04:代理立てるなら決闘すんな!

 これから戦うのに肩甲骨まで伸びた・・・・・・・・黒髪が邪魔なので、制服のリボン巻き付けて髪を高い位置で結んだ。

 俗に言うポニーテールと言う奴だ。


 続いて、おもむろに空間に手を突っ込んで武器を探る。

 手を入れているのは、二度目の世界に行った時に貰った【贈り物ギフト】で【時空間操作】の能力の一つ【保管庫】だ。

 適当に武器を放っぽいていたので探すのに一苦労する。

 おっ! あったあった。

 すずぅ~と取り出したのは二つ目の世界で手に入れた〝伝説級レジェンド〟の両刃剣グラディウス。古代ローマが舞台の映画などでおなじみのアレ。

 流石に【贈り物ギフト】で貰う〝神話級ミソロジー〟には及ばないが、〝伝説級レジェンド〟の名は伊達じゃない。

 斬ってよし突いてよしの優れもの。



 これから始まるのは代理決闘ゆえに召喚者を害するのは禁止─狙ったら代理の意味がない─。その代り召喚者もこちらに手出し無しなので一対一が保障されていて気が楽だ。

 しかしすぐに、『なにを勝手に一対一だと思ってんだ』と、自分を戒める。

 相手の相方パートナーの数を聞いていないのに勝手に一対一だと思いこむなんて、私もすっかり平和ボケした様だ。


 瞳を閉じて・・・・・そんなことを考えていると、ドーンとドデカい音が森中に響き渡った。

 決闘の開始の合図は、天高くに撃ちだされて破裂した火炎魔法の爆発音だ。景気の良い音が辺りに響き渡り、決闘が始まった事が告げられた。


 さてと、行くかな。

 私はひょいと上を見上げて、その場から・・・・・消えた。次に現れたのは、先ほど見上げた虚空。

 続けざまに視線の先へと消えては現れ、現れては消えてと繰り返す。あまり距離を開けると感覚が狂うから短く飛ぶのがコツだ。

 先ほどと同様、これは二度目の召喚の時に貰った【贈り物ギフト】で【時空間操作】の能力の一つだ。

 金髪から『今回は〝【特殊能力アビリティ】(選択)〟ですよ』と言われたので、もしかして帰れるかもと思いこれを選んだ。

 しかし目論見は外れて、召喚時の【制約のろい】により使命を終えるまでこの身は、その世界に束縛されていて転移不能だった。

 出来ないなら最初から言って欲しい。

 まあ代わりにお母さんに手紙が送れたから完全に無意味ってわけじゃなかったけどさ。




 森の障害物を利用するでもなく、私は森の上空を小刻みの転移で飛んで進んだ。

 相手は銃だから危ないと考えるだろうが問題は無い、避ける自信があるから私は障害物無しの最短コースを進んでいる。


 次の瞬間、右の瞳・・・が一瞬何かを捕えた。

 すんでの所で首を少し横に倒す。

 その瞬間に耳の横を掠めて弾丸が飛び去って行った。私はとっくに一般の女子高生ではないけれど、それでも飛んでくる弾丸を目視するような異常な人種ではない。

 これは一度目の召喚の時に貰った【贈り物ギフト】で、数ある【邪眼】の一つだ。一つの瞳に宿せる邪眼の能力は同じく一つ。

 今回は右の瞳に【予見の邪眼】─今回は一秒先を視ている─、左の瞳には【感知の邪眼】をセットしている─こちらは上空から見る神の視点、つまりカーナビの様なものだ─。

 【邪眼】の切り替えは瞳を閉じて五秒が必要。

 先ほど決闘の開始前にセットしておいた。

 この【邪眼】は〝【特殊能力アビリティ】(ランダム)〟で貰った物だが、当時中一だった私は大層喜んだのを覚えている。

 はぁぁ~何をはしゃいでいたのか、今ではすっかり黒歴史だわ……


 再び弾丸が迫る。

 それを躱すと自然に口角が上がりニィと嗤った。

 今のコース、相手は完全にる気じゃないか。私が避けなければ眉間のどん真ん中に風穴開いてたよ。


 一発目を避けると二発三発と断続的に弾丸が飛んでくる。射撃の間隔が広いから予想通り狙撃銃の様にも思えるが、弾丸の飛ぶ場所がずれているので小刻みに移動している様だ。移動とリロードを同時にこなしているのか、それとも連射の効く銃か、いや【贈り物ギフト】の可能性もあるか。

 なんにしろ油断は禁物だ。

 避けられる物は避けて、体を狙ってくる物は転移でずらす。


 敵は時折二発同射も混ぜ込んでくる。

 僅差と体を狙う雑把な奴、二発目は反動で狙えないのかそれとも大きく避けさせるのが狙いなのか。

 まぁいいか。

 私は軽く首を捻って一発目を、剣で弾いて二発目をやり過ごした。

 一定間隔の単調さはなく、嫌らしくも丁寧な射撃だ。

 なるほど相手の腕は相当に良いのだろう。




 敵がどんな奴かは知らないが射撃しながら森を歩く速度よりも、普通は森の上空を真っ直ぐ進む方が移動は早い。

 開始して五分も経たないうちに、私は【感知の邪眼】で敵を捕捉していた。

 迷彩塗装と茂みをどれだけうまく使って身を隠そうが、上から見下ろす神の視点カーナビからは逃れられない。


「よっと」

 最後の転移は、ほぼほぼ相手の隣へ移動してやった。つまり剣が届く距離と言う奴だ。

「ど、どうしてここが!?」

 狙撃用のロングバレルの銃から短銃に替えながら相手が叫ぶ。

 遅いよと心の中でだけ言って剣を一閃。短銃を持った方の手を、手首からスッパリ斬りおとす。

 手首と鮮血が舞う中、剣を引き今度は鼻っ柱に向かって容赦ない刺突を見舞った。

 しかしなんでも穿つはずの〝伝説級レジェンド〟の剣は、見えない何かに阻まれてパキィンと言う音と共に弾かれた。

 しくった!?

