれ聞いてないんだけど?」

「ですから先ほど、とても大切なお話と申しましたよ」

「いやこうなるの知ってたんでしょ、だったら殺る前に教えてよ……」

「今回は殺るか殺られるかでしょう? 聞く余裕なんてどこにもありませんわ」

 美少女の口から、殺るだの殺られるだのと、やたら物騒な台詞が出てきた。

 せっかく男性召喚者を騙せる可愛らしい容姿をしてるんだから、もう少し言葉使いに気を使って欲しいわね。



 金髪の話は続いた。

 まず私が持っていた【特殊能力アビリティ】は軒並み能力が上がったらしい。さらに【物品アーティファクト】も〝クラス〟が上がり、〝神話級ミソロジー〟を越えて〝神級ゴッズ〟に変わった。

 ただし最初から〝神級ゴッズ〟だった【天羽々斬剣あめのはばきりのつるぎ】は変化なしだそうで、残念!


「具体的に〝神級ゴッズ〟になるとどうなるの?」

「そう言えばその子は、簒奪したアテナの影響で〝随神〟になりましたから、〝級〟なんてもはや関係ありませんね」

「〝随神〟?」

 ニャッと掛け声を上げるとティファの姿がうにょんと融けた。

 新たにかたち取ったのは白い梟で……

「白い梟はアテナの眷属と言われていますわ」

 だからって猫以外の姿はねぇ?

 それはもうアイデンティティの崩壊ではないかと思うのだが、本当にいいのかなぁ。


「簒奪した能力はおいおい発現すると思います。

 話は以上ですが、何か質問は有りますか?」

「じゃあはい!

 私はどうなるの?」

「別に何も、今まで通り暮らしたらいいと思いますよ」

「足の先だけでも神様なのに本当にそれでいいの?」

「そちらの進路がお好みでしたらご用意しますが、あなたはわたくしの後輩なんてお嫌でしょう?」

「もちろん嫌よ」

「だったら話は以上です、では今度こそ送りますわ」

 二度目の転送は見慣れた自分の部屋の中。


 私が神様ねぇ……

 今年の初詣は、もしかしてお賽銭を貰う側なのかしら?

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