33:決別
テスト期間に呼ばれた時は焦ったが、八割の授業は有難いことに休み明けに追試があって何とか単位を取得することが出来た。単位0で卒業できるから受けなくてもいいじゃんってのは詭弁。将来の夢が〝一般人〟の私ですから、特例を使わずに済むなら迷わずそっちを選択しますとも。
さてあれから二年半、どこからも呼ばれることはなく、大学は三年生の後期に入っていて、最近では大学生活におけるラスボス〝卒論〟の名が聞こえ始めている。
ここ二年の日々は平凡そのもので、大学で講義を受けて単位を取得、講義の合間にアルバイトを入れてお金を稼いでいた。
単位もお金も管理局から貰った特権によって約束されているから、こんな事をする必要は無いのだけど、何度も言うが私の夢は〝一般人〟なのだ。
周りから浮かないってのはとっても大切!
ある晴れた日の昼食後のこと。次の講義を受けるため、上にいくエレベーターに乗ったはずが、私は淡い光にぽっかり包まれた不思議な空間に立っていた。
「あーもうくっそー! 油断したぁ!」
そんな事を考えていたからフラグが立ったんだ!
「お久しぶりです。えーと自己紹介は必要ですか?」
光の束が集まって人の姿を形作ると、可愛らしいソプラノボイスが聞こえた。膝まである癖のない金髪を持つ美少女。
すっかり見慣れたあの女神だ。
「要らないわよ!
あっそうだ。この前はありがとう助かったよ、女神さま」
私は顔を上げることも無く返事した。
だからもう少しだけで良いので立ち直る時間をください女神さま。
「ん~っと、あちらから戻ってくる時間のお話ですか。お役に立てて良かったです。
ところで落ち込んでいる所に申し訳ないのですが、そろそろ手順を進めても良いでしょうか?」
「手順ってことは今度はファンの世界じゃないのね」
「はいそうですよ。嬉しいですか?」
次に呼ぶのは滅ぶときと言って別れたから、呼ばれなくて良かったとは思う。だけど嬉しいかと聞かれるとう~んって感じだね。
まあその質問が新しい【
間違いなくこの女神そう言う意味では聞いてないよね。だって顔がにやけてるもん。
もう少し表情を隠せば美少女っぷりをアピールできるってのに、勿体ないよねー
「むむむっ! いまわたくしを馬鹿にしましたね?」
「してないから、さっさと話を進めてくれる」
流石は神ね、勘が良いわ。
「釈然としませんがまあ許して上げましょう。
こほん。
今回は〝【
金髪が両手に抱えるほどの光の束を私に差し出してきた。
このパターンは一回目の世界に行った時にすでに経験済みなので、説明を聞かなくとも解っている。
この光の束は駄菓子屋の飴の付いた糸と同じ。ただし先に付いているのは飴ちゃんじゃなくて、数多の【
さーてどれにしようか……、んんっ!?
糸を選ぼうと思ったところで、あまりの違和感さを覚えて二度見した。
「ねぇこれ、なんなの?」
何がって、金髪の持つ光の束から蛇が鎌首を持ち上げたかのように、一本の糸が束を抜け出して左右に揺れながらアピールしているのだ。
「引いて~と言うアピールですね」
「これ、女神さまがやってるの」
まさかと金髪は否定した。
「ああ、もしや気づいていませんか? いまあなたの瞳に〝すべてを見通す輝く瞳〟が宿っていますよ。まだまだ使いこなすには至っていないのですが、神界に近いここだと能力が発現しやすいのでしょうね」
「えっ?」
言われて注力してみれば確かに私の瞳に神の力が宿っていることがわかった。
その名の通りすべてを見通す神の瞳。それがこれを引けと言っているのだとすると、これが一番のアタリと言うことになる。
しかし、
「これってイカサマみたいなんだけど、いいの?」
「その質問はむしろわたくしから致しましょう。
それを引くなら二度と〝普通〟には戻れなくなりますが、本当によろしいのですか?」
「えーっ私の将来の夢は〝一般人〟なんだけど~」
本当はそんな糸は引きたくない。だけど私は異世界というものが、最善の選択をせずに帰って来られるほど甘くはないことくらい知っている。
死して夢が潰えるよりは、自らの意思で夢を断ち切る方が、いっそ私らしい。
「ハァ……」
私はため息を吐きながら鎌首を上げていた糸に触れた。
不思議なことに光の糸はそのまま私の体内へと入って行き、最後に飴玉っぽい小さな丸い先端と共にすっかり体の中へ消え失せた。
「やはりその選択を致しますか……」
そう呟いた金髪の表情は硬く、唇を苦々しく引き絞っていた。
これじゃ美少女が台無しじゃんと苦笑するしかない。
「あれ……【
と言うか、えっ? ええっなにこれ!? 全部消えてるじゃない!?」
どういう事かと、私は慌てて金髪に視線を向けた。
金髪の表情は先ほどと変わらず苦々しい。
だがその顔に変化が……、いや顔じゃない……?
金髪の透き通るような白い肌が、いまは本当に透き通っていて、その肌の内側にいくつもの歯車が視えていた。
カラフルで大小様々の歯車たちが、まるでスケルトンタイプの時計の様に、カチッカチッと規則正しく動いていた。
ただし時計と違って金髪を創る歯車の数は圧巻の一言で、極々小さなものまで入れれば数万、いや数億さえも超えるかも知れない。
なにこれ!?
目をごしごしと指でこすり再び金髪に目を向けた。しかしやっぱり金髪の肌は透けていて、内部に歯車が視えている。
「あれっおかしいなぁ。ねえ金髪、あんたの体に歯車が埋まってるように視えるんだけど、なにかなこれ?
実はあんたがロボットっていう訳ないよね」
「それこそが貴女が選んだ運命です。
さてここであなたと会うのはこれが最後でしょう。次に会うのは神界か、それとも神々の黄昏か。
さようなら高沢真理、わたくしは貴女の小生意気なところ、意外と好きでしたわ」
パチンと指を鳴らす音が聞こえると、私は暗い穴に落ちていった。
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