03:ようこそ三度目の世界へ
暗いトンネルをしばしの間、浮遊するに任せて抜けた。トンネルの先はお昼だったのか、突然眩い世界にポンっと放りだされる。
普通の人ならば視界が戻るまで何も見えないだろうけど、今回が召喚三度目の私には関係ない。すっかり慣れてると言う残念な話じゃなくて、過去に貰った【
栄えある第一度目に貰った【
今回の『【
これを得たのは中学一年生の夏休みの事……、ってそれはどうでもいいや。
私はキョロキョロと周りを見渡した。
今回呼び出された場所はどうやら森らしい。いままでは大抵、王宮とか地下とかの室内ばかりだったのでちょっと新鮮。
いやいや、新鮮さを求めてどうするよ自分。
人の気配を感じて後ろを振り返ると、そこには中学生くらいの少年が一人立っていた。金髪に色の濃い青い瞳、細見でやたらと顔の綺麗な少年。
確かに綺麗だけど……う~ん。
まったく似合っていない輪郭をはるかに超えるドデカい眼鏡が醸し出す違和感ったら、もう顔の綺麗さとかどうでもいいほどに霞む。
「あ、あのっ」
「あんたが私を呼んだの?」
私は立ち上がりつつ、何かを言い掛けた少年の言葉を遮り質問した。
「はい、そうで……」
言い終わる前に私は少年の襟首を掴み捻り上げた。
「ぐっえっ……止め……」
捻る手に手心を加えて緩めつつ、少年を睨みつけて、
「私さぁ今回で呼ばれるの三度目なんだけどさぁ。
あんたたちが何考えて、他の世界の人間を自分の厄介事に巻き込んでるのか、教えて貰って良いかなぁ?」
言葉には何の感情も込めずに、ただ事実だけを淡々と伝えたつもり。
「ご、ごめんなさい。僕はただ自分の魔力と相性のいい強い人をっ」
襟首を掴んでいた手を乱暴に振り払うと、少年は尻餅をついて転んだ。解放された少年は怯えの表情を見せたまま、ズズズッと私から距離を取るように後さずった。
「強い人?
ははっそりゃあ強いさ」
だって私は伊達に二度も異世界に召喚されていない。
一度目の世界ではお決まりの魔王とやらを倒したし、二度目の世界では人魔戦争に巻き込まれて人類の勝利に貢献した。
実戦経験は間違いなく豊富だ。
最初に呼ばれたのは中一の一学期最後の日。雑木林で光る竹に歩み寄ったら転移した。そして異世界から戻ってから、ノリノリで周りに話したお陰ですっかり不思議ちゃん呼ばわり、挙句にみんなから敬遠された。
誘拐を疑った警察も親もこぞって精神科を薦めてきてお世話になった。
二度目は、戦争が長引き異世界で一年と四ヶ月を過ごした。三年生はほぼ欠席で、戻った時にはすっかりクラスどころか学校で浮いた存在になっていた。
そして三度目の今回、十八歳の私はついさっき大学受験を諦めた。
こんな子供に言っても八つ当たりにしかならないだろうけど、文句くらい言っても良いじゃないか!
「ぽんぽんっぽんぽんっ呼びやがって! あんたらの呼び出しの所為で、私の人生ぐちゃぐちゃだよ!!」
「ご、ごめんなさい……。でも、僕」
叫ぼうが喚こうが、そして泣こうが、どうせ無駄。
そんなことはとっくに解っている。
ハァ……魔王も倒したしそろそろ邪神でも倒せって言われそうじゃない?