 敵の防御系【物品アーティファクト】かと、阻まれた剣を振り被り、今度は脳天に向かって降り下す。

 視線の端に金属の破片が舞うのが視えて……

 あっヤバッ!

 慌てて剣を握る手を解放、憐れ〝伝説級レジェンド〟の剣は私の手を離れて、くるくる回転しながら近くの樹にガッと音を立ててぶっ刺さった。飛んでくついでに相手の額を少し削ったけど生きてるからノーカン。

 舞っていた金属片は、事前に説明を受けた命代わりのペンダントの破片だった。

 ふぅ~危ない危ない。危うくルール違反になるところだったわ~


「うぎゃぁあ。ヒッヒィィ」

 無くなった手首を抑えながら泣き叫ぶ敵。

 前の二回の決闘は安全圏から正確な射撃だけで勝ったのだろう。正確で卒ない射撃、確かに納得の腕前だ。

 しかし今回初めて接近され、おまけに殺意丸出しで三度も斬られそうになったのだ。

 そりゃ怖いよねーと、他人事のように冷めた視線を送った。


 どこかでまたドーンと言う音が聞こえた。

 たぶん決闘が終わった事を示す合図だろうと思ったが、これで気を抜くほど私は生ぬるい世界を旅していない。


 ……しかし予想に反して何も起きなかった。


 そう言えばここは命のやり取りの無いぬるぅ~い決闘なんかで召喚魔法を使うような腐った世界だった。

 どうやら私は一人で殺伐としすぎていたらしい。


 いまだに亀のように首を引っ込めて丸まっている相手に、

「悪かったわね。決闘が終わったみたいだよ」

 と、手を差し伸べてみたのだが……

 その返事を聞く前にそいつはフッと消えてしまった。



 しばらくするとファンが、にこやかな笑みを浮かべて走って来た。

「真理さん凄いです!! まさか勝てるとは思いませんでした」

 その言葉に苛立った私は再びファンの胸ぐらを掴んで捻り上げると、

「呼んだあんたが私を信頼しないってのはどういう了見よ!

 誰がなんと言おうが、あんただけは私の勝利を信じて待つべきでしょう!」

 言い終えるや乱暴にペっと捨てて、短く「帰る」と告げた。


 ファンは無言で、召喚魔法を詠唱し始める。そして消える瞬間に、「ごめんなさい」と深々と頭を下げて謝罪した。




 目が覚めると自室のベッドの上だった。

 今回はの異世界生活はほんの二時間も居なかったぞと、ベッドの上でぐっと両手を握った所に、

「にゃ~ん」

 尻尾と両前足の先端だけが黒い灰虎の子猫が、ベッドの上にひょいと飛び乗って来て私に向かって鳴いた。

「うわぁ。お前なんで?」

『【贈り物ギフト】の【物品アーティファクト】だからニャ』

 私の脳内に、ふふんとなんだか自慢げな猫の声が響く。

 猫……

 う~ん名前が無いのはやっぱ不便だわー

「よーしお前の名前はティファだ。決めた!」

『安直だニャ~』

「煩いよ」

 例えアーティファ・・・・クトから名前を取ろうが、語尾に『ニャ』を付けるお前にだけは言われたくない。


 ティファと騒いでいると、バタバタと階段を上がっる足音が聞こえてくる。

 ガチャっとドアが開き、入って来たのは私のお母さんだ。

「声が聞こえたかと思ったら、真理っあなたまた!?」

「ん~ちょっとまた召喚されちゃってさ」

 はにかみながら片手で頭をカシカシっと掻き上げた。

 苦労の末にやっと異世界に召喚されている事を信じてもらえるようになったのだ。

「やっぱりそうなのね。でもまぁ今度は三日間で済んでよかったわね」

 ただし遅くなるなら手紙を送ってくれたらいいのに~と愚痴交じり。

「へ、三日? あっちには二時間しか……」

「胃腸風邪ってことにしておいたから、今日から学校に行きなさいよ」

 私の話はどうでもいいとばかりにお母さんはそれだけ言うと、ドアを閉めて階段を降りていった。

 二時間が三日、時間軸が違う一番ヤバい奴じゃないかと、遅まきに私は青ざめた。

 だってあっちに一年居たらこっちでは三十六年だよ!?

 戻ってきたらすっかり浦島で、高校なんてとっくに中退じゃないか!


 しかし私はまぁいいか~と呟きベッドに倒れ込む。

 だってまぁもう終わったことだしね。良かった良かった~と、大きく伸びをした。

 楽観過ぎると言うなかれ。

 こんな性格にでもならなければ、三度も呼ばれて平気でいられるわけが無いじゃん。

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