26:管理局
管理局日本支部。
そのとある一室では、管理局の支部長が顔を突き合わせて会議を行っていた。ただし実際に顔を突き合わせているのではなく、ホログラムによるリモート。
支部長自らが国を離れることなど殆どない。
最初こそ月に一度の定例会議だった。
それは退屈極まりない、〝異常なし〟を聞き続けるだけの苦行の時間だ。しかしそこに、高沢真理が通算五度目の異世界に旅立ったと言うピンポイントの報告が入って、会議は一気に紛糾した。
過去の事例で、同一人物による異世界召喚の最高回数は三度。
高沢真理はそれを二度も上回っていた。
「五度も【
「いえ過去四度のうち一度は、同一召喚者からの召喚でした。従って彼女が持っている【
まあ今回で四つ目の可能性はありますがね」
強面の日本支部長がニヤッと嗤った。
ぶっ殺すぞと言わんばかりの笑みだが彼にとってはこれは愛想笑いだ。
「同じ召喚者の場合は新たな【
そう言っているのは、くだんの高沢真理だけだろう。ならば嘘をついて新たな【
別の支部長が報告書を捲りながらそう指摘した。
「だが【嘘看破】の【
それを別の支部長が不毛な議論だと面倒くさそうに返した。
「ふんっ相手は四度も異世界に渡った
「馬鹿な! それを言っては終わりだと気づかんのか!?」
「ふんっ本当に【
君の様な日和見主義者がいまの様な現状を招いていると何故気づかんのだ」
嘘を看破しているのが【
事は【嘘看破】だけの話では済まなかった。
前者は召喚を受けた者を上手く利用したい懐柔派の発言で、後者は【
そのどちらでもない日本支部長はまた始まったと顔を顰めた。
「彼女の担当地区である日本支部長はどう考える?」
「そうですなぁわたしは彼女を信じますよ」
彼は考えるまでも無く即答した。
「根拠は?」
「勘です。真理くんは良い子だ。だから信じられる」
「ハッ片腹痛いとはこのことだ。
彼女がこの世界に混乱や破壊をもたらすかもしれないと言うのに、きみ個人の勘で片づけるとはお笑いだ」
「そうかね」
真理に対しては抜き打ちの試験の様な事もしてきた。だが彼女はある程度の妥協ラインを示せば常識を大きく逸脱するような行動は
言葉にするのは難しいが、その経験則こそが彼の勘の正体。
「洗脳は無理だろうか?」
「無理ですね。
高沢真理の持つ【邪眼】のアビリティはそちら方面の【
「では拘束か暗殺はどうだろう?」
「本気ですか!?」
日本支部長が吠えた。
「その手の事はきっと彼女の方が得意でしょう。よく考えてください。彼女は誰よりも多くの回数、異世界から戻ってきている手練れなんです。100%ではまだ足りない、120%倒せる算段が無ければ彼女はきっと生き残ります。そしてもしそうなったならば、我々は二度と守護された部屋から一歩も外へは出られないでしょうね。ゆえに私は賛成しかねます」
「ッ臆病な。
議長、念のために投票を頼む」
真理からそれなりの利益を得ている懐柔派の一人が否定的な意見を口にしたが、撲滅派は自らの意見を強行した。
「馬鹿な! 明確な理由も無しに決めて良いわけがない!」
当事者にもっとも近い立場の日本支部長の叫びは当然の様に議会から無視されて投票が実施された。
日本支部長は舌打ちを漏らしながら反対に票を入れた。
結果は反対多数で否決。
事前に出た、リスクと言う言葉に流された結果だった。
会議が終わりすべてのホログラムが消えた。
真っ暗の闇の中、日本支部長は深いため息を吐いた。
異世界に行き、戻った者が、異世界の調子で暴れて沢山の人が死んだ。
それを管理・抑制するためにこの組織が誕生した。
日本支部長も本当に危険な相手ならば封じるのは止む無いと思う。
だが今日のやつは違う。彼らの祖国の軍事力に匹敵する者の存在など許さないとばかりに、撲滅派が彼女をつるし上げて殺そうとした。
賛成に票を投じたのはその国とそれに追従する国ばかり。最近はめっきりこういう事が増えてきた。
今回は回避できた。だが次も回避できるかは解らない。
もしも議会が真理くんを殺すと決定したならば、俺はどちらに付くべきかね……
※
高沢真理が戻って来た。
今回はなんとたったの三日だ。
エレベーターが着いた音が聞こえてドアが開いて、エレベーターから降りてきたのは真理くん一人。これはいつも通りのことだし、彼女の表情が苦虫を噛んだかのように不本意さを隠していないのもいつも通り。
「やあ真理くん、また行ってきたそうだね」
「はい。残念ながら行ってきました」
「召喚の目的は後で報告書を読ませて貰うとして、さて今回はどんな【
真理くんがおもむろに手を前に突き出すと、次の瞬間にはその手の中に剣が現れていた。一メートル以上ある、とても長い片刃の剣。
彼女はそれをわたしの座るテーブルの上に置いた。
ゴトリと重苦しい音が部屋の中に聞こえた。
「これは【
「はい。【
「神様を倒すとは穏やかじゃないな。
そもそも神様と言うのは人に倒せるモノなのかね?」
「ですよねー!! この剣貰っても勝率は3.83%だと金髪に言われましたよ」
「ほぉそれでよく勝てたもんだ」
「まったく同感です。瀕死が二回に未遂が一回、いやほんとよく勝ったと思いますよ」
彼女が聞かれていないことまで喋るのはいつもの事。
そして嘘が無いのもいつも通りか。
「ああそうそう。解っているとは思うけど、その【
「あははっ判ってますって。そもそも剣なんて日常で使いませんよー」
真理くんは苦笑を浮かべながら剣を消した。
まてよ……
車からこの部屋まで、異世界の品を封印するための札が貼ってあったはずだ。
なぜ彼女は剣を出したり消したりできた?
「真理くん?」
「はいなんでしょう」
「さっきの剣だがね、いつもの【
今まで生きてきた中で、これほど、『素直に答えてくれよ』と願いながら聞いた質問は無いだろう。
「う~ん、そうですねぇ。
いつものは〝
「なるほど、そう言う違いがあったのか。どうりで凄い剣だと感じるわけだね」
俺は密かに胸を撫で下ろした。
ああよかった、真理くんはまだ大丈夫だ。
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