私は「よし」と声に出して両頬をパンと叩いて景気を入れた。
さて私を呼んだ少年はファンと名乗った。年齢は十四歳だそうだ。
「私の名前は
私の自己紹介に続いて足元から「にゃーん」と聞こえて、尻尾と両前足の先端だけが黒い灰虎の子猫がすり寄ってくる。自分もいるよと言うアピールに違いない。
とてもそうは見えないけれどこれでもこやつは〝
ヒョイと猫を持ち上げて─どうやら雌らしい─、後で名前付けてやらないとな~と思えば、『名前はニャいから好きに付けてくれていいニャ』と脳内に返ってきた。
ちょっと驚いたけどその話は後。まずはファンから依頼内容を聞いて、今回の帰還条件を知らなければならない。
すると脳裏に『分かったニャ』と返事があった。
「それで私に何をさせたいのかしら?」
「実は決闘を申し込まれてしまいまして、伝統に則って召喚魔法を使ったのです」
落ち着きを取り戻したファンはいい所のお坊ちゃんと言う感じで、とても丁寧な口調で話しかけてきた。
「厄介な伝統ね……」
「はい、真理さんにはご迷惑をお掛けしました」
いきなりの名前呼びに驚くが、すぐにああそうかと合点がいった。日本風に名乗ったのだから逆に認識されてしまったのだろう。
「相手は貴族の、えっと貴族って解りますか?」
私は無言で頷く。過去の召喚でその手の事は大体知っている。
「相手は侯爵の令息なんですが、僕の事が気に入らないらしく前から色々と難癖を付けてきました。
何度か躱していたのですが、今回はどうしても回避することが出来ずに、ついに決闘することになりました」
「その決闘に勝てばいいの?」
「そうです。あのっ失礼ですが真理さんはどこの出身ですか?」
質問の意味が分からずに私が首を傾げると、
「召喚される前の世界の名前などが聞きたいのですけど……」
「ああ〝地球〟の日本から来たわよ」
するとファンは「〝地球〟……、う~ん聞いたことが無いなぁ」とブツブツと言い始めた。驚く事にここは、
「すみませんやっぱり思い出せない様です。
そのぉ、〝地球〟と言う世界はどういった世界ですか?」
不勉強で済みませんと謝罪するファン。
謝るところが若干ずれているのは、この世界の常識の問題であろう。
「〝地球〟はね。科学文明が発達していて、魔法は無い、魔物も居ない。銃とかミサイルとかそんな物騒な兵器があるわね」
それを聞いたファンは目を見開いて驚いた。
「銃ですか!!
良かったぁ~相手の侯爵の
魔法が届く距離よりも先にそれで撃ってくるんでアイツ負けなしなんです!」
「喜んでいる所を悪いんだけど、私、銃なんて持ってないわよ」
探せば一般人が銃を持って道端を歩いている国もあるかもだけど、日本人の私は当然だが持っていない。
「えっ!? じゃあ何で戦うんですか!?」
「武器って言うと、剣かなぁ?」
それは聞かれたから答えたと言う程度の話。
「だったら魔法は!? あぁ地球にはないでしたっけ……」
露骨にガクリと項垂れるファン。
まるでもう負けが決まったかのような態度にちょっと苛立つが、それよりもいまは状況を聞く方が先だとグッと我慢した。
最初にルールの説明を受けた。そもそも決闘と言うから、相手を殺して良いかも分からなかったのだ。
いやぁ聞いておいて良かったよ。
「ダ、ダメですよ殺しちゃ!!」
慌てて首を振るファン。
「良いですか、この首に掛けたペンダントを破壊したら勝ちとなります。
だからこれを狙ってくださいね」
「でもさ相手は銃なんでしょ、弾が私の体に当たれば当然怪我するよね。
当たり所が悪いと即死すると思うんだけど?」
もしも私が銃を持っているならば、相手を無力化するために手っ取り早くヘッドショットをするだろう。
物騒な話なんて言わないで欲しい。
過去二度の経験で、殺せるときに殺す必要性を私はとっくに学んでいる。
「確かにそうですが、その場合はペンダントが代わりに弾けて壊れます。
追撃さえしなければ無事ですから、それだけは注意してください」
ふうんと私は生返事を返した。
流石は命のやり取りも無い代理決闘なんかで、召喚魔法を使うような世界ね。
他の世界にはもっと切羽詰った理由で召喚する人たちもいるってのに、身の安全が保障されてるんだったら自分でやれっての!
「まあいいわ。それで決闘はいつから?」
呼ばれた理由は気に入らないが、もう呼ばれちゃったのだから仕方がない。
後はきっちり仕事をこなすだけよね。
「実はこの森が決戦会場になります。
場所を僕が指定したので、時間はあっちが指定していまして、僕の召喚が終わってから二十分後になっています」
「それって?」
「あと五分くらいしかありません」
場所を決めたら時間はあちらが~というルールだそうで、ファンは場所を選び銃の射撃から逃れるために
ただし召喚に応じて出てきたのが近接武器持ちの私だったからガッカリしている。
ファンの場所に対して相手の方は、ファンがまだ
「森を上手く使えば相手に接近できるかもしれませんね……」
だったら剣が届く位置まで行けるかも~とファンは呟く。
「ねぇ始まる前から負ける前提で話されるのは苛立つんだけどさぁ?」
「す、すみません。そんなつもりは無かったんですが、あいつの
聞けば過去に
「へぇ~それは奇遇だわ、丁度私も今回が三度目よ」
口角を吊り上げてニヤリと笑う
ただし前の二度は命のやり取りの無い決闘なんて生ぬるい話では無くて、純粋な殺し合いだったけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます